あ行 か行 さ行 た行 な行 は行 ま行 や・ら・わ行



〔たいさい〕    
立房s21p69    いくたびか体菜を積む馬車に逢ひて旅なるわれも心さわがし


〔たいさんぼく〕
天眼s50p29    いつ見てもかたき葉ひかりさやぐなき泰山木は花開きそむ
星宿s55p37    大苞の泰山木は葉の動く風にしろたへの花のしづかさ
星宿s57p88    窓外を見るをりをりに日をへだて咲く白き花泰山木は
黄月s58p12    花開く泰山木は白花も葉もそだちゐてひかりを放つ


〔たうがらし〕
軽風s4p42     朝街にいそぐ吾がまへまだ青き唐辛子荷ひゆく人のあり


〔たうちばな(注)〕
冬木s37p15    春たけし村みちくれば墹ありて田打花さく朝日のにほひ


〔たうもろこし(注)〕
軽風s5p54     裏畑に母が唐黍をもぐらしき音聞えつつ心なごまむ
帰潮s23p54    かりそめに心はなぎぬ長き葉をもつ玉蜀黍のかたはら
帰潮s24p89    夏の日のながく寂しき昼すぎに玉蜀黍の花が散りゐる
冬木s39p60    フランソア・ミレエの住みし村のさまたうもろこし枯れて畑がつづく
冬木s39p62    薪を積みたうもろこしを積める家いつしかもジュラの山中となる
天眼s52p76    うちつづく牧草の丘ところどころたうもろこし畑青やはらかし


〔たけ(注)〕
軽風t15s2p14  堆肥の匂ひただよふこの道に竹かたむきて雫をおとす
軽風t15s2p18  竹群のかげかたむける冬畑に人ひとり居て土を耕す
軽風s5p51     くまなくぞ初夏の陽の照りたれば一叢寂し黄なる篁
歩道s14p114   風の音しづけきかな入らば寒けむと吾が見つつゆく篁のなか
しろたへs17p46  ふかぶかと苔のおほへるこの庭に隣りし篁を吹く風きこゆ
立房s21p25    きさらぎのつめたき風に群竹のなびくこずゑは日の余光あり
帰潮s22p8     篁のうごく緑は日の落ちていまだ明るき野に見ゆるもの
帰潮s22p24    若竹ののびしこずゑは乳色に光れる午後の空にて動く
帰潮s24p77    ひたすらに竹の葉に鳴る春のひびき聞きゐたりける暇ある如
帰潮s24p81    山峡のそこひに川の流みえをりをり岸の竹群うごく
帰潮s24p86    梅雨のあめ降るべくなりぬ幾日も庭隈の竹の音を聞かずして
帰潮s24p90    若竹のたちまじりたる竹群は晩夏となりてかくわづらはし
帰潮s24p94    鶏のあそぶ竹群かわきたる竹の落葉はわれにも親し
帰潮s24p97    夜の風ふきて竹むらは沈黙のこころの如き音をつたふる
帰潮s25p106   若竹の傾くさまもおのづから健かにして梅雨晴れんとす
地表s27p20    竹群のなかにたまれる竹落葉音をたてつつ鶏あそぶ
地表s27p21    にが竹の筍庭に生ひたるを食へども妻も子も喜ばず
地表s27p22    竹むらに露の音する暁をまれまれにして早く覚めゐし
地表s27p23    竹むらのなかの下土に病む鷺のひとつは哀れうづくまりゐる
地表s27p30    竹叢の秀のしづまりを見つつ居て苦しく寒きゆふべとなりぬ
地表s28p34    硝子戸の外はたはやすき昼の時幹ごとゆるる竹むらが見ゆ
地表s28p37    竹の葉にゆふべの露ののぼるころひとつ茅蜩声とほり鳴く
地表s29p52    山峡の竹群みれば深雪にしひたげられて幹のすがしさ
地表s29p53    庭くまに常にうごける竹群や来る春の日に吾は憩はん
地表s29p57    竹藪に降りそそぎゐる雨の音二階の部屋に居れば聞こえつ
地表s29p58    篁の内部が見えて竹の幹すこやかにひとつひとつ立ちゐる
地表s29p59    雨やみし重きうつつに竹むらの上に幅せまき青空の見ゆ
地表s29p62    竹山の上の夕空黄の色にとほりて明しいまだ暮れねば
地表s29p79    篁のつたふる音をとどまらぬ冬暁のかぜとおもひき
地表s30p81    新しき年のしるしに篁の幹ひかりあり朝もゆふべも
地表s30p82    ひとときの霙晴れつつ竹群のそよぐ梢は早く乾かん
地表s30p88    篁にそひつつ来ればわが靴に踏みてやはらかし竹の落葉は
地表s30p88    青々として幹のたつ篁に竹の落葉のちる音きこゆ
地表s30p88    たかむらのなか明るきに筍の黒々として秀でたるもの
群丘s31p12    孟宗の篁あれば春の葉のまだ稚くて幹のしづかさ
群丘s31p14    あはあはと日のさしてