平成十九年十二月号
秋の日の臨海都市の上の空飛行船ゆくいたくしづけく 四元仰
まぎれなき老残ふたりかすかにて山の家居に生をしつなぐ 船河正則
むなしかる生と思へど忘れがたき日あり人ありただなつかしく 西見恒生
台風の事なくすぎしゆふぐれに隣家の壁がほのぼの紅し 勝又弘子
底ごもるかなしみ消えず水引の咲ける秋庭音なく暮るる 戸田佳子
豊かなるしまとねりこの白き花梅雨のあめやむ庭に明るし 原田美枝
花咲かぬつつじの大株切りたれば庭の明るさそこより通ふ 岩前洋子
蓮沼を舟に行くときめぐりには淡き香のたつくれなゐの花 南條トヨ子
相容れぬ人と居りても淡々と職務果たして季節は移る 大野千枝子
風止みてかがやく星の映る池おもだかの咲く闇やはらかし 福田量子
平成十九年十一月号
銀行の統合ありてわが店の未来唐突に混沌となる 黒岩二郎
見上ぐれば箱根のなだり色の降るごとく紫陽花連なり咲けり 高橋正幸
ぜんまいを水に戻して唐突に亡き母恋ひし遠き日恋ひし 多田隈良子
衰へし多くの老人逝きたるかあはれ酷暑の夏も過ぎたり 福士修二
池なかの木に止りたる瑠璃色の翡翠は暫く魚をうかがふ 大久保寿郎
ひろき葉に茎伸びそだつ秋海棠咲く花待てば日々つゆの雨 大立一
韮の花白く咲きつつ風あれば風に従ふ残暑の畑 日高恵子
水平線さかひとしたる空の青海の青見ゆ知床の海 高本輝江
娘に合はせ夫の亡き世を生ききたり日々つつましく共に暮らして 小池サチ子
鉄柵に停りし雉子の鳴きゐしが青田の上を光り翔びゆく 山垣美枝子
平成十九年十月号
街路樹の西日に影をながく引く蝉なくのみの時のなかゆく 佐保田芳訓
病める間に時流れゐて庭の木槿咲きをり花の中心赤く 斉藤尚子
白鳥の群に混りて沼にゐし鴨らいつしか岸に眠れる 八重嶋勲
手術の可否案ずるひと日またひと日転移癌担ふ残生さびし 柳 等
整理され幹うつくしき杉山の高き梢は風を集むる 長栄つや
さからひてわれに対へる少年を抱けばその手あたたかかりき 島田幹夫
埋葬の終ればこもごも別れゆく晴れ透る空の青のさびしさ 森田良子
永らへて未来夢なき老となり一人声なき日々をすごせり 小嶋あきえ
色あはく風に流るる桜花咲きをはりたるものはかすけし 高橋洋子
一生を夫に仕へたる義姉が穏しく晴れし秋の日に逝く 安田恭子
平成十九年九月号
百寿まで生きんと笑みてありしかど一度病めばかくも儚し 青田伸夫
とのぐもる空ひとところ光りつつ通り雨過ぐ海近き丘 佐藤淳子
清き香をともなひながら易々と蜜柑の花片風に乗りゆく 近藤清子
谷あひを挟みて緑したたれる碧極みなき六月の天 箕輪敏行
つつしみのなき発言はおもはざる結果となりて会終りたり 元田裕代
親不知の海の静かさ入つ日の白き明るさ入梅ちかく 井波紀久子
出発を待ちゐる機体の静かさか暮れ方の日の光を反す 森田暢子
北こぶしの枝にある花散れる花今朝降る雨に白のしづけし 原公子
ゆくりなく寄りし茶房の窓辺にはつるばら匂ふ紅の花 斉藤永子
果てしなく広がる丘を黄に染めて菜の花群は海へ連なる 成田光雄
平成十九年八月号
午前四時目ざめて聞くは間を置きて高空渡るながき風音 江畑耕作
城の園に咲ききはまれる桜花そのはなやぎは今日のかなしみ 田村茂子
囀りの短く雀つぎつぎに藁運びくるのどかなる晴 菅原照子
遺書書けと息子に伝はれ書かんとす百一歳とは永く生きたり 木佐貫慶蔵
障害ある夫を恃み残生のうちなる一日一日を送る 佐藤みちや
薬打ち眠りし兄が現との境なきまま終となりたり 佐川和子
遠く見れば働く人も田植機も冷たき霧の底ひにうごく 石井清恵
幼子に心を残しその後を生き給ひしか会ひたかりけん 井手貴美子
たゆたへる雲いつしかにけぢめなく色やはらかな夕暮となる 我孫子正子
おほよそは過ぎしと思ふわがひと世夕べ厨に子の飯を炊く 北舘紀佐
平成十九年七月号
ガンジスの曠野昏れゆくひとときに濃き夕闇は野より拡がる 内藤喜八郎
金星の光届かん夕寒くはくもくれんの花の咲く上 黒田淑子
あたたかき日をよろこびて畑打てば葱に葱の香土に土の香 加古敬子
ひびきあげ春の嵐のつづく夜半窓に音なく稲妻走る 古賀雅
朝凪の砂の渚に声もなく群れゐる鴉時にあらそふ 井上栄子
雨やみて朝日に光り散る桜つもる花びら吹き流さるる 長谷川淳子
うす日さす風なき午後の桜並木光をひきて花びらの散る 小澤光恵
夜すがらに吹く風音を聞きゐしがいつしか深く眠りたるらし 戸田民子
月明り村里静かに更くる夜高木に鳴けるむささびの声 岩崎豊
梨の花咲き満つる枝にモツキンバードの声の騒がし明方の庭 岩弘光香
平成十九年六月号
世に淡くなりつつ病めば来訪の人のとぼしく暦日おぼろ 故 塙千里
ひらひらと弥生なかばの都市にふるあるかなきかの初雪哀れ 田野陽
幾人も子を亡くしし母死ぬ事を寂しくなしと言ひて逝きにき 鎌田和子
雨のつぶ雪とも分かず三月の光の中をよぎるものあり 神田あき子
ガード下の一膳飯屋に飯を喰ふあるがままにて孤独な一人 中里英男
雪落す傘にふたたび雪の音聞こゆるとほき追憶の音 草葉玲子
久々に強き北風吹く空の風車の群に二月のひかり 樫井礼子
関越のトンネル抜けてまのあたり越後湯沢は白く吹雪けり 細貝恵子
風の吹く向きに枯葦かたむきて人首川のほとりは寒し 菊池悦子
軒の垂氷あすはふとらん夕されば雪のしづくも間遠くなりて 千葉千代子
平成十九年五月号
楢山を越えて吹く風あたたかし雪なき一月後半の晴れ 板宮清治
街川の汀ぴちぴちと音するは鯔の子群れて苔をついばむ 角田三苗
しみじみとここは寂しといふ夫おきて帰り来われもさびしく 近藤千恵
川底の土均されて土匂ひ水匂ひつつ寒の水ゆく 三浦てるよ
医師不足の広域病院静まりて予約の患者ぽつねんと居る 中美久里子
