あ行 か行 さ行 た行 な行 は行 ま行 や・ら・わ行 



〔あかざ〕    
立房s20p13  つやつやと日に輝ける紅のあかざがありてこころなぎなん
立房s20p14  紅にあかざうらがれんこの原にゆふべの光しばし射したる
立房s21p63  心充ちし日々といはなくに蓼の茎あかざの茎のうつくしき時
―再掲
立房s21p64  丈たかきあかざも蓼も枯れゆかん明るき道に日は香ぐはしく
帰潮s22p31  行きずりに手をふるるとき道ばたのあかざも萱も冷たくなりぬ
帰潮s24p96  赤らみてうら枯れわたる藜にも山牛蒡にも光さしをり
形影s42p32  この原の季にしたがひて移るもの藜の朱は特にかがやく


〔あかしあ(注)〕
立房s21p44  帰るべき日はちかづきてアカシヤの白花房もこころしむもの
地表s30p85  砂照りて咲くアカシアの白き花わが帰り来る砂丘の終り
冬木s39p47  アカシアの木立のなかに雪のこるところを過ぎて波遠き浜
形影s43p41  冬浜の雪より立てるアカシヤの幹光あり吹く風のなか
星宿s56p59  街路樹のみどりのなかの白き花アカシアが咲くゆききの道に



〔あかんさす〕
黄月s58p19  そのかげに二人立ちにし日の過ぎてアカンサス花の残るくさむら


〔あけび〕
立房s21p44  北窓のせまき庭にはつよき日の光ゆらぎて木通の葉あり
立房s21p68  散りのこる通草の黄葉したしみて明けくれしかどつひに終りぬ
帰潮s24p85  通草の芽岩蕗などのひでしもの田沢の村の夜に食ひたる
地表s30p86  ゆく春の峡のひかりに紫の通草の花のさくを惜しみつ
天眼s50p24  画にかかず机になえしあけび二つ心きほひなく秋すぎてゆく


