刊歌集  平成13年(9月)〜20年【作品】 【歌集一覧】 平成21〜現在【作品】 【歌集一覧】

  柳照雄歌集『道』  清宮紀子


 柳照雄さんの歌集『道』は、『雪原』『海鳴り』に続く第三歌集で、平成十一年から平成二十五年までの十五年間の作品五百三十五首が収められている。
 「あとがき」によれば、「この集の歌の原稿は、日ごろ愛用の鉛筆を使って手書きにした。丁寧に一首また一首と書き、一気に先へは進めずに、一定の数書き並べては手を休め、そのたびに書き留めた作の繋がりに目が行った。
 毎日そんな繰り返しが続いてようやく目標を達した今、まとめて並んだ全作品を見通すと、辿った歌の道筋が分る。大本を成す実生活の足どりがそれに伴って見えて、のろい進みながら通った道が一途に続く。自然に、「道」がこの集の名になったという。もとよりこの「道」は、佐藤佐太郎先生の「純粋短歌」に沿うよう願うての学びの道で、これから向かう先々をも望む。」とあり、並々ならぬ決意の込められた歌集と言える。
 柳さんは、新潟県十日町市に住んでおられる。市の中央を信濃川が貫き、冬にはニメートルから三メートルの積雪がある特別豪雪地帯である。
  大寒の寒さは今し極まらん粉雪まとひつらら
  真白し
  街灯に映えてふる雪まぶしむに見るみる積も
  るわが路地の奥
  月照るとおもふがほどの雪明かり雪まふ夜半
  の外の面を見れば
 様々な雪の表情を見事に捉えており、情景が鮮やかに浮かんでくるようだ。
  荒き音立てて流るる信濃川山も野もはや雪解
  け盛ん
  水面より朝霧の立ち流れゆく水にしたがふ信
  濃川みゆ
  信濃川をへだてし河岸段丘に黄金かがよふ稲
  田ひろがる
 一首目は「信濃川の雪解けを」、二首目は「朝霧の覆う信濃川を」、最後の一首は「信濃川に続く稲田を」抒情豊かに詠い挙げている。
  堆き瓦礫のうへに春雪の清めて白く降るも悲
  しも
  放射能汚染どこまで広がるや今宵のあかね空
  不気味なり
  義捐金わづかが老のこころばせ差し出して妻
  と慰め合ふも
 柳さんは、「歩道」同人アンソロジー、歌集『平成大震災』に「建屋の傷み」として四首の歌を載せている。詠って耐え、詠って寄り添い、詠って見守った心境に強く心を打たれた。言葉が厳選されているからだろう。
  初任地の街に住み着き教へたる生徒等の数増
  えてわが老ゆ
  三十年ぶりにて会ひし生徒らの聞き馴れし声
  今と変らず
  非常勤講師なるゆゑ気安きか生徒ら寄りて問
  ふ日の多し
  若かりし日に教へたる生徒らのその子らも縁
  ありて教ふる
 長いこと教育に専念してきた柳さんは、更に八年間講師として、その情熱を未来ある若者に傾けてこられた。頼もしい限りである。
 歌集『道』の最後の詠草は、作者の全人格を思わせる作品となった。
  妻の母は即ちわれの母にして娘二人の健やか
  な祖母
  もう直に満百歳になる母やおほよそ食の細る
  日のなし
 第三歌集の出版に当たっては奥様の後押しがあったとあとがきにある。共に手を携え、日常生活を大事にして、「純粋短歌」の学びの道を進んで行かれることを願っています。