われもまた生まざりし子ら六人の母となりきて卒寿を迎ふ 三田みつ
ウイルスの見えぬ恐怖は重機にて埋めらるる万の鶏にあり 坂本信子
引く水の音する部屋に臥しながら太平山の麓しづけし 石ケ森やす子
ストレスと共に生き来し団塊世代わが子五十九歳一期とぞする 中村寿子
命いま過ぎたりしかど七十八歳夫はただに生きたかりけん 甲斐隆子
平成十九年四月号
日に酔ひて机にゐたり拘束のなき残年を何はすくはん 菊澤研一
いつの世も戦火絶えざるこの地球めぐりて冬の半月淡し 長坂梗
店の客三人ばかりにけふ終るしげき雨音やむとしもなく 鈴木真澄
眼下のひくきは夜の浜離宮池は冬潮満ちゐるころか 早川政子
見はるかす遠き街空夕暮れて音なく光る冬の花火は 秋山綾子
豊作の布施の大根多く干すみ寺しづけし冬深みつつ 福山寿子
動かざる肺にて一途に呼吸する朦朧としつつただ生きんとし 河野泰一
暖かき元旦迎へ光さす厨に母娘の朝食終る 藤原加壽子
行交へば互に目の合ひ会釈する老いたるわれら人の恋しく 金子素恵子
妻ふたり先に逝きたり残されて耳かたむける寒の雨音 金井一夫
平成十九年三月号
大泉が池の水面は映る樹の影を湛へて広く音なし 片山新一郎
不慮の死を諾ひがたく思ひがたく冬至前後の日々の悲しみ 秋葉四郎
朝日さす葵の群は吹く風に茎ごと揺れて花ら静けし 大塚栄一
薄ら氷の岸をはなれて動く頃日向の池に風の音する 長澤郁子
亡き父も亡き母もゐる夢を見きかつてわが家にありふれし景 仲田紘基
暮れなづむ神社の杜にしろじろと花明りして冬桜咲く 浦靖子
厨辺の改築なして余剰なる物なく広き簡潔は良し 右田恭子
入院し窓より見ゆるわが里は今し夕日にかがやきはじむ 興梠一元
父ちゃんと銀座行きつつ言ふ孫にその父次第に寡黙となりぬ 濱崎伸枝
天地の間に等しく冷えゐたりランドマ―クタワ―めぐるビル群 山本和之
平成十九年二月号
もみぢせる桜葉の間に月見えて夕べの光寒くなりたり 松生富喜子
紅葉を鎮めて曇る山さびし十年経て来つダム湖のほとり 浅井富栄
庭たづみ乾きて消えし跡の如うつし身のなき妻をし憶ふ 五十嵐邦夫
ややとほく見ゆる光は川と海照りてまじはる音なきままに 上村閑子夫
朝明けて梓の川に動く霧音なく白樺林をつつむ 堀江登美子
咳しつつ幾度にてもわれを呼ぶ息子装ふ電話のこゑは 本間百々代
朝まだき空にかたむくオリオンの光はとほき回想を呼ぶ 駒沢信子
霧おほふ海辺を歩む果てのなき遠き世に来しごとく思へて 小田美智子
啼く声に空を仰げば白鳥の群輝きて南へ向ふ 下又治代
ながながと伸びたる蛇を銜へつつ鷹が真夏の大空を飛ぶ 柳沼ステ
平成十九年一月号
中秋の月を仰ぎて雲に入り雲より出づるを見たるときの間 香川美人
こもりゐるわがまのあたりみづきの実ついばむ小鳥宙がへりたり 吉田和氣子
幻のごとく記憶に残らんか老いてわが来し薄広原 長坂梗
高度五千の峠を越えしパキスタンこよなき秋の風吹きてをり 荒木千春子
冬日差す園のうちにて美しきフラミンゴをり一群の朱 岩沢時子
放たれし短かき筏貯木場の雨降る中を音なくすすむ 中村達
紅紐といふ花赤く細く垂るこの単純にこころはあそぶ 坂本信子
いかつりの船いつせいに戻りくる暁闇の海のしづけさ 鈴木八重子
木を洩れてさす朝光にかすかなるみずひきの花朱が輝く 津田真弓
火砕流に焼けし校舎の残骸を山よりの風吹き抜けてゆく 竹田千代子
平成十八年十二月号
輝きてみえし戦後はまぼろしか願はぬかたに世の移りゆく 高橋正幸
体力と共に心の弾力の如きも消えゆく足病みてより 小山正一
血縁のなき地に住みて五十年われ内面をさらすことなし 滝澤良子
登り来し黒森山のしづけさや水流れ落つ浄きその音 渡邉兼敏
巣より落ちいまだ飛べざるひな燕われを威嚇し羽ばたくあはれ 三浦弘子
出でてゆく船と帰りて来し船と港に白く水脈の行き交ふ 吉岡イマ子
九十八歳の母を看取りて逝きたしとみづからの癌を怖れつつ願ふ 別府美江
あかあかと彼岸花咲く田の畦に手押車と共に安らふ 刎勘助
一面のつばなゆるれば夕光はその銀色に吸はるるごとし 小笠原静香
たよりなくとぶひぐらしが山ぎはの花睡蓮の池わたりきる 金井一夫
平成十八年十一月号
雲のなか下り来れば晴れをりてアイガー北壁に人影うごく 後藤健治
畝の間にこぼれて芽ぶく葱の種青々として梅雨ふけわたる 高橋緑花
稲の花かすけく匂ふ山間の稲田明るく月のさしをり 松岡千津子
地底湖の中の石筍さまざまの形に育つ時の累積 中村淳悦
大雪にひとたび地に伏しゐしが紅花空木立ちて花満つ 鈴木恵子
岩手山姫神山があひむかひ締まる大気の雪の香さびし 畑岡ミネヨ
夏日さす蔵王山頂にわく雲は影ゆるやかに火口湖わたる 有馬典子
わが町はいま台風進路のうちにあり庭の木々らの朝日に光る 黒木順子
ジーンズを刺子にさしし祖母が逝き着たるわが子も逝きて形見ぞ 大津留偕子
われの手をとりて何方と問ふ父の目には涙が溢れんばかり 半田富雄
平成十八年十月号
わが窓の近くに鳴ける鶯の平凡不変のこゑ美しき 吉田和氣子
遠近の木にゐる鴉翔ぶからす夕べひと時こゑ合はせ鳴く 長坂梗
無縁仏八千体とふ化野に経誦するごとき雨の音きく 乾定子
春霖といふ雨さむく降る日にて過ぎし挫折をいまは嘆かず 田辺誓司
わが庭のそこかしこにて檜扇は茎立ち朱き花捧げ咲く 平林ひさ子
はつなつの朝の三日月中空に疲れしものの如くかたむく 飯田静
はやばやと土に馴染むか昨日植ゑし石楠花は葉を朝日に広ぐ 門祐子
焼夷弾を消して消失免れし生家八十年の歴史を閉づる 三輪嘉子
終末の医療受くると決めし日に眠れるやうに弟逝きし 本松純子
独り居の父に厳しきこの夏の暑さをもはや母は知り得ず 清水幹夫
平成十八年九月号
高窓を装ふ花がなよなよとうごきて過去を呼びあへるらし 菊澤研一
榧の幹公孫樹の幹に手を触れて遠き世の日の温かさあり 秋葉四郎
そばだてるクレーン一基を中心に日々変りゆく小さなる街 青田伸夫
夕べゆく湾橋灯火きらめきて車往き交ふただに音なく 飯塚和子
本読めず物書くことも叶はずして眼を病む一日の永き夕暮 石井伊三郎
背を越す独活の花咲きさみだれの雫あふるる草千里ゆく 大津留敬
深谿を隔つるなだり高くにて青葉のひまの家居しづけし 船河正則
己が食む食事懇ろにつくりたり老いて用なき一人の暮らし 川田恭子
泰山木のま白き莟ふくらみておのおの花の向き定め立つ 岩谷紀子
謀に似てさびしけれ老父を介護施設に入るる相談 大竹智子
平成十八年八月号
庭に咲くつつじの花群いつしかに終となりてゆく日々はやし 香川美人
遅滞なき授受のすがしさ托鉢の僧衆道を音なく歩む 内藤喜八郎
細りゆく腕に点滴受けながらかかるさまにてわが生はあり 塙千里
谷水を注ぎて洗ふ兄の墓けふの現の悲しみあはく 水津正夫
苗そだつ田ごとの水の明るさや棚田は朝の雨の降りつつ 鈴木真澄
巻き出でし葉が徐ろにほぐれつつ三つ葉は太き茎たちあがる 大場わか
水張田に立つ細波を盛り上げて風の押しゆくひかり見てをり 千葉令子
二日間降り継ぐ黄砂やおしなべて瓦の屋根の輝き乏し 高沢紀子
手のひらにもつ父の辞書やはらかく三十年われ使ひ古しし 岩弘光香
せめぎあふ潮流やがて大いなる渦となりゆく鳴門海峡 藤本ひさ子
平成十八年七月号
北空の白鳥遠くきこゆるに春田隔てて声かぎりなし 板宮清治
簡潔に伐られて乾く樫の幹個々単独の群立さびし 四元仰
職退きて離れ住めれば互みなる死さへ知らずに別れ行くらし 渡辺謙
倦み飽きし長病なるにときにして颯爽と歩む夢に目醒むる 柳等
頬触れば果汁の滲み出づるごとをとめご孫の肌みづみづし 村上時子
薪能の鼓の音が月の照るさむき春山の峡にこだます 寺田和子
わが部屋に夜半の月かげ移れるを見つつふたたび眠りたるらし 小澤絹子
灼熱のごとく胸にし燃ゆる火よわがいのちありわが芸のあり 宝井馬琴
その果も見えぬばかりに此処かしこ梅咲き満ちて人声とほし 会津淑子
夜勤せる地下機械室に笛のごとき風音きこゆ吹雪ゐるらし 南場征哉
平成十八年六月号
吹雪止むきざしか風の裏側のごとき響を聞く夜半寒し 片山新一郎
病むわれを措きて季逝く心地する昨日の桜今日槻若葉 長坂梗
歩む様とつとつとしてうら悲し老いて町道ゆくわれの影 浅井富栄
病みをれば鍵かけて夫の出でゆきぬ外は静かに雨のふるらし 加古敬子
暖房といふほどのものなかりしもあたたかかりき昭和の農家 三嶋洋
麦青くつづく冬畑わがゆけば先ゆく雉の色あざやけし 多田泰子
降る雪に足跡たちまち消えてしまふ道をすがしき思ひに歩む 門裕子
騒がしき廊下もまれに声一つなき時のあり午後の病棟 森典子
マンションの通路に並ぶ児童等は二列になりて登校はじむ 本松純子
山肌のなだりにゆらぐ黄の花は咲く福寿草五十万株 中澤晴子
平成十八年五月号
雨晴れて大樹茂れる寺庭に銀杏散れる古代の香り 松生富喜子
望むもの少き妻に苦の過ぎて現はれし病悲しくもあるか 長田邦雄
聴禽書屋閉ざす障子の明るむは雪曇よりまれに日のさす 本間百々代
風花の日にひかりとぶ湖は波の名残をとどめて凍る 石川節子
手術後の浅き眠りやかたはらに子の匂ひある闇やはらかし 大越美代
寝る妻の息に薬の匂して窓に音なく降る雪の影 吉田昭
おのづから時を封じて青みつつ滝は轟くかたちに凍る 鈴木八重子
風吹けば揺るるつり橋親しみて父母の墓へと折々渡る 大畑千代江
寒明けの夕べ俄に風いでて西空烈しき緋の色となる 薮内真智子
テナントのよく入れ替る小さきビル今朝一角に花屋が開く 松永ケイ子
平成十八年四月号
雪を呼ぶ風のひびきや柚子の湯に体しづめて過去をとむらふ 菊沢研一
入院の日の空晴れてゆく道の山武杉山天空限る 江畑耕作
はるかなる思慕の如くに光差す雪雲の間の朱き夕映 黒田淑子
舌を病む身の重大もさりながらなほ玉の緒のいのちかがやけ 田野陽
戦犯を裁きしヌ―レンバ―グのビル秋の日の下今日静かなり 多田隈良子
衰ふるのみなるわれと思ほえど死はまだ遠し死はまだ遠し 故 加来進
吹く風に揺るる向日葵幾千の黄の輝きに酔ふ如く立つ 小林苓子
めぐり行く摩文仁の丘の青き空青き海見て唯に哀しき 金澤まさ子
鉄筋の屋根を解きゆくバ―ナ―の火花は冬の風に飛びをり 右田恭子
花さかる曽我梅林に光ありひかりの中にわれは安らぐ 佐々木勝則
平成十八年三月号
紅葉の山いくつ越えうつつなく過ぎし二日かいのちのありて 吉田和氣子
黄と朱と眼を射るもみぢに混りつつ冬桜咲く光かすけく 秋葉四郎
時を超え生きゆく人らここに見つ大同郊外驢馬に乗りつつ 高橋正幸
かつて肺を病みたるわれの胸痛む老残かなし雪の降る朝 大立一
白波のたつ燧灘見はるかす山に夫と伊予柑を摘む 別府美枝子
冬山の視界明るし間をおきて木を切る音の谺鋭く 浅見剛史
大声にて助けてといふ訓練を幼に強いる現世悲し 中川愛子
独り居に募る寂しさ故もなく炬燵にこもり吹雪見てをり 羽藤堯
病室に四人の媼黙しつつ夕飯食めば歯の音のする 井手貴美子
飛びゆきしかりがね沼に帰らんか奥羽山脈に赤き日が入る 佐々木比佐子
平成十八年二月号
距離おきてゐしわれ故に見えしもの現実となる恐れをりしに 千田きみ
訪れし伊豆沼の辺のさびしさや吹き渡る風に枯蓮ゆるる 片山晴子
音ひびき電車近づく地下鉄に密度ある風さきがけて来る 中村達
九十歳過ぎて別るる夫妻にて調停しがたし歳月重く 安田恭子
沈む日の光やさしくとどきをりフランクフルトの長き家並 横山よしの
霧晴れて国土に近き国後の人の嘆きの聞こゆるごとし 人見ホノ