〔あさ〕
立房s21p28  わが妻が今夜荷物より取りいでし麻の一束さながら清く
立房s21p38  釘にかけていまだのこれる一束の麻を清しといひて手ふれつ


〔あさがほ〕
軽風t15s2p15窓そとの朝顔の葉に音たてし朝の雨はすぐやみにけり
星宿s57p92  戦の日にあひ見たる朝顔のはかなき花を君は忘れず


〔あし〕
軽風t15s2p9 幼くて沼の田にひたり葦の根を掘りにし昔思ほゆるかも
軽風t15s2p16葦叢の中あゆみ来てわが見れば水の流れはあわただしけれ
軽風s3p21   川原に刈りのこされし葦叢はゆふべに鴨の寝につくところ
軽風s4p36   葦原をなびけて風はさわげども葦のこもりに吾は居りけり
軽風s4p40   いささかの水は光りて砂浜のつきしところに葦芽ぶきたり
軽風s8p93   音たてて南風ふき葭切が葦のなかにて鳴けばやさしも
歩道s9p30   いま暫しあらき光に雪はふり枯れたる葦のうへに乱りぬ
しろたへs16p34葦の間は池一面におほひたる菱の葉むらが乾きてゐたり
立房s20p15  蓼も葦も枯れたる溝はきぞのよの時雨はれしかば水きよくして
―再掲
立房s21p26  冬のまに風切れしたるそこばくの枯葦の茎日にしかがよふ
立房s21p71  湖岸のみちあゆむとき葦原のひまにちかぢかと釧路川みゆ
立房s21p71  葦原をゆきつつ見ゆる塘路湖も釧路の川も水の音せず
立房s21p73  湖ぎしの道をあゆめばもみぢばの柳も葦もゆふぐれんとす
―再掲
立房s21p73  葦原の上おほどかにあかねさし湖の西に日はかたむきぬ
帰潮s22p16  枯葦の茎のたぐひは春ふけし沼のなぎさに波にただよふ
帰潮s23p64  島のごと見えし葦むらに近づきて葦ふく風は寂しくもあるか
帰潮s23p64  川風のさむき曇日とおもひつつ青葦さわぐ川口ここは
帰潮s23p64  川口のひろきを占めて青葦の茂るところより海にいでゆく
帰潮s23p65  海空をわたる雁のむれ見送りて青葦のうへに低くなりたり
帰潮s25p117 こまかなる葦の茎などただよひて湖のなぎさは冬日明るし
地表s26p13  たのめなきものとおもへど夕潮は青き葦にもみちわたり居り
地表s28p39  とほどほにしげれる葦の明るさや水ある谷地にうらがれんとす
群丘s31p17  田のはてのおのづからなる葦群に鷺はみだるる日に光りつつ
群丘s31p18  みちしほの動きつつゐる海の上葦の上なべてゆふべの光
群丘s31p18  水光る河口にむかひ歩み来て黒きものやうやく青き葦となる
群丘s34p55  葦原は市街の見えぬ埋立地さやけき葦の青昏れやすし
群丘s34p55  曇とも靄ともおもふゆふぐれの重き葦原猫なども来ず
群丘s34p56  葦原のむかうに黒き廃船に夕ぐれてなほ人のゐる音
群丘s34p56  ゆふぐれし葦のむかうに廃船の鉄截るひかり火をこぼしつつ
群丘s34p56  廃船のある埋立の葦原にとほきひびきは靄ごもり来る
群丘s34p56  製鋼の火のとどろきのたつ夜空埋立の葦へだてて見ゆる
群丘s35p75  川そそぐ九十九里浜のひとところいささかの葦冬日に光る
群丘s36p81  青き葦しげるところも海没地コンクリ―トの塀などのこる
冬木s38p23  午すぎの枯葦むらに限りなき雀の声はねぐらするらし
冬木s39p53  山のまにかよへる道はあるときは葦のみしげるところを過ぎつ
形影s42p31  秋の空たちまち高く晴れゆきて葦原とほき午前の光
形影s44p79  長命寺くだりて帰る畑のごと葦の若葉のみゆる湖岸
開冬s45p12  おもむろに葦の根ひとつ移りゆく遠近のなき水の明るさ
開冬s45p16  沼ぎしの枯葦むらは春の日に水よりいでし茎乾きをり
開冬s45p16  枯葦のみづく沼のべ春の日が匂ひて涙きざすおもひす
開冬s45p17  はや風になびくを見れば葦ふかしひそみてまれによしきりが鳴く
開冬s46p44  枯葦の光る夕沼いくたびとなくさわがしく雁の群帰る
天眼s50p12  しづかなる葦をとほして海風にふかるる川の流はきこゆ
天眼s50p12  衰へしわが聞くゆゑに寂しきか葦の林にかよふ川音
天眼s50p12  川原の葦は青き芽のびそめてよしきりが鳴き波音きこゆ
天眼s50p12  古葦にまじる新葦川原にてとらへし蟹は泥の香のする
天眼s50p16  十日経て枯葦もともに変化せるごとく青葦はいたくのびたり
天眼s50p21  みたり来てあそぶ潮来にひといろとなりて長けたり葦も真菰も
天眼s50p21  青葦のかげになべては見えがたきころとしなりぬ与田浦あたり
黄月s58p18  ひとところ池の岸にて青葦のたけてさやけし胸開くまで


〔あしたば〕
星宿s
55p33  きぞの雨ことごとく晴れ輝ける潮の岬にあしたばを摘む


〔あしび(注)
開冬s49p116 寒あけのいまだ明るき夕庭に馬酔木はつぼみ長くなりたり
黄月s59p38  目にたたぬ花あふれさくあしびの木花健かに咲くをよろこぶ


〔あぢさゐ〕
歩道s10p38  空地をばひとり見てをり一叢の紫陽花さきし狭き空地を
歩道s14p100 紫陽花の花さかぬ木にこぞりたる葉を愛しつつ裏庭にたつ
しろたへs15p8 赤松の丘をひらきし奥城や青あざやかに紫陽花のはな
―再掲
帰潮s22p21  あぢさゐの藍のつゆけき花ありぬぬばたまの夜あかねさす昼
天眼s52p59  花水木あぢさゐなどに煉瓦色の楽しともなき外国種あり
―再掲
天眼s53p97  立葵あぢさゐなどに当然に塵なき梅雨の日々坂をゆく
―再掲
星宿s54p16  あぢさゐはいづこにも咲き道の上にあはき影ある梅雨の曇日
星宿s54p18  葵すぎあぢさゐすぎし坂の道一年半ば日々暑くゆく
―再掲
星宿s56p62  あぢさゐの花おしなべてみづみづし同じひといろの藍にあらねど
星宿s57p85  がくあぢさゐ花の楽しさよもすがら雲より出でてその花あそぶ
黄月s60p66  眼の悪きわが見つつゆく道のべのあぢさゐの花今日色ふかし


〔あづき〕
軽風t15s2p18山のべの小豆畑に立ちどまり心なつかしく思ひゐたりし
歩道s14p112 店頭に小豆大角豆など並べあり光がさせばみな美しく


〔あは〕
立房s21p58  山中をゆく道のへの粟畑黄いろになりて夏ふけにけり
帰潮s24p93  庭畑にいでて手ぐさにすることもありて粟の穂軽しとおもふ
帰潮s24p94  粟の穂をいまだ刈らねば庭畑にみだれてそこに鶏あそぶ
群丘s34p62  夏のゆくときのしづかさ粟畑も陸稲の畑も青き穂を垂る


