刊歌集  平成13年(9月)〜20年【作品】 【歌集一覧】 平成21〜現在【作品】 【歌集一覧】


  歌集『再生』小感      佐藤 淳子


 「再生」は、埼玉県川越市在住の内藤勝恵さんの平成五年から平成二十五年迄の作品四百九十首を収めた第一歌集である。
 短歌との出会いは、地域の民生委員として働くうちにその先輩から貰った一枚の色紙によるという。その後市の老人福祉センターの短歌講座を受講し終了後「歩道」に入会、佐藤佐太郎先生の純粋短歌に学びつつ今日に至っている。作歌初途の作品が冒頭に収められているが、ういういしく素朴でみづみづしい詩情をたたえている。
  雨待ちて馬鈴薯植ゑんと耕せば大地のぬくも
  りに陽炎の立つ
  伸びし枝の先まで花に覆はれて庭の桜は夕空
  に浮く
  竹の葉の雫を肩に受けながら朝裏山の笥を掘
  る
 けれんみのない作品で無理なくのびやかにうたって見ている所が確かである。
  寺庭の明るき夕べ枝垂れたる桜はいらかを越
  えてなびかふ
  水中の影はしだいに群となり鯉は口開く飛沫
  あげつつ
  生き形見と賜はりし着物仕立てんと秋の日明
  るき縁に針持つ
 あとがきに「一主婦の目線で折々記した日常と、わが庭畑の四季の移ろい」と集約している。男児二人を独立させ、寝食を共にした姑を送り、その七年後夫を送り家事、仕立物におわれる日々の哀歓が本集の底流をなしている。
 平成二十年に「再生」と題した連作三十首がある。本集の題名となった一連である。
  曾てなき肩こり腕の痛みあり草を引きつつ異
  変を感ず
  末梢の神経侵す病ともきれぎれに聞こゆ医師
  の会話が
  頸椎の歪みし治療は手術する方法のみか心乱
  るる
  風薫る五月二十八日手術受くこの日をわれの
  再生とせん
  療法士に添はれ病室を歩みをり頭の重さに翻
  弄されつつ
 充実した一連である。頸椎の手術後暮らしは一変して手の自由をうばわれ残された体力で電化に頼る日々だという。
  亡き夫の介護をせん為建てし家病後のわれの
  安けく暮す
  亡き夫の書斎に入れば夕つ日は机上を照らす
  主あるごとく
  痺るる手に針持つことを諦めて広げし布地再
  び畳む
 淡々と平明に日常をうたってまとまりがよい。また中には、瞬間の発見をそのままうたった次のような作品もみられて意外なおもしろさがある。
  両の足揃へ跳ねゆくカンガルーの腹のゆれゐ
  て仔の顔見ゆる
  何処にて捕へし鼠か飼猫は咥へ来りてわが前
  に置く
  わが家の航空写真に写りたるわれは小さく庭
  の草ひく
 内藤さん自らがデザイン、染色した日本刺繍額絵四点が表紙、挿絵となって本集に斬新な感覚を与えている。手術後の痺れによって手の利かなくなった現在、その趣味をいとおしみ愛惜する思いが滲んでいる。今後のご健康とご精進を祈念してやまない。