住み人のなき古家にたましひのぬかれし仏壇しづもるあはれ 山形礼子
青々と葉の繁りたる石蕗に今朝黄の花の抜き立ちて咲く 井上成子
秋ひと日丘畑に生姜をわが掘りて脱ぎし野良着にその香の匂ふ 佐伯幸子
新雪をかづく鳥海の山さやか日々覆ひゐし黒雲のなく 松井藤夫
平成十八年一月号
病室に友をまもりてゐるしばしさながら重きあぎとひを聞く 上村閑子夫
山裾の荒草刈ればけだものの著き匂のたつ所あり 山上蒼
山の雨しづかに過ぎて白樺の林雫す風のさやけく 堀江登美子
なきがらの無きゆゑ葬儀も通夜もなし家片づけてその子等帰る 小田美知子
回帰する野鳥ら休む樹々あればもろ鳥よりて鳴く声楽し 柏村四郎
台風の過ぎて日の差すわが庭に秋明菊は数増して咲く 桜井秀子
印相を結ぶお指をくぐりくる秋風やさしけふの九体寺 広岡佳子
進水を終へし海峡さわだちて塗料の交じる波打ち返す 小池京子
山のいろを夕かたまけて二分するやはらかき日と濃き雲の影 勝又暁子
木群なし公園占むる椿の葉冷たきまでに光を放つ 濱崎伸枝
平成十七年十二月号
岩乾き砂かわきたるなだれより上る噴煙数おびただし 神田あき子
料金不足に返送されし子への文さいはひとして再び出さず 末成和子
意識して年より若く粧へる長女の付けし口紅あはれ 松村春代
在りし日の夫履きたる桐の下駄玄関に置き新盆迎ふ 浅沼まつ
夏の日はたゆたふ如く暮れ難し今少し抜かな庭のあらくさ 北舘紀佐
夕暮の川に靄立つ寺の町鐘の音静かに流れゆきたり 岩崎豊
山峡の稲田いづこにも猪よけの電柵光る夕日をうけて 河野映子
台風の去りし朝明け倒伏の稲自づから立直りゆく 宗像貞子
街なかの白壁に秋の日のいろの染みとほるまで深くなりたり 山本和之
夏空に白さるすべり照り映えてあるかなきかの風に揺れゐる 小池正子
平成十七年十一月号
思ひみしこともなかりき墜落の前に人凍りゐたりといふ記事 井川美枝子
中空に漂ひながら移りゆく海霧さびし梅雨明けちかく 大和田葉子
コンピューターの研修のため一日を外の見えざる部屋にてすごす 鈴木裕子
朝明けの静けき空にさゐさゐとわが刈る荒草匂立ちくる 伊藤あさ子
いづこにもリラの花咲き春逝かんこの幾日か風かぐはしく 宮崎民子
夕立の過ぎてにはかに麻痺の足冷ゆる寂しさ夏逝かんとす 石井靖子
つづまりは人を許して平安の心われに戻り来りぬ 角田美和子
夜勤明け自ら作りし新聞を自宅に開く暁の居間 山上浩二郎
幼子の手をひくごとく呆けたる姑連れ歩く友に日々会ふ 豊田真利子
東方の空しろじろと明けくれば峡の稲田の走り穂光る 村上勝史
平成十七年十月号
予め用心しつつよろめけり座より立つ時階下る時 大西孝枝
剛直といはん象に前山に樅の一木がぬき出でて立つ 菅原伸
葉桜となりし枝垂れはほしいまま風に従ひその影ゆらぐ 上川原ツル子
夕つ日の榊の花に差しおよぶ静かなるとき亡き父思ふ 畠山明美
行末を語ることなく別れゆく友ながらへて健やかにあれ 藤澤玲子
衰へし視力は疲れもたらすか宵はやばやと眠りのきざす 蒲原えみ
スクリユ―に貝付きたるらし船足の遅きわが船海荒れ始む 永山秀男
伏流の水轟きて元滝は万緑の中白けむりたつ 小園桂子
不老水といはるる泉たづぬれば老人あまた居りて水汲む 佐々木比佐子
携帯電話に事務の約束とりつくる男あり樹下に若くはあらず 高岡都
平成十七年九月号
をしげなく牡丹花切りて供へたり声なき夫と語らふしばし 佐伯啓子
涙たるる事もあるなり亡き夫を偲びて生くる一人の日々に 佐々木美代
戦の日々ひたすらに通ひたる工場残るいたくしづかに 松本トクコ
終戦の年に父亡く兄逝きて大き悲しみに馴れず生き来し 早川政子
ほのかにも残照ありて水満ちし田に家々の灯りが揺らぐ 青木綱子
待つことも待たるることもなくなりて独りの夕餉簡素に終る 羽藤堯
枇杷の実も固き古葉も落ちつぎてわが掃く路地は梅雨に入りゆく 荒川愛子
雨降らぬ入梅に咲き紫陽花の葉の色花の色褪せてゆく 石井靖子
面影は今も顕ちくる袴穿き下駄音高く父歩みゐき 河南誠一郎
まぎれなく昨夜の雨に根を張れる茄子の葉陰の花みづみづし 高沢紀子
平成十七年八月号
やはらかき春日に蕾ふくらみてこの畑の桃ら枝ちからあり 黒岩二郎
八十年糸をつむぎし工場の解かれゆく音終日ひびく 水津正夫
父と母の命日同じ父逝きて六十七年母は七年 平抜敏子
母の手術終ふるを待ちて病室に所在なく父がしはぶきをする 門祐子
日のくれの川べり寒し滑らかに桜の幹の片明りして 吉田昭
仰ぎ見る樟の大樹に花咲きて吹く風匂ふ通院の道 西本とき子
春雷のにはかに響み降る雪のひとときにして庭木に白し 滝口恵美子
笊に干す手作りの海苔乾きゆく音のきこゆる冬の浜辺に 山形ふみ子
今よりは気を奮ひおこし生きんとて新しき家団地に移る 播磨雅利
利根川の堤に立てば水張田の広々と照る川より低く 藪内真智子
平成十七年七月号
立ちてゐて危きまでに吹く風に散る木蓮の遠くは飛ばず 長坂梗
入棺の友の骸を持ち上げし双手そのまま引かるる如し 高橋緑花
同居する子らに先立ちピアノ着き老いし心のかすかにきほふ 斎藤八重子
わが腕に眠りし幼のぬくもりが帰りし後もしばらく残る 鹿島典子
片足の泳ぎ覚えて白鳥の雛一列に橋の下ゆく 八木みさほ
再生のボタン自ら押すごとくひと日短き旅に出で来つ 佐々木加代子
枕辺に読みかけの本置きしまま母は九十七のひと生を終る 佐藤正子
検査受くる夫に添ひて廊歩む歩幅小さくなりしわが夫 安孫子正子
夕暮に啼く梟の低声は雛への合図雛よりの声 藤本ひさ子
疾き風に雲はらはれて雪原は春近き日の光を反す 南場征哉
平成十七年六月号
朝より日の照りわたり庭の木に積みたる雪が絶間なく散る 香川美人
風雪の夜の闇よりかすかなる高速道の音聞き眠る 板宮清治
高層のあはひに注ぐ夜の雨窓の灯に須臾光り落下す 青田伸夫
満月のすこし欠けたる輝きに暁の雲なびく静かさ 五十嵐邦夫
峡来れば蕾ふくらむ辛夷の木うるほふ雪に影ひきて立つ 佐々木勉
風花を捕へんとして児がはしる柳しづかに芽を吹くゆふべ 掴祐太郎
黄に熟れし楝房実の粒々は雪解水保ちしづくするなし 西内瑞枝
雪被く山仰ぐとき所どころ微かに雪散る風通ふらし 中田正夫
ことごとく梢を垂れて霜を負ふたかむらしづか朝の曇に 新宮哲雄
真向へる神島赤く入日差し寒の海峡暮れゆかんとす 濱口子三郎
平成十七年五月号
朦朧としたる意識に幾たびかわれを呼ぶ父の傍にをり 佐保田芳訓
陸橋に見おろす夜の空間は雪ふりそそぐこぶしの冬木 四元仰
道の辺の水仙の花氷りをり黄の透きとほるまでに明るく 佐藤淳子
半円の暈もつしろき月落ちて闇かぎりなし冬の木原は 高橋一郎
堪へ難き痛みに一日臥しをれば冬の日めぐり窓に月あり 岩沢時子
加湿器の吐く蒸気にてうるほひし闇にほどなく眠りたるらし 駒沢信子
狭霧こむる大和国原に朝の日は輝きわたり冬すぎんとす 稲熊眞彦
木枯の荒ぶる闇に身を置きて明けなば朝の光を待たん 横田マサキ
言ひし事言はざる事も悔となり父母の齢を生きて果なし 齋藤すみ子
耳とほき父が襖を開け閉むる音をさびしむ真夜に目覚めて 大武智子
平成十七年四月号
妻眠る寺の鐘の音夕ぐれの空渡りくるながくかすけく 江畑耕作
胸に掌を置きて己に還る時避難命令伝達の声 瀧澤良子
友の一世さびしかりしと思ひしが老人施設に恋遂げてゐし 千田きみ
やはらかき寒の雨降る音のしてひとりの部屋に雫の光 堀江登美子
賀状書く夫のかたへにヘルペスを病みゐるわれははかなくゐたり 斎藤八重子
産卵期のはくれんの群利根川の水をたたきてひたすらに跳ぶ 南條トヨ子
慰むることば通はず今やはや悲しき母となり給ふなり 宝井馬琴
木々に降る雪のさやけき音きこえ平成十六年終りゆくなり 村野悦子
老いしわれがさらに老いたる夫を看るこの世の嘆き誰に語らん 小池サチ子
自動支払機のみが働く夜の銀行白き灯下に人影のあり 積田優
平成十七年三月号
上がるべき足のあがらず絨毯を擦りゆく今朝の思ひ寂しき 由谷一郎
明方の街とざしゐる霧の中まれに行く人影やはらかし 松生富喜子
幻聴の蝉の声満ちわが常の日々をさびしむ冬深むころ 浅井富江
三月の暁暗き山深く入りゆきし子は生きてかへらず 大津留敬
亡き先生偲ぶ木の椅子白ざれて蛇崩坂は初冬のひかり 佐藤みちや
台風の暴風雨圏すれすれにわが乗る船は荒海の中 橋本倫子
やうやくに産卵をへて横たはる鮭の眼を鴉がねらふ 竹本貞子
空の青しづかに満つる村の朝杉山越えてわたり鳥くる 坂口貞幸
背をかがめナ―スキヤツプを戴きて立てば白衣の姿整ふ 六田正英
日のさして細りし氷柱軒はなれこころよき音連想を生む 橋本真理子
平成十七年二月号
暖冬の兆し喜びゐたりしに放射冷却の天晴れわたる 秋葉四郎
重量のあるかなきかにゆるやかに鳩が梢より地におりきたる 加古敬子
痛むなく進むことなき腸の腫瘍わが終命と共に果てなん 松帆喜美代
十三夜の月東天にのぼりくる余震にをののきわれらの居れば 加藤茂
ひさびさに降る夜の雨人為なき音はさながらこころを洗ふ 田辺誓司
崩落せし岩に埋もるる車より子供救はる夕暮近く 梅原啓介
台風に三度も遭ひて倒れたる稲引き起こし引き起こし刈る 佐藤文雄
いつ来るか分らぬ地震列島の上にわが街わが命あり 清水和子
癌を病む余命いくばくあるらんか今朝の目覚の窓の明るさ 渋谷静子
雨止みし農道行けば水溜りに雲映りゐて静かにうごく 上杉多美子
平成十七年一月号
天は荒れ地は震ひつつ十日経ち二十日経ちつつ人はすべなし 吉田和気子
ななかまどなどのもみぢば朝あけし北上川に光をおくる 菊澤研一
暁に見えて来しもの雨戸なき窓辺に近き畳のひろさ 内藤喜八郎
北鮮の船いましがた帰りしとふ浜のしづかさ立つ人もなく 近藤千恵
影を曳きまた影を踏むマラソンの先頭集団やや崩れそむ 田島知恵
帰らざる鴨はおのおの風に向き羽ばたきしをり夕暮近く 清宮紀子
嵐去りし朝しづけく西空におぼろに光る落月のあり 荒木精子
夕光の淡くなりたる道の辺に闇をひろぐるさいかちの木は 安部スミ子
くもり日の夕ぐれの海沖遠く飛ぶ鳥のあり形するどく 中冨貴子
ちぎれ飛ぶ黒雲の見え乗客はおのおの神仏ただ祈るのみ 羽鳥愛
平成十六年十二月号
かがまりて草抜きをれば杉苔に紛れて稚き馬追の跳ぶ 黒田淑子
葛の葉が木々を覆ひて勢へりさながら森を呑み込むごとく 八重嶋勲
紫蘇の花こぼるる畑に復員後久しく会はぬ友思ひゐつ 石井伊三郎
枝を剪るわれを見つめて抱卵の鳩は樫の木に身じろぎもせず 古雅雅
塀越えて咲ける白萩見る人ら和むといへば散るまで切らず 山口さよ
だしぬけに風の変りて暴風に広き硝子戸一瞬ふくらむ 早川政子
台風に雨戸を閉めて所在なくこもる怠惰のごとき一日 草葉玲子
雨はれし渚はきよく十年経し碑の辺に秋潮を聞く 原田美枝
生きて来し如くに死するといふことを日々思へれば心慎まし 伊藤滋己
夕立のまへ黒雲の侵せざる領域として青空はあり 山本和之
平成十六年十一月号
漸くに暑さ凪ぎつつ漫然と臥所に眠り待てば長しも 松生富喜子
雨のなく梅雨ふけながら田に通ふ浅峡の道ねむの花咲く 塙千里
高層の廊灯に鳴く油蝉いつ止むとなし夜の更にして 飯塚和子
暑き日の暮れかかる空煮えたぎるごとくひびきて雷鳴きこゆ 佐藤淳子
師の歌碑に秋日まばらに光りつつ冷たき海風吹き過ぎてゆく 波克彦
一日に飲むべき薬飲みつぎて老のわが日々すぎゆく早し 近藤清子
産声を上げしばかりの赤き子にいのちの匂ほのぼのと立つ 掴祐太朗
