あ行 か行 さ行 た行 な行 は行 ま行 や・ら・わ行



〔さくら〕    
歩道s10p39    夏の日のかたむきかけし広場には驚くばかり桜が太し
しろたへs16p23  ゆきずりに見たり小路はその奥に桜の花が咲きて明るく
しろたへs16p32  桜の実の匂へる午後の木下道われはとほりぬ曇空ひくく
しろたへs17p62  桜の木の脂をみとめてものうとく?なく道に歩みとどめつ
立房s21p35    前方に花さかりなる桜あり鋪道のうへに日かげをなして
立房s21p86    冬丘に朝のくぐもりは晴れんとす桜の並木しろく見えつつ
帰潮s22p21    幾日の雨のはれたる土の上に落ちてゐる桜の赤き実黒き実
地表s30p99    こまかなる虫の糞あまた乾き落つ光あかるき桜の木下
冬木s40p102   原因のあるごとく無きごとくにて桜いたいたしく枯れゆくを見つ
形影s43p45    さくらばな雨にうたるるこのゆふべ鮴酒のめばすみやかに酔ふ
形影s43p46    山のまの常照皇寺しづかにて桜なだれ咲く花のあかるさ
形影s43p46    夕光のなかにまぶしく花みちてしだれ桜は耀を垂る
形影s43p46    花みちて塔のごとくに立つ桜垂りたる枝の末端うごく
形影s43p46    ゆくりなき遭遇に似て旅の日に去年みし花を今年また見つ
形影s43p47    あまた咲く桜のなかにおのづから八重の桜はくれなゐのたつ
形影s43p47    落葉松の緑あはあはと富士桜まじはりて咲く林しづけし―再掲
開冬s45p12    老いづきし人の憂を見るごとく遠き桜がをりをりうごく
開冬s45p13    かげおとす雲に桜のややにぶきをりふしありて水の明るさ
開冬s45p13    花にある水のあかるさ水にある花のあかるさともにゆらぎて
開冬s45p13    垂る枝のうごくともなく降る雨に散るべき花はおもひきり散る
開冬s45p13    にはかなる雨ふりいでて散るさくらみるみるひまに下土白し
開冬s45p13    枝おほふしだれ桜のうちに立つ降る雨の音うとくなりつつ
開冬s45p13    いくばくか雨に空気は冷ゆるらんしだれ桜の枝のしづまり
開冬s45p29    池岸の桜あたたかき昼つかた蕊見ゆるまで舟ちかづきぬ
開冬s45p30    わがための長き春日とおもはんか花のかがやき水のかがやき
開冬s45p37    風ふけば桜の落葉しきりなるところに昼の飯さむく食ふ
開冬s48p90    ひるすぎの雷ふるふとき能満寺虚空蔵の桜しばしば散らん
開冬s48p90    枝垂るる桜があればしばらくのこの輝きを病みて惜しまん
開冬s48p103   おもむろに病いえつつ黙しをり桜うるほひて雨ふるゆふべ
開冬s49p108   いちはやく若葉となれる桜より風の日花の二三片とぶ
天眼s50p10    窗ちかく桜の花はかがやかん見んきほひなく臥しつつをれど
天眼s50p10    さく花を待ちつつをりしわがこころたはやすくして春すぎてゆく
天眼s50p10    ともしびの光を分ち窗に散る桜を見たる宵を思はん
天眼s51p38    三本の花のあかるさまどちかき桜の奥になほ桜あり
天眼s52p58    道ゆきてわがかへりみる八重桜さく明るさに濃淡のあり
天眼s52p61    松島の宮古島にはひかりあり水田も桜さく浅山も―再掲
天眼s52p61    遠近の浅山は桜すぎがたのこの世ともなき島の明るさ
天眼s52p61    桜さく浅山の間はみな水田いこふところなき島いさぎよし
天眼s52p61    良き友にめぐまれ生きて花ちらふ宮古の島に遊びけるかも
天眼s52p69    五六本桜がありてゆく秋の日にもみぢせる葉の落ちやまず
天眼s52p77    松島の海ぞひの道しばしばも逢ふゆく春の桜あかるし
天眼s53p86    蛇崩の道の桜はさきそめてけふ往路より帰路花多し
天眼s53p86    われのゆく蛇崩道に桜さくころ杖をもつ四年のあゆみ
天眼s53p86    桜ちる昨日も今日もともなはんつれなし一人蛇崩をゆく
天眼s53p86    君によりよみがへりたるわが視力けふ明らかに散る桜見ゆ
天眼s53p90    蛇崩のみちの桜は家いでてゆく日々緑暗くなりたり
天眼s53p108   色づきし柿の葉桜の葉を踏みてゆく道楽しきのふも今日も―再掲
星宿s54p12    くさぐさの花順序なく桜さく昨日雨の莟今日の満開
星宿s54p13    今年また花にむかへばいささかの風にも重く八重桜さく
星宿s54p26    道に踏む槻も桜もこのごろは古りて硬き葉の色あたたかし―再掲
星宿s55p34    桜ちる風におされて今日あゆむ老いて心にいとまあるわれ
星宿s55p34    花白きさくらのまじる一むらの槻けぢめなく若葉萌えそむ
星宿s55p45    落つる葉に桜柿などまじるころ日々新しき色をわが踏む
星宿s56p56    眼の弱きわれにも見ゆる開く日の近き桜のつぼみの光
星宿s56p70    柿のもみぢ桜のもみぢ散りはてて踏む楽しさのすくなし道は―再掲
星宿s57p81    いくばくか息ぐるしくて桜さく下を過ぎしに今日花は無し
星宿s57p86    桜などつぎつぎ春の花すぎて今はしづけし草木暗く
黄月s59p36    遠からぬ記憶なれども帰り路に桜とこぶし咲けるまぼろし
黄月s59p38    散りがたの桜を見つつ歩みゆく風のまにまふぶく一木一木は
黄月s61p87    鳴く蝉の声待ちゐしが夏ふけて桜の木より今日はきこゆる


〔ささ(注)〕
軽風s5p48     昼すぎの日が笹叢に射しゐるを電車の窓より見て過ぎにけり
軽風s5p57     散りしける紅葉ありて道くまに青き笹群は雨にぬれたる
軽風s7p81     高原に五月なかばの日は照れど吹く風さむし笹をなびけて
歩道s8p8      五位鷺は群れをりしかど笹むらにさまざまにして或は飛びき
歩道s8p12     山の上あらはに笹のしげりたる平にいでて雨のふる音
歩道s13p90    朝のまの土かたき原たもとほり歩みて来れば霜笹にあり
歩道s14p97    ゆふ明まだ暮れがたくかたはらに笹叢のある道あるきけり
歩道s14p109   かたがはに笹しげりたる鋪道にて乾きし土塊がまれに落ちをり
歩道s14p110   ゆふぐれの庭を人掃けり笹むらの中にも芥たまれるらしく
歩道s14p114   笹の上にたえず動きて日影あり杉のこずゑより差したりしかば
立房s21p44    たえまなき風にさやげる笹原に折をりに鳴く春?のこゑ
立房s21p45    耕して土あたらしき山畑にせまれる木々も笹原も風
立房s21p82    この山に雪ふるころは放牧の馬すこやかに笹を食ふとぞ
帰潮s24p88    さみだれのしげく降る時おぼろなる笹群みえて吾は居りたる
帰潮s25p104   うつしみは現身ゆゑにこころ憂ふ笹の若葉に雨そそぐとき
帰潮s25p110   しづかなる秋の曇に湧く水のひとつの流れ笹むらの中
帰潮s25p110   水のわくかすかの音も聞こゆべき笹むらの路われは歩みし
地表s29p68    ひとなだり笹の明るきは川岸のさざれ秋日を照り反し居る
群丘s32p24    曇日の昼しづかなる海のうへ笹覆ふひくき鷹島は見ゆ
群丘s35p70    裏窓にちかき笹生の音きけばある時は犬がためらはず行く
群丘s36p93    煙害のためにひとたび枯れし山霧のまにまに笹青く見ゆ
群丘s36p93    焼山はむなしけれども年経たりやうやく笹のよみがへるまで
開冬s45p19    神島にかたまりて住む家々にたなばたの笹親し一日は
星宿s55p46    人口の島に笹しげる丘のあり晴れて風なき秋日に光る


〔ささげ〕
歩道s14p112   店頭に小豆大角豆など並べあり光がさせばみな美しく−再掲
形影s42p29    大角豆畑むらさき淡くさく花は朝のまにして早く散るらし
形影s42p29    裏畑のささげ前庭のおしろいは昼花を閉づゆく夏の日々