〔あふひ(注)〕
歩道s13p85  しづかなる一むらだちの葵さき入り来し園は飴色の土
帰潮s25p107 宵あかり庭に見えをる葵の花小さきは花を閉ぢしにやあらん
地表s27p28  葵の実こぼれて庭に萌えしもの青々として冬となりたり
地表s30p89  降りそそぐ雨しげきなかくれなゐの花もつ葵すくすくと立つ
星宿s54p18  葵すぎあぢさゐすぎし坂の道一年半ば日々暑くゆく
星宿s55p38  年々に同じところに葵さく路傍に子らにしひたげられて
黄月s60p67  白き花隣る赤き花すくすくと葵さく道の行くさ帰るさ


〔あふち(注)〕
群丘s32p23  川沿のあかるき道のところどころ楝の木たちて光る黄の実は
群丘s34p51  島にある分教場の楝の木花おぼろにてしきりに落つる


〔あべりあ〕
天眼s52p68  アベリアの咲く遊歩道花の香と知りてゆく道の香をうとむなし
星宿s57p88  往反の道にアベリアの花さきて日ごとの夏の香を呼吸する


〔あやめ〕
地表s27p19  紫のあやめの花のしづかなる色たえまなき風に吹かるる
黄月s58p16  青芝のつづく窪にて咲くあやめはなやかならぬ色うごきをり
―再掲


〔あらめ〕
形影s42p35  波に寄る荒布を運ぶ共同の作業みゆ冬浜の二つところに
形影s44p64  しろざれて荒布の茎のちりぼへる冬の渚は日のにほひあり


〔あららぎ(注)〕
地表s29p66  白骨の道のわかるる沢渡にあららぎの実は赤くなりゐつ


〔あをき〕
軽風s8p91   青木の茂りたる坂道にてたちまちに埃つむ自らの室が目にうかぶ
歩道s11p49  一叢の青木のかげに雪のこり昼すぎし日のひかり差しけり
歩道s14p111 雪ののち清くあらはるるもろもろに青木の葉あり道のかたはら
しろたへs16p39八手の葉青木の葉など輝きて露ゆたかなる朝の道ゆくも
―再掲
黄月s59p45  青木など葉のすくすくとのぶる道歩みて半日過ごす楽しさ


〔あをぎり〕
地表s26p11  土用すぎて梧桐の葉のやはらかき梢を見つつ暑き日暮れん
地表s29p56  梧桐の太幹がたち墓あひの路ひたすらに春日に乾く
天眼s53p90  晴れし日の梧桐の木は影をもつ青葉うごきてその幹青し
星宿s56p69  ことごとくその葉を垂れて落葉する運命を待つ梧桐一木
星宿s57p84  梧桐の若葉ことごとく日に透りうごかぬ幹の重厚の青
星宿s57p88  道に散る梧桐の花こまかにて踏む一年の心はゆらぐ
星宿s57p89  はらはらと梧桐の花散る下に一時間憂なき時をゆかしむ
黄月s59p52  梧桐の木も落葉してゆく道に大き梧桐の葉のまろぶころ


〔あをさ〕
形影s42p21  ひき潮のときゆゑ石蓴あらはれて静かなる寒の浜に出で来し
形影s44p64  ものこほしく見つつすぎしか退潮に石蓴あらはれし海の草野を
開冬s45p11  冬の日に石蓴かがやく退潮の海にむかひてこころをのぶる


〔あんず〕
立房s21p45  ひろらなる山ふところに畑つづき白き杏のさく農家あり


〔いそなでしこ(注)〕
天眼s51p45  季おそきいそなでしこの紫の花あはれみて江須崎をゆく


〔いたどり〕
軽風s4p45   海風は吹かざりしかば道のべに虎杖白し埃かむりて
軽風s5p50   虎杖の茎の細りて長けたるをとどまりて見ぬ山のたをりに
軽風s5p51   小仏の峠を来れば虎杖のすでに長けたる叢もあり
軽風s5p54   石原に生ひしげりたる虎杖のすでにいきほふさまにあらなく
軽風s7p82   虎杖の萌ゆるを見ればこの山に一日照りたる日は傾きぬ
歩道s8p11   山路に羊歯も虎杖もすでにたけし草の茂みより激ちたる水
―再掲
歩道s11p53  風すぎし今日の光はあきらかなひとむらだちの虎杖のうへ
歩道s11p54  花すぎし虎杖の下に青々と雑草のごとく蘭しげりたる
歩道s11p54  いたどりも蓼もゆたかに茂りつつ花の過ぎにし時にあそびぬ
立房s21p46  虎杖のふとく萌ゆるはこころよし石狩川の曇る川岸
立房s21p49  みづみづと青き虎杖のしげりあり湖岸にして風に吹かるる
立房s21p50  まれにして虎杖おふる裾原や去年の噴火の灰ふかぶかし
帰潮s22p29  しろじろと虎杖の咲く崖が見え幸のなき曇につづく
地表s27p25  潮ふく疾風のために枯れしとふ虎杖の叢ここのなだりは
地表s29p71  高原に来れば照りとほる秋の日に虎杖の葉は黄いろになりぬ
地表s29p73  秋はやくもみぢせるもの虎杖も風露もすがし高原にして
群丘s34p59  夏の日にかぎろひのたつ高原は明るきところ虎杖の花
群丘s34p59  颱風のすぎし高はら日は照りていたどりの花に蜂むるる音
群丘s36p81  あをあをと渚にしげる虎杖のくさむら寂し津軽の海は
群丘s36p98  高山の砂の傾斜に黄葉せる虎杖ありてこごしく光る
冬木s39p51  夏日照る火山のなだりまれに生ふる虎杖は花乾きつつ咲く
冬木s40p100 ふとぶとと虎杖しげるくさむらも石だたみ道も砲台のうち
形影s44p84  うるほひて岩ひかる山の傾斜あり虎杖たけし渚の上に


〔いたやかへで〕
立房s21p45  畑くまにイタヤカへデの高木あり細かき花は土にちる見ゆ
立房s21p47  ミヅナラやイタヤカへデが梢より風にうごきて若葉さやけし
―再掲
立房s21p68  ことごとくイタヤカへデの落葉せる木に鴉をりねぐらともなく
開冬s45p21  国上山五合庵あとに秋の日はいたやかへでの落葉を照らす


〔いちご〕
立房s20p15  街ゆけばくさぐさのもの売りをりて苺の苗を今日は買ひたり
立房s20p16  買ひてもつ苺の苗は青き葉に紅葉してあかき葉のまじりたり
冬木s39p42  湖こえてさす夕ひかりさやけきに苺の冬葉赤き畝々


〔いちじく〕
立房s21p67  いちじくの落葉してくねくねとしたる枝きのふも今日も庭に見えゐる
帰潮s23p59  キリストの生きをりし世を思はしめ無花果の葉に蠅が群れゐる
地表s28p48  落葉せし無花果の太木見てゐしが思ひいだして人を悲しむ
地表s30p100 颱風ののちはかばかとせぬ秋日無花果の実に蟻たかり居る
地表s30p100 宵々の露しげくしてやはらかき無花果の実に沁みとほるらん
群丘s35p74  さまざまに水路めぐりて無花果の老木のたてるところをも行く
群丘s36p79  無花果の木下の土のひたすらに乾きて蕗の薹もえゐたり
冬木s39p47  すぎてゆく場末のひくき屋根の雪いちじくの枝さむき夕ぐれ
天眼s51p42  青天となりし午すぎ無花果をくひて残暑の香をなつかしむ


〔いちはつ〕
帰潮s23p53  日食の光しづまりし鳶尾草の黄の花びらに蠅とまり居る


〔いちやう〕
軽風s6p61   裸木の公孫樹はくもる冬空にこまかに枝をくみて高しも
軽風s6p61   おもむきのなき枝ぐみのものものしく公孫樹は冬の空に押し立つ
歩道s9p27   銀杏の樹おもおもとして茂れるを夜の鋪道にわれは仰ぎぬ
歩道s11p50  くれがたの空さだめなく雨やみて芽ぶきし銀杏われは仰ぎぬ
歩道s11p54  銀杏の実まだ早くして落ちたるがこの園の路ににほひたちけり
歩道s11p57  このごろのとりとめもなき彼の岡に曽て公孫樹が黄にかがやきぬ
歩道s12p65  常磐木の寄りそふなかの公孫樹丘のうへにしけふも見えをり
歩道s12p74  わが窓に公孫樹は見えて曇る日と輝くばかり晴れし日とあり
歩道s13p80  しばらくの夕明空みえしかど憩ひにいりぬ丘の公孫樹は
歩道s13p85  公孫樹の下を来ぬれば鱗形に砂かたよせし昨夜のかぜ
歩道s13p86  暑き日の午後のちまたは風たえて塔のごとくに公孫樹たちたり
しろたへs16p40わたりくる永き光にかがやきて黄につもりをり銀杏落葉は
しろたへs18p73落葉せしばかりの公孫樹うつくしく立てりしかども今は馴れつも
立房s20p15  黄いろなる銀杏の落葉かぎりなく道にうごきて一日風ふく
立房s21p66  わが家のさ庭にちりて銀杏葉のあたらしき黄よ夕暮るるまで
立房s21p67  銀杏の実しきりに屋根におつる音きくべくなりて寒し夜ごろは
立房s21p87  銀杏の実一日日にほしてつやつやとしたるしろたへを宵にわが見つ
帰潮s22p25  ぬきいでて空に光のそよぎゐる銀杏見ゆその下に行かまし
帰潮s22p26  おごそかに昼ふけわたる夏の日にそよぐものあり銀杏無尽葉
帰潮s22p30  浄きもの常にかよへる丘の上に銀杏の一樹黄いろになりぬ
帰潮s22p31  幹赤き松黄葉せる銀杏の木みな厳かに暗くなりゆく―再掲
帰潮s22p31  簡明に冬の朝日は照らしたり落葉して高き銀杏の一樹
帰潮s23p69  ひややかにゆふべの光輝きて銀杏の立てるところを行けり
帰潮s23p71  黄葉せる銀杏の一樹わがまへに傾きて立つかかるすがしさ
帰潮s24p90  近づきて見れば銀杏は限りなき葉影をたもつ暑き光に
帰潮s25p100 眼のまへに銀杏の枝白くひろがりて寒のなかばの曇日けふは
地表s29p76  しづかなる象とおもふ限りなき実のかくれゐる椎も公孫樹も
―再掲
地表s29p77  朴の木の落葉銀杏の木の落葉手入れとどきし木下にたまる
―再掲
群丘s36p100 あはれなるものの匂のなくなりし公孫樹の幹に日が当りゐつ
冬木s40p94  道のうへ冴えかへるころたくましき公孫樹並木の下をわがゆく
形影s42p36  銀杏を拾ひてわれに送り来し君のこころを喜ぶわれは
開冬s47p79  滝よりも高き公孫樹の黄葉せる岩尾の滝はすがしかりけり
天眼s50p24  銀杏ちるところ欅のちるところ雨はれし坂のぼりてくだる
天眼s50p25  衰へて足おぼつかな日ごとゆく蛇崩坂に銀杏ちるころ
天眼s51p45  銀杏ちる坂を歩みて嘆きけん去年と同じ人みちを行く
天眼s53p107 いさぎよく黄葉かがやく銀杏の木わが肌骨醒め傍をゆく
天眼s53p109 冬の日のくろき半天一年のをはる銀杏は勁風にとぶ
天眼s53p110 歳晩の一日清美にて散りのこる銀杏花に似て花に非ざるに似る
星宿s54p25  冬ながら暖かき日のつづきゐる段落ひとつ黄の銀杏ちる
星宿s54p26  道にちる銀杏の葉おのおの形ありそのことを知りその色を踏む
星宿s56p70  昨日葉の散りつくしたる銀杏の木知りつつ語る人無くあゆむ
星宿s57p96  風あれば銀杏の葉道に吹かれをり日没もつとも早き日の暮
黄月s58p25  公孫樹落葉楓落葉は年輪を思はしめつつ道に散りゐき
黄月s58p28  ぎんなんのつぶれて匂ふ道をゆく蛇崩坂も寒くなりたり
黄月s59p55  公孫樹の葉落葉終りし幹光り孤独のわれをかへりみしむる
黄月s59p59  落葉をばかく如く銀杏拾ふ人老人にして行為かすけし
黄月s60p75  夕はやく雀のつどふ銀杏の木声さわがしき木下を歩む
黄月s61p82  裸木となりてすがしき銀杏の木夕べの道を遠く帰り来 