限りなき宗谷丘陵うごくともなく草を喰む黒牛の群 本間百々代
飛び発ちて羽ばたくまでに間のありて白鷺の体骨たちて見ゆ 元田裕代
草の穂のなびく牧原その果にくもりて白き海しづかなり 橋本真理子
平成十六年十月号
思はざる病まぬがれ今日仰ぐ桜木立に満つる静かさ 大塚栄一
われを置きて逝きし子と妻世に稀の例ならねど寂し一人は 加来進
刈りし草も燃してはならぬ世となりて監視ヘリコプタ―飛ぶ朝も夕べも 長栄つや
実の垂るる空中栽培の苺にて甘きかをりのハウスに満つる 村上時子
真夜さめてたぐる半生転変の世のかたすみのひとつ生きざま 江田重信
常言ひし叔父の言葉に従ひて行ふ葬儀寂しく潔し 佐藤みちや
しみとほるこの静けさや夕暮の人をらぬ駅に風鈴鳴りて 村田英子
客の髪ひとり刈るのみに昼となる外は台風余波吹き荒れて 日下部扶美子
罪犯しし少女の穿けるスニ―カ―二三歩見えて移送車に乗る 北舘紀佐
朝の風いくばく冷ゆる六月の尽日にして遠雷の鳴る 前田弥栄子
平成十六年九月号
木下蔭に群れ咲く著莪の白花のうす明るむは風通ひゐん 片山新一郎
やみがたき怒のゆゑに自らが疲れしひと日ゆふぐれてゆく 加古敬子
職場にて唱へしジエンダ―フリ―など関はりのなきわが生活か 清宮紀子
湧く風と勢ふ炎と撃ちあひて外輪山を野火走りゆく 荒木精子
かの丘に住居のごとく混み合ひてしづまる墓石冬の西日に 清水雅彦
湖沼群の石灰華に樹木生ひヒマラヤの水たぎち流るる 森美千瑠
荒るる海の一つ小島の近くして抱卵のうみねこ岩に動かず 中根寿美子
悔しくてこぼるる涙見せぬ為独り屋上に出で来てすごす 大野千枝子
をさな子の歯科検診日近づけばその母入念に歯を磨かせる 後藤保子
栗の花梅雨の曇にそばだちて夕べ水引く田に匂ふなり 千葉美津子
平成十六年八月号
何事もなかりしごとく壊されし家跡の土しろじろ乾く 浅井富栄
低山も入野も花の時にして遠き斜面に光るしろたへ 田野陽
六十年かけて咲き満つる竹の花一世の終ぞ夕日に映えよ 安川浄生
憩ふ間に散りたまりゐる花片を吹き払ひ再びトラクタに乗る 新宮哲雄
その躰携帯電話に傾けて歩む少女も花の下ゆく 鈴木千代
いつにても心安らぐとにあらず子や孫とゐる幸せのうら 廣岡佳子
砂埃立つ球場のかたはらに控への投手黙々と投ぐ 小高千代子
出揃ひし麦穂ちひさき花ふるへ受粉してをり朝光のなか 原口尚美
失業の友を囲める同窓会みな饒舌になりて夜の更く 積田優
樟並木下り行く道は降る雨にその花散りて片寄り流る 宮地カヨ子
平成十六年七月号
春の雪晴れし午前にかりがねのゆくへは遠し北空にして 板宮精治
亡き母の声に起こされ目ざむれば妻の鼾がかたはらにあり 江畑耕作
癒えがたく病のゆくへみづからをこれ知りがたくしきり寝返る(故)千田伸一
否定して来し学習塾に娘をば連日送るわれの現は 樫井礼子
花咲けるたばこ畑も水張田もかがやく葬すすむめぐりに 坂本信子
陽炎のたつ雪原のはたてにて原生林がたゆたひて見ゆ 飯田静
老体をはげましながら読む本の読みつつ忘れ忘れては読む 菴田ふじゑ
高みよりかなたに見ゆる街の灯は人のなりはひ人の生き死に 宮本克己
外壕の水面に桜の影映り影うごかして水鳥のゐる 中澤晴子
センサ―が感じて点る庭の灯にくちなしの花浮き出でて見ゆ 安部一子
平成十六年六月号
きさらぎの風にかがやく照葉樹このしばらくの光最勝 吉田和氣子
驚くにあたらぬことか胃の腑なきわが身の肺に癌が転移す 瀧川愛親
ときじくの雪霏霏として降りそそぐ桜一樹のかすけき明り 四元仰
雪の降る空を飛びゆく鳥の影その行く先に待つものありや 五嶋恵子
来し方は幻に似て暁のしじまにひとり時を寂しむ 田辺誓司
柔らかき土のぬくもり感じつつ巡る古墳にすみれ咲きゐつ 栗栖絹枝
護岸工事に働く人らがトラツクにラジオ流して午睡してをり 本田悦子
早朝の運河にうつる白き月少しゆがみて水面にゆるる 村松とし子
吹雪の夜発電風車の羽根に触れ絶滅危惧種の尾白鷲死す 井上力
黄砂降りをぐらき東支那海を水脈立て白き巡視艇ゆく 宮城章
平成十六年五月号
海岸に波寄せし後音絶ゆる時の間ありて海のかがやく 香川美人
朝早くきて診察を待ちゐたりかかる消費も晩年のうち 小田裕侯
夜の更けし街空をゆくモノレ―ル車内明るく軽々とゆく 戸田佳子
降る雪に一日こもればわが声は猫を叱りしのみにて終る 高橋緑花
寝台より落ちたるわれは強震に家の軋みと共にゆれをり 細道千代子
時により跳ぶが如くに歩み給ふ仕事に追はるる九十二歳の師は 安田恭子
殺さるる危険を語るイラク派兵殺す懸念を人は語らず 森田暢子
おもむろに川霧のたつ塒にて鳴きあふ鶴の声たのめなし 門祐子
電車来るまでのしばらく遮断機の棒に光れる冬の夕日は 広橋博子
考へぬことにしようとクレンザ―泡立てひとり食器を洗ふ 佃美智子
平成十六年四月号
おひおひに東天青く日の昇る服喪新年の庭にし立てば 秋葉四郎
臥して病むことなき獣野を行きて倒れたるのち再び起たず 内藤喜八郎
わだかまり溶けざるままに夜の灯に割りたるりんご蜜の滴る 神田あき子
冬台風過ぎて月照る夜の庭ばら落葉して棘の鋭し 石井清恵
きつかけを論じてみれどつづまりは不登校も選択なるべし 鈴木裕子
刑期をへしをみなはわれに訴ふる人目は罪を許してくれずと 山元暢子
雪原に動くものなし冬枯の樹林に太る宿り木の見ゆ 斎藤守
背を向けてイラク派遣に志願せしと夫呟く歳晩のあさ 辻田悦子
明治より辿りてきたる教科書に戦の文字が徐々に増えゐる 羽鳥愛
不作田を刈る傍らに憂ひなき山の木の実が音立てて落つ 千葉美津子
平成一六年三月号
三回の応召遂の負傷にて却つて助かりし運命おもしろ 山上次郎