〔さざんくわ〕
歩道s13p76    山茶花は光ともしきに花咲きぬ人のこほしき紅にあらなく
しろたへs18p98  幼子のもてあそべるは山茶花のはなびらにしてかすかの香あり
帰潮s22p36    山茶花の花に蜂ゐてこの虫の本能を吾はあはれに思ふ
帰潮s22p36    夕空の青き空気は山茶花の花にうごきぬあはれ冬花
帰潮s23p69    夕光さす墓丘の路にして用なき山茶花の花片をひろふ
帰潮s23p70    山茶花のうへに夕べの光さしたつ蚊柱の黄いろにうごく
冬木s38p24    陶土とる山くだり来て山茶花はくれなゐの花あふるるばかり
開冬s45p28    山茶花はゆふべの雲にしろたへの花まぎれんとして咲きゐたり
開冬s45p28    山茶花の花のしろたへおのづから老木の下にあつまりて散る
開冬s45p28    山茶花の老木はくれぬ散れる花めぐりの砂の白きゆふぐれ
開冬s47p86    山茶花の花縁に散るこの家に昼酒のめばはやく酔ふらし
天眼s50p26    おりたちてわれの親しむ山茶花はいま咲きしもの花びら強し
天眼s51p46    海光を呼吸したりし山茶花の老木花さく大島に来つ
天眼s52p69    午すぎてまた出で来れば秋の日は全天晴れて山茶花ひかる
天眼s52p71    土の上うるほふころはうら悲し四十年山茶花にまつはるおもひ
天眼s53p83    さざんくわの終も梅のはじまりも認めず過ぎて大寒となる
天眼s53p106   山茶花の咲くべくなりてなつかしむ今年の花は去年を知らず
星宿s54p8     昨日の雪あとかたもなき庭のうへ声なく相隣る梅と山茶花―再掲
星宿s54p23    山茶花を画にゑがくとき言葉なきものは安けし秋の一日
黄月s58p29    椅子に来て憩ふあひだに咲きそめし山茶花にさす冬の日うつる
黄月s59p51    よく晴れし初冬山茶花輝きて黄のしべけぶる短き時間
黄月s59p55    山茶花のはなびらの散る道のべを踏みて帰り来散歩終りて
黄月s60p61    山茶花の花を見ながらあゆみ来て足調柔に帰り着きたり
黄月s60p80    冬晴の花を見上げて山茶花のくれなゐ光る空いさぎよし


〔さたうきび〕
群丘s34p54    砂糖黍刈られしあとの土暑し海しづかなる岬のたひら


〔さといも〕
群丘s34p61    時を消すために見てゐる里芋のしげりたくましき赤茎もよし
開冬s47p86    たまものの山芋も里芋もみなあまし根を食ふ冬となりにけらしも―再掲


〔さぼてん(注)〕
群丘s31p21    サボテンの生きをることを気にかけずありふる時に冬至とぞなる
冬木s40p101   ひろびろといぶきたたへて温室のサボテンの苗いちめんの青
形影s41p11    梅雨期のひと日の曇サボテンの木の明るきは花あふれ咲く


〔さらのき(注)〕
歩道s10p42    寺庭に夏の日照りて一本の沙羅の高木は花さきにけり


〔さるすべり(注)〕
軽風s4p42     日の光いまださしこぬ朝空に百日紅はきはだちて見ゆ
しろたへs17p63  電車よりやや遠き紅の花のみゆ青山御所の百日紅の花
しろたへs17p63  見すぐして吾ありしかど夏の日に百日紅は炎のごとし
立房s21p64    百日紅をはらんとしてまばらなる花なりしかど濃きくれなゐよ
帰潮s23p71    墓石と百日紅のはだか木と光るゆふべの丘を見てゐし
冬木s39p83    海みゆる庭におくれし昼餉とる百日紅の紅葉あかるく
天眼s50p23    摩さすれば枝癢ゆがるといはれたるさるすべり花のすがしさあはれ
天眼s50p30    むし暑き花とおもひゐしさるすべり咲きて近く見る花のすがしさ
天眼s52p68    残暑の日さるすべり散る門を出づ午後の散歩も煩はしけれ
天眼s53p100   いつまでも百日紅に日のありて健かに逝くわれの一日
星宿s54p19    みづみづしき運命みえて咲きそむる今年の百日紅のくれなゐ
星宿s56p65    気がかりに過ぎて晩夏の終るころ絵に描く百日紅の花にほひなし


〔さるをがせ〕
立房s21p74    落葉して明るく立てる太樹々にをがせの緑みゆるさやけし
立房s21p75    太樹々のもてるをがせは横さまに風になびきて尊とかりけれ