〔いぬたで〕
地表s28p39  犬蓼も浅茅も秋の草黄葉水浅き池めぐりて来れば


〔いね(水稲)〕
軽風s4p39   故里に苗代に種をすうる頃うす寒き日は二日続きぬ
軽風s7p89   細江をば汽船すぐるに刈られたる水田のきしの真菰なびきぬ
軽風s7p90   境内の裏のなだりは芝枯れて刈田つづきに利根のみづ見ゆ
―再掲
歩道s8p20   山ぞひに刈田の道をゆきしとき潮けぶり飛ぶ近き海より
歩道s10p46  アパアトの廊下のはてに米を磨ぐ音きこえつつはやも日暮るる
歩道s14p103 畑なかの道をゆきたりまだ刈らぬ稲田は畑のむかうに見えて
しろたへs15p7 青田にははや穂にいづる早稲ありて霧雨はれし昼つかたあはれ
しろたへs15p8 細谷は昼しづかなるひとときの青田の奥に雉のこゑする
しろたへs16p35稔りたる稲田はいまだ収穫のまへにて秋日かぐはしき道
立房s20p10  東京にひとり明け暮るるわれのために白き糯米を少しくれたり
立房s21p58  山くだりくれば早稲田は稲の花香ぐはしかりき西日さしつつ
帰潮s23p49  蜜柑さく庭のつづきにひとところ苗代青し昏れのこりたる
―再掲
帰潮s25p113 精米の機械に冬日さしゐたり落ちくる米は糠の香がして
地表s28p34  かへがたき祈のごとき香こそすれ昼のくりやに糠を炒り居る ?
地表s29p62  傾きてまだ暑き日に照らさるる海ぎしの青田ひとつ合歓の木
地表s29p66  山ふかく来しと思ふに深谷の狭きところに黄の稲田あり
地表s29p78  歳晩とおもふ夕に籾のなかにたくはへられし独活の根を食ふ
地表s30p98  川越の稲田につづき高瀬舟江戸にかよひしなごりの古江
群丘s31p15  蓮の葉は老いて緑のさえざえし稲穂にいづる道を来しかば
―再掲
群丘s32p23  草原のごとくひこばえの枯れつづく明るき冬田そのうへの雲
群丘s32p30  山川をさかのぼり来て会ひしもの川原の岸に稲積む小舟
群丘s36p85  穂にいでし峡田しづけく遠風の聞こゆるいとま聞こえぬいとま
群丘s36p90  稲田にはいまだ人をりて稲を刈る石切山のいくつ明るく
冬木s37p14  苗代のめぶくを見れば奥飛騨の春のあかるさ雪山照りて
冬木s38p22  冬の日といへど一日は長からん刈田に降りていこふ鴉ら
冬木s38p24  ひつぢ枯れ冬田明るく西日さす山ふところも入江のつづき
冬木s38p30  天草の福連木越は八月のゆふくらがりに早稲の香ぞする
冬木s39p53  いづくにも浅山のまに青田あり白河関へゆくみちすがら
冬木s39p53  田草終へて来る人もなき山のまの晩夏のひかり青田を照らす
冬木s39p90  限りなき耕地こまかに区切りたる水田さながらに農の貧しさ
冬木s39p90  いちめんに光しみとほる青田みゆところどころの木は午の影
冬木s40p101 米飯をへらして果汁などを飲む日々といへども清からなくに
冬木s40p104 はりもみの林をいでて帰りくる稲穂田の黄のくれのこるころ
―再掲
形影s41p13  十月の光となりて舟かよふ稲田のひまの水路のにほひ
形影s41p13  うちつづく稲田蓮田のなかの水人ゐて水をうごかす音す
形影s41p14  限りなき稲はみのりてたもとほる村に老木の樟の葉の鳴る
形影s42p23  新しくひらきし水田かりそめのごとく苗植ゑて赤土あらは
形影s44p105 おほよその林のひまに枯原のごとき刈田のありて牛臥す
開冬s46p49  屋前の田に苗の立つころとなり風のまにまに朝靄うごく
開冬s46p55  家そとは峡にかたむく友の刈田いまだ音みちて霰ふるなり
開冬s47p75  鳥海の山遠く稲田穂を鋪けばかがやく海のごとき夕映
開冬s47p86  遠地より伝へくるなり山は雪刈田うるほふころの悲しさ
開冬s48p92  苗の立つ水田にそひて乾くみち初夏の日長きゆふぐれにして
開冬s48p93  わが生れしところかなしく昼の田の蛙の声をききつつあゆむ
開冬s48p93  苗植ゑし田のあひだにてこころよくまだ植ゑぬ田は水の流るる
開冬s48p93  田をううるころにて畦に黄の花の金鳳花など咲くふるさとは
天眼s51p32  田を植ゑてつひに貧しきこの島は明治以前のごとくに寂し
天眼s52p61  松島の宮古島にはひかりあり水田も桜さく浅山も
天眼s52p61  桜さく浅山の間はみな水田いこふところなき島いさぎよし
―再掲
星宿s54p13  吉尾村あたりの山の中をゆく水田みづうみに似る田植どき
星宿s55p42  順徳陵いでて帰りくる道のべに秋香となり親し稲田は
星宿s57p93  ふるさとの逢ふ人もなき稲田道秋香の昼半日ながし


〔いね(陸稲)〕
立房s20p9   青々と陸稲畑のひいでしは異草よりもこころしづけく
立房s21p64  いろづきし陸稲畑に朝の露かわくを見れば匂ひこそすれ
立房s21p67  墓丘のひとところ黄のふかぶかとしたる陸稲はいまだ朝露
群丘s34p62  夏のゆくときのしづかさ粟畑も陸稲の畑も青き穂を垂る
―再掲