共食ひに数を減らしし水槽の目高の泳ぎあはれいきほふ 青田伸夫
会ふたびに多忙を言ひて憚らぬ人をり何を誇示せんとする 近藤千恵
山畑の昼のしづかさ蚕豆に日の当たりゐて莢実ふくらむ 池野國子
嘆きつつ恨みをりしが激痛の遠のけば捨つべきいのちにあらず 渡辺久江
鬼神の心ゆるがす講談に未だ至らずわれ老いにけり 宝井馬琴
後を継ぐ意志なき子等の帰省の夜酒酌み交はし農には触れず 佐藤文雄
可能性無限と生徒に語りつつわれみづからに言ふ如く居り 斉藤智子
形見には残せぬ母のぬくもりよ九十五の手しみじみと取る 大津留偕子
親にしか気づくことなきわが癖と思ひをりしに君が言ひ出づ 住谷はる(学生)
平成一六年二月号
老病の悲哀を知らぬ若き医師の完全主義にわれは従ふ 杉山太郎
沈黙のわれの心を読み取りて声に力ありこの青年は 黒岩二郎
日すがらにコンピュ―タ―に向かひゐて嵐のごとき内在悲し 香川哲三
蚊帳吊草すでに実を持ち吹く風にもつるる如し地上一尺 中田長子
捨て置くと決めたる畑に草を刈る斯く逡巡を重ねつつ老ゆ 山上蒼
ひと言が会議の流変へゆくに心おどるを秘めて見守る 長谷康冨
繁茂する青葉にまじりアカシヤの梢に満つる花のしろたへ 渡辺兼敏
神島の女坂より見ゆる海音なき流が秋の日に照る 杉村八栄子
雨しげき橋より見れば川くだる船がたちまちしぶきに煙る 佐々木比佐子
すさぶ世に心ゆたかに生きてゆく覚悟は死ぬより難しと思ふ 山崎満州生(学生)
平成一六年一月号
秋天にたちまち雨の降りてやむ蓄へし力はたししごとく 菊沢研一
赤き星仰ぎ思へば天体の運行は人を顧みるなし 長坂梗
近未来にいくばく叶ふものありと思ひみづから耐へつつ生きん 佐保田芳訓
独り居の時間多くてみづからの難聴を時に忘るることあり 寺井ウメノ
稲架掛のおどしにあまた光るもの近づき見れば古きCD 中村達
希ひても来ず拒みても来るが死と夕べなにゆゑ思ひ居りしか 吉田昭
音たててわがコンバイン稲を刈るひそめる虫を空に追ひつつ 吉見稔子
釣船に魚信を待ちて向き向きに各々ひとりの海をたのしむ 波岡澄子
海の雨たちまち晴れてまなかひの海峡の渦光りて動く 刎勘助
失語症の癒えざるままに亡くなりし父が夢にて声高に話す 田代幸子
平成一五年十二月号
妹の逝きて一年とどこほる悲しみ深く過ぐる日疾し 由谷一郎
八十三歳超え衰へのしるくなりし身を養はんありのままにて 荒木千春子
きれぎれの眠の中に咲き撓む萩見えてゐつまぼろしのごと 伊藤いく子
一夏を経て見る生徒の伸びし足姿すなほに吊革握る 島田幹雄
窓越に交り保ちて四十年友逝き声なき日々となりたり 土黒カモエ
夕焼は野山を染めて静かなり鳴る鐘の音をつつみ広がる 梅崎嘉明(ブラジル)
六十五回の父の忌に会ふかなしみも憎みしことも茫々として 佐久間守勝
何をなし遂げしと言ふにあらねども八十余年のいのち親しも 小嶋あきえ
当麻寺の歌碑をおほひて風に鳴る蘇芳の葉群音のさやけし 細道千代子
茎高く咲けるダリヤの花めぐる蜂の羽音に安らぎゐたり 岩弘光香(米国)
平成一五年十一月号
算盤の球のにぶきを米櫃に入れて使ひし遠き日の梅雨 菅原照子
片足にて嘴を背に憩ふ鴨八月池に降る雨さむく 福田千恵子
身を守る術と杖持ち街を行く老人一人世をなげきつつ 猪狩清
妻逝きしもしらず施設に呆けつつあと二年にて百歳となる 江田重信
揚物を終へし直後に音たてて大地傾くごとき地震あり 中村とき
すこやかに九十七歳となりし姉一夜にて逝く朝あけ哀し 伊藤しづ
夫の墓に入るを拒みてゐし友の水無月命日雨降りやまず 安藤絹子
浄智寺の裏山ゆけば雨に濡れ咲く秋海棠の色のしづかさ 石井美枝子
うなだれて眠りし椅子に目覚めたるかたちさびしむ梅雨明近く 元田裕代
煩はしけれどさみしき蝉の声短くて止む雨降る夜は 渡辺良彦
平成十五年十月号
永らへて過去未来なき老となり声なき一日一日を送る 杉山太郎
病みつぐも生きてをりたしかくばかり朝の光は輝きて射す 柳等
見えがたきもののまばらに降りしのみ待ちゐし梅雨の第一日は 近藤千恵
わが体庇ひてくれし妻は逝き移りしマンションのひと日は永し 木佐貫慶藏
合歓の花うすくれなゐに開き初め梅雨の山里暮れんとぞする 亀谷増江
過去よりも長き未来を思ふときつぐなふ十二の少年あはれ 川井美枝子
朝霧に濡れし篁のうへの空梅雨あけ近く雲ひかりをり 高野恵美子
つゆ曇る庭にカンナの花紅し長病む夫ひすがら眠る 今井典子
篁に若竹伸びて梅雨たけし空にかすかに光を放つ 腰川昭子
眼を病めば時折にさす眼薬の匂まつはる梅雨の曇日 山口幸子
平成十五年九月号
見収めにならんとかたみに思ひつつ握手をすれば君の手薄し 高橋正幸
新型肺炎恐れて訪はれず訪はずして春の雲ゆく日々過ぐるなり 饒菊枝(台湾)
春の逝くときの静けさ長瀞の淀みに映り藤の花咲く 北薫
強震に畝均されて大根の何処ともなく芽吹くも哀れ 高橋緑花
木の間より見下ろす村は水張りし棚田夕日に光るしづけさ 三浦禮子
若葉そよぐ林をぬけて目の前の海はればれとかがやく真昼 草葉玲子
いずこにも楝花咲きゆく春の風香しき島原あたり 本間百々代
シベリアの火災のゆゑに街覆ふ靄の奥処の夕日はかなし 石川久子
古里に母逝きすでに八十年静けきこの地今日は訪ぬる 池田礼子
頚動脈にわが手ふるれば結滞のありて別れのときせまりたり 栗原くに
平成十五年八月号
日々たゆき体はげまして坂登る坂に向へば湧く力あり 齋藤尚子
部屋ぬちは若葉の照りて明るきに物の音せぬ昼のさびしさ 伊藤千代子
紫の色あざやかに咲き出でし藤の花房ながくなりたり 畑山覃子
ひよどりの呼ぶごとく鳴く窓外は青空みえて行く雲速し 平抜敏子
前山の鴉の群に追はれたる雉子の短かき夜の声さみし 近藤清子