〔さんごじゆ〕
帰潮s23p41    珊瑚樹がならびて崖の土崩れ根かたにかわくところに出でぬ


〔さんせう〕
群丘s36p79    左肩うとましくしてあり経れば山椒をうつし得ず春となる


〔ざくろ〕
立房s21p54    音もなき外の日照に青き実のつやつやとして見ゆる柘榴は
立房s21p60    柘榴の実いまだ青しと待ちしより今日雨にぬるる大き紅
立房s21p65    柘榴の実おのづから割れし紅を机にもちく楽しといひて
立房s21p65    つやつやとしたる柘榴のくれなゐを幼子が欲しといへばもぎたり
立房s21p66    夜の風わが部屋外に音たてて朱き柘榴もうごきをるべし
冬木s39p61    縞をもつ栗の実大き柘榴の実ゆふべディジョンの街にいで来つ―再掲
星宿s54p17    今年また柘榴花さき道のべの目を射るごとき朱をわが見る
星宿s54p21    秋の日に玉のごと照るざくろの実そのくれなゐはやがて開かん
星宿s55p34    必然の進路なかりし才人として思ひ出づ柘榴さくころ
星宿s55p39    梅雨のまに石榴は青き実となりぬ逝く時はやきしるしのひとつ
星宿s57p88    道のべのざくろたちまち実の見ゆる三十日葉がくれにそだちしその実


〔しうかいだう〕
歩道s14p104   うつろひし秋海棠は踏石のあたりに見えて赤茎あはれ


〔しくらめん〕
黄月s58p31    シクラメン白と赤との花ならぶ店頭すぎて歩むたのしさ


〔しだ(注)〕
軽風s3p28     昼過ぎてまばゆく思ふ日の影は青羊歯の葉に透きとほりをり
歩道s8p11     山路に羊歯も虎杖もすでにたけし草の茂みより激ちたる水
しろたへs16p25  疾風に窓のとどろくわが部屋は青き一鉢の羊歯ぞうごける
しろたへs17p71  この市に裏白の羊歯ゆづり葉など売るべくなりぬ今朝来てみれば
立房s21p82    熊笹のたえしところに枯れふして羊歯の大葉はひらたくなりぬ―再掲
帰潮s24p91    塩原の須巻のいで湯秋山のつづきの庭に羊歯もみぢせり
地表s29p68    山ふかきしげみをもるる日の光たまたま羊歯にさすは安けし
地表s29p68    山羊歯の青むらがりて太木々のしげるところに音は絶え居り
群丘s32p24    羊歯おふるのみの草山冬こえてみどり黄ばみし草山いくつ
群丘s34p58    青羊歯のかすかのにほひ息づくは遠き代よりの悲しみに似ん
開冬s47p82    すみれ咲き羊歯もえいづる高原の一日のあそびとぶ虫もなし―再掲
天眼s52p52    山の木にまじはる羊歯は夏もえの新葉ひろげをり大木のごとく


〔しの(注)〕
歩道s8p15     ここに来て一夜いねむと夕餉にし篠筍の塩漬を食ふ
冬木s40p104   はびこりし篠きりしより秋の日に萌えて草むらのごとき篠の葉
星宿s55p41    いづこにも篠のび緑おどろなる肥前あたりの旅をわびしむ
黄月s58p16    しのだけの筍みちに伸びそむる鴨の猟場のほとりを過ぎつ


〔しば〕
軽風s7p90     境内の裏のなだりは芝枯れて刈田つづきに利根のみづ見ゆ
歩道s9p31     庭の芝黄に色づきてこの夕べおほよそに見ゆ窓のうちより
歩道s10p43    窓したの青き芝生は砂利しける道につづきて暑きひととき
歩道s12p61    残りたるはだれの雪は暮方にしづかになりぬ黄の芝のうへ
歩道s13p80    風なぎし黄の芝生あり片寄りに藁屑などの芥たまりて
しろたへs16p22  幼子を芝生のうへに立たしめて幼子の顔いたく小さし
しろたへs16p23  日の光さやかに差して黄の芝におのおのの影もてり小松は
立房s21p85    焼鉄のごとき色して夕暮の芝もみぢせる土手つづきたり
帰潮s23p70    芝草のもみぢの色はいこひ居る吾のまはりにしづかになりぬ
地表s26p8     春の日に生暖き芝生のうへ博物館をいで来て歩む
地表s26p14    秋彼岸すぎて今日ふるさむき雨直なる雨は芝生に沈む
地表s27p30    梢より空かよふ風の音のする園の芝生は黄にしづまりぬ
地表s29p57    芝草は枯草ながら浄くして石のひま木々の上風音ぞする
地表s29p61    ゆく夏のつよき光にそよぎつつ広々として青芝は照る
地表s30p97    海音のたえずとどろく庭のうへいまだ暮れねば芝のさやけさ
地表s30p99    中央に向ひて傾斜せる芝生秋の曇にひたすら青く
群丘s32p33    降る雨の音さむざむしこの岬の砲座の跡をめぐる芝生に
冬木s37p17    ひぐらしは裏の山よりこゑきこゆ寺庭の芝青き夕ぐれ
冬木s38p27    枯芝の白きわが庭虫などの動かぬ冬の日々をすがしむ
冬木s39p59    王宮の花壇と芝生むかうには雨ふりそめし木々の葉の音
冬木s40p93    元日に歳とらしめて三歳となりたる犬が枯芝に臥す
冬木s40p96    黄に枯れし芝生のうへに鶴あゆみ雁のねてゐる寒きゆふぐれ
形影s41p8     芝生にて昼の宴会ありしかば靴よごれつつ帰るゆふぐれ
形影s44p108   春の日に照る青芝のくさいきれ古き礎石のしづかに残る
開冬s46p55    しづかなる庭ありければ降る雨は秋ふけて青き芝に音する
天眼s52p73    浜芝の枯れて斜陽にひかるもの踏みごたへなく渚をあゆむ
星宿s57p96    池の辺をゆく人まれに青芝の上の松の葉冬日に光る
星宿s57p96    青天の午後三時ごろ水の辺の青芝の上やや暗くなる
黄月s58p16    青芝のつづく窪にて咲くあやめはなやかならぬ色うごきをり
黄月s58p17    青芝にまじる詰草の白き花すがしく見ゆる行きて踏まねど