〔いはつつじ〕
地表s30p93  火の山のいぶき音する砂原に白きイハツツジの花咲き残る


〔いはぶき(注)〕
帰潮s24p85  通草の芽岩蕗などのひでしもの田沢の村の夜に食ひたる
―再掲


〔いばら(注)〕
群丘s36p78  山吹も茨も照れりおほよそに冬枯れしかば山のひそけさ
―再掲


〔いひぎり〕
地表s28p39  おほどかに立つイヒギリの一木あり朱の房実は日にかがやきて
星宿s57p94  椅の赤き房実のやうやくに見えがたきころ坂より帰る
黄月s58p6   紅葉する椅の葉をわれは知る鳥の運びし広葉のもみぢ
黄月s61p90  椅の実の赤しといふ道をゆく見えぬわが眼は冬空のみに


〔いんげん〕
形影s44p90  隠元の莢実のにほひ惜しむべきことわりもなき厨の暑さ


〔うきくさ〕
群丘s31p17  浮草の青くおほへる水路にも秋日は照りて刈田あかるし
群丘s32p28  しづかなる藺草のひまに浮草のこまかきものはみな紅葉せり
―再掲
形影s42p32  秋の日のかぐはしくして水よりも浮萍ひかる水のべをゆく


〔うつぎ(注)〕
軽風s3p25   天つ日の明るき谿にむれて咲くうつぎの花は幾叢も見ゆ
軽風s3p34   もみぢ葉のうつろふ山に青あをと卯木に似たる木は心地よし
群丘s31p12  道のべに白きうつぎの花さきて見ゆる山々は蜜柑の畑


〔うど〕
地表s29p78  歳晩とおもふ夕に籾のなかにたくはへられし独活の根を食ふ
―再掲
開冬s46p64  味噌つけて苦き香のする独活を食ふ老いて懶きわが眼も開け


〔うめ〕
しろたへs16p21家いでてちまた来しかばゆくりなく花みちて咲く紅梅一木
立房s21p28  かの朝の窓ひとときに明るかりし梅の群花いまだ忘れず
帰潮s23p48  ひすがらに風にもまれし梅の若葉しづかなる夜は来たらんとして
群丘s36p79  わが庭に移し植ゑしより花さかずなりたる梅も椿もあはれ
冬木s40p92  憂なくわが日々はあれ紅梅の花すぎてよりふたたび冬木
形影s43p45  寺庭に消のこる雪をぬきいでて紅梅一木さく偈頌のごとくに
開冬s47p69  しろじろと砂礫しきつめし方形の庭に葉を待たぬ梅一木咲く
開冬s47p70  庭の砂礫まぶしくめぐる廊あればあゆみて紅梅の一木ちかづく
開冬s48p94  くさむらに狐の通ふ道ありて山畑なれば梅の実まろぶ
天眼s50p9   生死夢の境は何か寺庭にかがやく梅のなか歩みゆく
天眼s50p9   ひたすらに梅はかがやきみつれども葬の庭ゆゑ人ら声なし
天眼s52p55  白梅にまじる紅梅遠くにてさだかならざる色の楽しさ
天眼s52p55  あるときは日のまともにて白梅の最勝の白しばし輝く
天眼s52p56  午睡よりさめて出で来し蛇崩の道に今年の梅の花ちる
天眼s52p57  蛇崩の薄紅梅はもどり路にゆふづく空の色に染みをり
天眼s53p83  さざんくわの終も梅のはじまりも認めず過ぎて大寒となる
―再掲
天眼s53p83  草木はこゑなきゆゑにめにたたず庭隅に咲く梅をあはれむ
天眼s53p84  白梅にややおくれゐし紅梅に逢ひたる今日を喜びとせん
天眼s53p85  蕋ほほけ過ぎがたとなる紅梅を見送る今年健かにして
天眼s53p97  門ちかく今年移しし梅の木の下に薔薇さく及辰園の庭
星宿s54p7   一年の寒暑に老いし草木にまじり声なき梅ひらきそむ
星宿s54p8   昨日の雪あとかたもなき庭のうへ声なく相隣る梅と山茶花
星宿s54p9   わが家の白梅隣家の薄紅梅立春ごろのあたりひそけし
星宿s54p10  渚ゆゑ波音のする梅の間に西日の赤きけぶりとどまる
星宿s54p11  来日の多からぬわが惜しむとき春無辺にて梅の花ちる
星宿s55p29  わが庭の奥に年々さく梅のまへに七十の今年また来つ
星宿s55p30  今年またわれの眼老いて花を見る紅梅は色雨をいとはず
星宿s55p30  梅の花日にかがやける昼のとき庭に消えのこる雪も音なく
星宿s55p32  ひとときに咲く白き梅玄関をいでて声なき花に驚く
星宿s55p37  青ふかき着子の梅を顧みて門出づるわれ健かにあれ
星宿s55p38  くさむらに忽然落つる黄の梅をみとめし夏至のながき一日
星宿s56p54  庭にさく梅なつかしく対へれど言葉なければ別れをしまず
星宿s57p76  一時間外のあゆみを帰り来て梅の咲く午後ふたたび眠る
星宿s57p77  玄関のまへに梅さく日々の晴いで入る人は年七十二
星宿s57p77  窓下の梅ひらくころ音たえし夜しろき花見えて驚く
黄月s61p83  窓下にただきらきらと見ゆるものやうやく遅き梅さきそむる


〔うめもどき〕
天眼s50p7   竹を負ひ梅もどき赤き木のあればひさしく逢はぬ兄おもひ出づ
―再掲


〔えぞまつ〕
立房s21p48  風わたる音のさびしき樅の木も蝦夷松の木もまじり生ふる山
―再掲


〔えにしだ〕
星宿s54p13  えにしだは黄の花をどる枝垂れてゆききのわれの愁を知らず


〔えんばく〕
冬木s40p101 燕麦の粥くひしのち仮睡する手近の「呻吟語」を枕となして


〔えんれいさう(注)〕
立房s21p42  ここにして寒き木立の下かげに延齢草のきよき白花
帰潮s22p20  白花の延齢草はしづかなる草とおもひて手に採りて見つ


〔おいらんさう〕
帰潮s23p57  くれなゐのおいらん草の群花を愛してながき夏を逝かしむ
帰潮s23p62  くれなゐのおいらん草は過ぎがたとなりて今日ふく風にゆれゐる
帰潮s23p63  花すぎしおいらん草と紅の鶏頭とたつ虫もなかなく
星宿s54p19  出入する庭に顧みてあはれみし去年に似たり花魁草は


〔おしろいばな〕
しろたへs17p65砂地なる道のほとりに白粉はいまだ花咲くくさむらなせり
帰潮s22p28  おしろいの花を傾けし南瓜など夏すぎてゆく庭を見しかば
帰潮s22p29  いつしかに花終りたるおしろいの叢にうごく昼の陽炎
形影s42p29  風ふけば波音ちかき藪かげの道におしろいが午後すでに咲く
形影s42p29  たまくすの木のかげおよぶ庭のうへ夕ならずして白粉ひらく
―再掲
形影s42p29  裏畑のささげ前庭のおしろいは昼花を閉づゆく夏の日々
―再掲
天眼s51p44  台風の余波ふく街のいづこにもおしろいが咲く下馬あたり
天眼s53p102 おしろいの花の明るさ夕ぐれを待ちて歩みき今年の夏は
星宿s55p44  花ひらきあるいは閉ぢていたるところおしろいの咲く蛇崩の道
星宿s56p64  後半の日々やうやくに夏ふけて花新しきおしろいが咲く
星宿s56p67  秋づきし道のゆききに終りたる花に似て眠るおしろいの花
星宿s57p88  おしろいの白き小花はさきそめて今年また霜までの長き後半
黄月s58p15  いつ見ても花日にしぼむおしろいの路傍いづこにも咲くころとなる
黄月s58p19  椅子に来て憩ふあひだに時移りおしろいばなのくれなゐのたつ
黄月s58p19  梅雨の雨ふらねど曇る路傍にておしろいの花開くくさむら
黄月s59p56  日々あゆむ道のかたはらなかば咲きなかば眠れるおしろいの花
黄月s60p68  梅雨あけし道のかたはら暑き日に花さはやかにおしろいの咲く


〔おほばこ〕
軽風s8p93   あたりには車前草の葉がゆたかにて人の来て踏むこともなかりき


〔おりーぶ
冬木s39p74  フィレンツェを離りて来ればオリ―ヴの丘起伏して秋日にけぶる
冬木s39p74  オリ―ヴの畑のあひだに暖竹のしげるを見れば小さき川あり
冬木s39p74  低丘はオリ―ヴしげり秋晴の光にとほく立てる白雲
冬木s39p80  あるときは白き石山みえゐたりオリーヴの木々しげる彼方に
冬木s39p81  オリ―ヴの古木のしたにチコリ摘む農婦をみればあそびの如し
冬木s39p82  ことごとくオリ―ヴ光る山の上ヴェスヴィオのけむり南へなびく
冬木s39p83  オリ―ヴの長き葉白くひるがへり海風のふくソレントのみち
冬木s39p83  しろがねの葉のひるがへるオリ―ヴの実はこぼるらん風のまにまに


〔おれんぢ(注)〕
冬木s37p21  オレンヂを夜の灯の下に食はんとす吾も黄の実も耽しきごとく
冬木s39p82  直ぐ下にある海の音オレンヂの青き実をもつ木々の葉うごく