老眼には定かにみえぬ春の雨松の葉先に光となりぬ 三嶋洋
唐突に子を失ひし弟の悲しみ如何に夜すがらの風 井上栄子
わが庭をへだて媼のひとり住む夜の灯みとめカーテンを閉づ 堀和美
診察を受けつつ思ふ四十年わが身委ねし医師も老いたり 楠川和子
蜜柑の花悲しきまでに匂ひたつ畑に立ちて病む人思ふ 藤原チカ子
平成十五年七月号
冬至ゆゑ富士山頂に沈む日を見つつをりかくも余光は永し 長田邦雄
うすら日の中なる雪の止むしばし五月川の淀にぶく照るなり 松本一郎
帰りゆく最後の群か春彼岸ちかき月夜を白鳥わたる 佐々木勉
その夫を危め自ら水死せし人の七十余年を思ふ 千田きみ
老が居て幼も居りて夢のなか霞のごとき葬列がゆく 井上雅道
てのひらに掬ふ豆腐の冷たさや夕べ明るくきさらぎ尽くる 米倉よりえ
暁闇の潮平らなる海広くあけなんとして魚の飛ぶ音 鎌田昌子
こだはりを持たぬ夫妻の仲らひの羨しわれにはなかりしことぞ 堀江登美子
戦場の視野を遮る砂あらし昼くらくして兵のうごかず 石川節子
眩暈するまで深き青天に出でて歩めば散る桜あり 中村淳悦
平成十五年六月号
連れ添ひて五十年のけふ祝ふなくその身患ふ妻のへにゐる 瀧川愛親
敵弾に右掌砕かれしもわが命助かりしああ五十八年前 山上次郎
日の光きらめくまでに高層のわが窓外に春嵐ふく 飯塚和子
とこしへに人悲しむる八甲田の雪中行軍遭難の墓 福士修ニ
大阪より遠くかけくる電話あり雪降りてひとりは寂しかるらん 松本武
昨夜降りし雨のしづくを枝ごとに湛へて冬の木々ひかり立つ 大津留敬
わが庭の花鉢さびしくもり日の窓に疾風の音ひびきつつ 大立一
一つ事故にかかはり被害者も加害者も共に苦しみし長き年月 松帆喜美代
立春の月参りに来し寒暁の森をしづかに霙降りつぐ 谷分道長
軍談を読み張扇を打つ快やこの楽しみはいよいよつよし 宝井馬琴
平成十五年五月号
寺庭の砂音のなく濡れながら寒の雨降る昼すぎしころ 塙千里
暗黒のなかに目覚めてわが店の十年後を思ふ茫々として 黒岩二郎
鶏を飼ひ稲を作りて百ちかく生きしひと代ぞ悲しみはなし 田野陽
ガンマ線放ちてをらんわが躰顔の真前にカメラ近づく 小林智子
音もなくひと夜積りし雪の嵩すぎし時間のかたちが見ゆる 長栄つや
朝はやき医院受付にたむろするわれをまじへておほよそは老 加来進
離別せしをとめごの孫ふたり来て声なくゐるは涙ぐましき 村上時子
吹く風のありとしもなき昼の街雪を積みたるトラツクのゆく 一戸みき子
わが漁船の在りにし遠き日を思ふこの夜吹雪のさびしき音に 由岐中貞子
イラク攻撃めぐる論戦極まれる二月旬日日々安からず 森谷耿子
平成十五年四月号
かりそめに紙片に書きし入院の歌もの悲し老いしわが歌 香川末光
冷えしるきダム湖の底になりし村思ふともなく岸にたたずむ 青田伸夫
機上より見ゆる砂漠は果なくて高き丘低き丘陰なくつづく 多田隈良子(米国)
係累のつどふ楽しき夢を見し会はざる人もありありと居て 加古敬子
宵やみの屋上庭園に孔雀ゐてしぐれに濡るるさびしきかたち 高橋一郎
枯芝に置く自然石の十余り稜あるものさへその影やさし 檜垣文子
吹雪く山越えて来りし湖は平かにして黒きしづまり 鎌田和子
みづからが拍手をしつつ現はるるさま清からずかの国の長 鈴木真澄
強風に吹き上げらるる潮しぶき見分けがたくて粉雪も浴ぶ 細田伊都代
大学を出でて二月君は逝きその日を境に祖母の呆けき 飯田郁子
平成十五年三月号
暖房の乏しき寺は雪明りして告別の蝋の灯ともす 内藤喜八郎(蝋は原作では旧字体)
墓碑に差す直ぐなる光手をのぶるわれも一つの光の中ぞ 黒田淑子
一口に残生十万時間といふ限られしその命生きをり 角田三苗
明方の明暗はげしく移りゆく雲の行方に何を託さん 田村茂子
北洋に出でて消息を絶ちしとふ短き記事に終へし父の世 大田いき子
電気店肉屋金物屋店閉じてわれ住む峡は寂しくなりぬ 斉藤巻江
夜を通し養殖牡蠣を守るらしときをり小舟光発射す 佐藤善市
ヨ―ロッパにて拉致されかかりし経験の躰凍りてまた甦る 中埜由季子
利かん気の性は寿命にかかはると医師が言ひゐき母百四歳 高橋洋子
たまさかに降りたる雪を因として父と短き会話の成れり 山本和之
平成十五年ニ月号
宵早く路地にただよふ線香の香にゆゑもなく悲しみかへる 松生富喜子
やうやくに雪の止みたる夕暮に入日ふくらむ如く差し来る 佐保田芳訓
暮れ早くなりたる庭に黄の冴えて咲く石蕗の花あかりたつ 浅井富栄
友の植ゑしおいらん草の花咲くと夫の言へば這ひてみにゆく 十時マツヨ
長男に男児誕生の知らせあれど午後三時業務止むことの無し 波克彦
川岸のみぞれに濡るる裸木に長く何待つ鴉一羽は 千田伸一
枕辺を去らんとすれば伸べし手をわが握りたり厚きてのひら 神田あき子
秋草の光る岬山抜き出でし紫ちこり花あざやけし 戸田佳子
夜の明のしだいに遅し一番の列車を待てば駅の灯まぶし 樫井礼子
暮れなづむ余光のなかに咲きてゐる四照花白き花のしづけさ 門祐子
平成十五年一月号
待つ如く待たざる如くゐし電話妹の終の様伝へ来つ 由谷一郎
庭に咲く木犀匂ふ雨の夜土に沁み入る香もあるならん 片山新一郎
ゆく水の音絶間なき酒匂川の岸に憩ひてしばらく居たり 香川美人
岡野さんどうしてゐるかと不意識に思ひて亡きに心衝かるる 吉田和氣子
杉山の深き道ゆく沢内の村は午後の日暑き集落 板宮清治
ひとかたに光ながるるみづうみの沖にいできて暗し桜は 菊澤研一
北鮮が少女を拉致せし浜に見る佐渡の夕日の光まぶしき 江畑耕作
兆候の何かを知らずあさなあさな血栓を吐く鳥のごとくに 杉山太郎
ユ―カリが放つ蒸気の青き靄砂岩のひかる峽にし沈む 秋葉四郎
鳴きながらわれに近づく鴉あり饑ゑたるものの威圧のごとく 四元仰