〔しひ〕
歩道s11p57    瑞々しく月いづるはやゆきずりの塀めぐりたる椎の木の上
歩道s14p100   裏にある椎の一木は枯枝が下にたまりて夏ゆくらしも
歩道s14p101   こともなく庭に日照りぬ椎の木の葉群のなかの枝はあかるく
しろたへs15p11  雨はれて夕明する裏庭は椎の根もとに水たまりあり
しろたへs16p26  むし暑き曇り空にて椎の木の下を来ぬれば花の香ぞする
しろたへs16p27  両側は煉瓦塀にてその間の椎落葉せる道ながからず
しろたへs16p30  ためらはぬ雨だれの音しつつあり裏庭にして夜の椎の木
しろたへs17p55  裏庭に朝の音なき風ふけり椎の木よりも檜は暗く
しろたへs18p86  野分だつ風ふきながら椎の木の枝ひかるまで夕明せり
立房s21p24    よもすがら雪のうへにて清くなりし外の空気に椎の枝みゆ
立房s21p67    墓丘は午後の明るさや家いでてすなはち椎の上に見えつつ
帰潮s23p38    あたたかにみゆる椎の木に近づきて椎の木の寒き木下をよぎる
帰潮s23p44    椎の葉にながき一聯の風ふきてきこゆる時にこころは憩ふ
帰潮s23p45    喜びてささやく声はかつて満ちきいま輝ける椎のごとくに
帰潮s23p52    雨はれて光身にしむわづかなる砂椎の木の下にたまりぬ
帰潮s23p73    かち色の椎の木の実を幼らはわが家裏の道にて拾ふ
地表s28p39    単純にあらぬ幹にて年老いし椎の太木は親し日すがら
地表s29p76    しづかなる象とおもふ限りなき実のかくれゐる椎も公孫樹も
地表s30p88    庭の上ひろく静かにひとところ椎の落葉は午後の日に照る
群丘s35p76    午すぎて椎の老木に冬の日のさせるしづかさ丘に来ぬれば
冬木s37p20    冬空の青のふかきに音たえし昼にて椎の梢がそよぐ
冬木s38p28    日の長くなりしゆふべに椎の木の上は青檜の上はくれなゐ
冬木s40p109   わが心よみがへるまで椎の葉をうちてしたたかに降る冬の雨
天眼s52p69    道の上に落ちて光れる椎の実を衰へしわが眼みとめて拾ふ
星宿s54p20    いづる蚊を畏れて行かぬところあり歳月ふかき椎の木の下
星宿s54p21    蛇崩の椎の木に鳴く?のこゑひたすらにして騒がしからず


〔しひたけ〕
冬木s39p91    街ゆきて売れるをみれば椎茸も鰹節も老いしものの寂しさ


〔しやうぶ〕
帰潮s25p117   菖蒲園はまだ蕾なる泥の香のしたし五月の光照れれば
地表s29p76    二度咲の花しらじらと菖蒲田に海風わたるところを過ぎぬ
地表s29p80    霜よけのためと思へど菖蒲田に枯葉うづたかく積みし豊けさ
形影s41p7     ふく風にその葉は震ふうるほへる土にこぞりし菖蒲の若葉
開冬s46p48    梅雨曇くれんとしつつ菖蒲田は白あきらけく紫しづむ
開冬s46p48    菖蒲田に風たつらしきゆふまぐれ紫の花しづかにくるる


〔しやが〕
歩道s13p82    あたらしく移りし家に胡蝶花の花すでに過ぎたる一叢の草
歩道s13p84    蒸しあつき暴れもよひより光さし窓下にある胡蝶花と石蕗
歩道s14p98    なぞへには胡蝶花のしげみに風ふきて貧しく住みし去年のおもかげ
帰潮s22p15    杉森のなかは一面の胡蝶花の花あかるきに吾が歩みとどめし―再掲
帰潮s23p48    よもすがら庭ねむらずにゐるのかと思ふ胡蝶花の花おぼろに見えて
帰潮s24p81    木下にて咲くべき草の春の花木を伐りし峡のなだりに見ゆる ?
形影s44p73    貧困の時よりつづく二十年老いて胡蝶花さく槇尾に来つ


〔しやくなげ〕
形影s42p24    石南の群落ありてさみだれの雨のしづくの花にとどまる


〔しゆろ〕
軽風s7p76     いささかの雪はあとかたもなくなりて窓のべに棕梠の青き葉は照る
軽風s7p83     朝よりきびしく晴れて八月の日の光照りぬ棕梠の葉の上
歩道s14p92    硝子戸の外のをりをり棕櫚の葉がするどく揺れてこころ留どなし
歩道s14p121   棕櫚の幹ときどき風にゆるる見ゆ光さびしき窓の外にて
冬木s38p35    長島の段々畑ふく風にきらめきながら棕梠の葉なびく
黄月s58p32    まだ寒く余光をふくむ棕櫚の木の梢を見つつ坂より帰る
黄月s59p33    蛇崩の坂にかへりみる棕櫚の木は毛におほはれて幹あたたかし
黄月s60p60    豆柿も棕櫚も小鳥の運びたるものと知るわれ木々はしけやし―再掲
黄月s61p81    棕櫚の葉のここに開くは豆柿のごとく小鳥の運び来しもの


〔しよかつさい(注)〕
星宿s56p59    紫禁城見おろす山のいづこにも菫に似たる諸葛菜さく
星宿s57p80    日の光ゆたけき道にむらさきの諸葛菜など花寒からず


〔しらかば〕
開冬s45p24    対岸の紅葉の山は落葉せる白樺多し光るを見れば
開冬s45p24    白樺のみな幹太く落葉せる高原にして風ひびきあり
開冬s45p36    山こえて行き行く一日唐松の黄葉白樺の黄葉は楽し―再掲
開冬s46p52    直線の白の聚合は雨雲のしたにとほく見ゆ白樺の山
開冬s46p53    しぐれの雨ふりつつをれど白樺の幹も落葉も山の明るさ
開冬s46p53    落葉して幹白く立つ木々ふかし白樺林雲にまじはる
開冬s46p54    冬木なす白樺の梢ゆれながら山の雨ふる午後となりたり
開冬s46p54    山の雨はれてまた降る白樺の林ほのかに匂ふ落葉は
開冬s46p54    白樺の奥の雲より鴉鳴く声きこゆるは雨はれんとす
開冬s46p62    白樺の林のなかに入り来つつふかき落葉は降る雨の音
開冬s46p62    白樺の林のなかは山の雨はれて落葉にしづく音する
開冬s47p82    白樺の垂り花うごく梢より蓼科山は見えてしづけし


〔しらねあふひ〕
帰潮s22p20    高山に咲けばかくのごと紫のあはれなる花白根葵は

〔しをん〕
歩道s13p87    丈たかく紫苑の花のさける見て日の余光ある坂くだりゆく
地表s26p15    秋の日々おもむろにして咲く花の紫苑を待てばやうやく寒し


〔じやからんだ〕
天眼s52p52    むらさきのジャカランダ咲く木の下に二年たよりし杖つきて立つ


〔じんじゃ―〕
群丘s35p77    蟻などの居らずなりたる庭のうへジンジャーの花またひとつ咲く


〔すいせん〕
形影s41p15    自生して水仙のさく浜のみち冬の日ゆゑに逢ふ人もなし
形影s42p34    一年のあひだに躰おとろへて今年また路傍の水仙の花
形影s43p53    水仙の黄の咲きそむる浜のみち人に逢ふ恥もなくて歩みつ
開冬s45p11    あつきまで晴れわたりたる冬渚水仙つめば三種類あり
開冬s45p38    水仙の冬さく花の香はしたし渚のみちのゆきも帰りも
開冬s47p87    水仙の花すでに咲く渚道年あらたまる光さしをり
天眼s52p74    十年経てわが足よわく砂取の水仙にほふ渚をあゆむ
天眼s52p74    砂取の渚にあそびゑんどうの畑のほとりの水仙をつむ―再掲    
天眼s52p74    水仙のさく渚みち片側は曼珠沙華の青墹をうづめて
星宿s56p51    たまさかに来る砂取に水仙をつみつつ海の見ゆるまで行く


〔すいてふくわ〕
群丘s32p27    酔蝶花といふ花に紅のいろたちてわが視力弱きゆふぐれの時


〔すいれん〕
帰潮s23p50    曇日のすずしき風に睡蓮の黄花ともしびの如く吹かるる
帰潮s23p50    梅雨曇ひくく動きぬ池の上の睡蓮の花ときにまばゆく
帰潮s23p51    睡蓮のいくつもの花明るきに漂ふものをわれは息づく
帰潮s23p51    水の上の睡蓮の花ゆくりなく堅き感じにていくつも開く
帰潮s23p51    水に咲く花なれば距離をたもち見る睡蓮は黄も紅も明るく
帰潮s24p89    睡蓮の花とぢてゐる池のうへ昼すぎし日の光かがよふ


〔すぎ〕
軽風s3p26     水上に伐りにし杉の流れ来てここの石村にうちかかりたり
軽風s5p57     この山に霜いたるころ杉群をぬきいでて高き朴の葉青し
軽風s8p92     杉の枝はこびし道とおもほえて青き杉の葉をわれは踏みゆく
軽風s8p92     杉の落葉ふかぶかとして林ありとほりて行けば水の音とほし
軽風t15s2p7   自らを省るほどの静けさや杉生の外に日は沈むなり
軽風t15s2p12  護国寺の杉の林の窪たみに落葉焚くらむ匂ひこそすれ
歩道s10p42    まぢかくの杉の老木に蝉なくや師がをさなくて遊びける庭
歩道s11p52    山の風とよもし吹けば杉生より光は来るかたむきし月
歩道s11p56    薄明のわが意識にてきこえくる青杉を焚く音とおもひき
歩道s14p114   杉の木のいづくの上とさだめなく優しき声す鵜の雛なきて
歩道s14p115   杉森の梢のひまに見ゆる空鵜がすれすれに飛びすぎながら
歩道s14p115   春の日のかぜたえまなき杉生にて鵜のひな鳥の声々かなし
歩道s14p116   海鳥の鵜の棲む森の杉生には小鳥の類のこゑはきこえず
立房s21p34    雪どけのころ近づきて静かなる雪原にまれに杉の落葉あり
帰潮s22p15    杉森のなかは一面の胡蝶花の花あかるきに吾が歩みとどめし
帰潮s22p20    雹ふりてひととき経たる太杉の下のくらがりを歩みて帰る
帰潮s23p41    二日経し雪とおもふに消え残る杉の林は杉の香ぞする
帰潮s23p49    かいかいと杉の木立より鳴く蛙ひくき曇はゆふべになりぬ
地表s28p41    一谷はしみ生ふる杉そのうへに山の高原は黄葉おぼろに
群丘s35p67    杉落葉石水院址の礎石など降りにし雨のなごりにぬるる
形影s43p48    老杉のかわける膚のにほひにもわが生涯の寂しさはあり
形影s44p78    湖の上にしのぎてをりふしに風の音する山の寺の杉
形影s44p78    長命寺裏山杉にたつ風の伝ふる音を聞けばしづけし
形影s44p109   君の歌われはよろこぶ山に植ゑし杉をかへりみる君の如くに
開冬s47p75    ぬばたまの羽黒の杉に降りしづむ雨のひびきを聞きつつ眠る
天眼s52p54    道のべに霜やけて朱き杉の立つこころなつかしき東金あたり


〔すすき(注)〕
軽風t15s2p17  道のべの芒の原に馬つなぎ赤土を掘る人居たりけり
軽風s5p53     出水ひきてまだかわかざるところには伏したるままの萱青々し
軽風s5p58     二荒山の東にのびしなだりには日にてらされし萱原がみゆ
軽風s6p62     おどろなる枯萱叢を目の下に日影あたたかき坂にいこひぬ
軽風s8p92     この谷にひとむらがりの芒枯れおどろなる上にのこりたる雪
帰潮s22p31    行きずりに手をふるるとき道ばたのあかざも萱も冷たくなりぬ―再掲
地表s29p53    青き萱桑の若葉も春なれど狭き谷田に鳴く蛙なし
群丘s33p36    ひとしきりとよもす風に大山の蓮浄院の屋根の萱とぶ
形影s41p10    薄よりくれなゐの穂のいづるまで海のほとりの梅雨ふけわたる
形影s44p66    ひさびさの雨にぬれゆく庭のもの枯れしすすきに顕つ朱も見ん
形影s44p73    まだ萌えぬ萱場とぞいふ青山のいただき遠くみゆる白枯
形影s44p80    ここに来て三年こころをのべたりと浜萱あをきところに憩ふ
開冬s45p11    砂畑に萱をめぐらして培へば冬のたけ低きゑんどうが咲く
開冬s45p29    砂畑は萱にこもれば汀より見えて茫々としたる寂しさ
開冬s46p55    黒雲のごとき青空みえそめて青野の山の薄が光る
開冬s47p79    山かひに人の住み捨てし田のあれば白くかがやく茅原なせり
開冬s49p115   秋の日に踊るすすきといふ比喩をよろこぶまでに穂はみづみづし
星宿s55p42    薄の穂いづこにも白くなびきゐる佐渡晴天の旅をよろこぶ
天眼s52p78    夏の日のアンカレ―ジの路傍には風にふかるる赤き萱の穂
天眼s53p82    わが窓につづく枯萱日にひかり波たたぬゆゑ海遠く見ゆ


〔すずかけ〕
星宿s55p29    冬の日の晴れて葉の無き街路樹の篠懸は木肌うつくしき時


〔すずらん〕
立房s21p80    草枯れのなかにまじれる鈴蘭の紅実もともに踏みつつぞ行く


〔すはう(注)〕
歩道s13p81    貸家をさがしに出でし序でありて蘇芳の咲ける庭を見てたつ
天眼s53p87    海棠も蘇芳もはなの濃厚にして変化なき晩春の日々―再掲
星宿s56p57    わが庭のいろどりとしてある蘇芳ゆふぐれ特にくれなゐ強し


〔すひかづら(注)〕
立房s21p55    すひかずら蒸し暑く咲くまれまれに妻とたづさへ行く道のべに
星宿s57p82    垣おほひすひかづら咲く日を経つつ山峡の湯に身を養ひき


〔すみれ(注)〕
開冬s47p82    すみれ咲き羊歯もえいづる高原の一日のあそびとぶ虫もなし
星宿s55p45    すみれにも返花さくかすけさを顧みて過ぎし冷夏をいたむ
星宿s57p76    植込にふく風かよふをりをりに菫などかすけき茎振動す


〔すもも〕
立房s21p42    ひややかに日暮れかかれる窓そとは李の花はいまだ過ぎなく


〔ぜらにうむ(注)〕
星宿s57p80    ゼラニュ―ム紅葉せし鉢路のべによみがへりつつ春晩れてゆく
星宿s57p102   ゼラニュ―ムの紅葉菜の花五六株今日ゆくりなく道に見しもの
黄月s61p82    冬の日のやうやくたけて光るころゼラニュ―ムなど四季咲き親し


〔せろり― 〕
群丘s32p33    隧道をいで来し浅き山峡はセロリーの畑クルスある家


〔ぜんまい〕
群丘s33p36    大山の蓮浄院はしづかなる縁にひろげてぜんまいを乾す


〔そてつ〕
群丘s34p52    ことごとく山のなだりは蘇鉄の木風にすがしくその葉輝く
群丘s34p52    ちかよりて蘇鉄の朱実みつるとき蘇鉄林はあらあらしけれ
群丘s34p53    動く雲きりのごとくに明るきに蘇鉄しげれる山のしづかさ
群丘s34p53    雲に啼くひばりの声はこの真昼蘇鉄のしげる山にひびかふ
群丘s34p53    蘇鉄山幾重にも見えひとかたは音なき海の明るさあはれ
群丘s34p53    安木屋場といふ部落にて蘇鉄山の下にいささかの水田が光る
群丘s34p54    海ぞひの明るき道に逢ひしかば籠に蘇鉄の朱実を負へり
群丘s34p54    高倉の床に蘇鉄のあかき実を乾せり古代の風ふくところ


〔そば〕
歩道s8p10     くだり来て日向となりぬ蕎麦の花咲ける畑に朝露はなし
立房s20p12    道のべの蕎麦の畑は輝きてしげくもあるか朝のつゆじも
立房s21p58    風たちしゆふまぐれにてうるほへる白ぞたゆたふ蕎麦の畑は
形影s41p18    午睡よりさめて蕎麦をくふ病院のすべてしづまれる歳末の日に
形影s44p94    みんなみの長崎鼻にちかづきてしづかなる畑秋蕎麦の花


〔そらまめ〕
形影s44p80    ゑんどうもそらまめも咲く渚畑潮にけぶりて白し春日は―再掲
開冬s46p43    豌豆も蚕豆も花はかなくてたえまなき海の響にゆるる―再掲