歌集『栴 檀』(青木義脩著) 大塚秀行
歌集『梅檀』は、埼玉県に在住する青木義脩さんの第二歌集で、平成十一年から令和元年までの二十一年間の歌五百九十九首が収められている。
歌集は、純粋短歌を希求する青木さんらしく自然の中に輝きを見出して詠嘆した歌が多い。
朝の道に樒の花を見しところ夕べ戻れば匂の著し
苦瓜の花に微かなる香が顕ちて花虻が寄る日照りの庭に
夜のうちに台風過ぎさり西遠く青紫の富士の山見ゆ
高らかにみんみん蟬は歌ふなり残暑激しき昼つらぬきて
梅檀の丸実いよいよ色づきて小鳥ら集まりその房揺する
寒の日の北風烈しその中に蠟梅の香の入るを貴ぶ
眼の前にある景が確かに捉えられ的確に詠まれているので、一首一首が説得力をもって読者に迫ってくる。また、年を経るにしたがって歌が精深さを増していることが窺える。
次に、この歌集は海外の旅や国内の旅での経験を詠んだ歌が多いのも特徴として挙げられる。
見おろせば荷をひく自転車通り行く敦煌の朝は未だ明けきらず
夏ながらスチームを入れ日の残る北欧の宿に夜を過ごしたり
宮殿の庭の噴水となりし水集まりバルトの海にはけゆく
糸杉がいたるところに立てる丘なだらかにして朝の日を浴む
赤松の朝の赤こそ貴けれシベリアの林道落葉松の中
路地は皆その突き当りに峰広く蔵王の山見ゆ夕べ来し街
考古学を専攻し文化財保護行政等にて培った青木さんの知識に支えられて、一首一首が鮮やかで心に沁みる作品となっている。
さて、この歌集には青木さんの家族や日常の歌は多くはないが、次の歌でその様子を窺い知ることかできる。
さ庭より妻が手折り来し豆菊が仏壇にありて花瑞々し
訪ね来し孫娘はわれらのそばに居てその親ら暫く仮寝楽しむ
蒲団叩く音おほどかに響き来て秋の終りの午後の日傾く
積雪を楽しみとせしわれなりき後期高齢者となりても変らず
これらの歌から、青木さんの豊かな生活が想起され、家族を思う青木さんの優しい眼差しに心が洗われる。青木義脩さんの益々のご健勝とご活躍を祈念申し上げ、歩道会員の皆様の歌集『梅檀』の愛読をお願いする次第である。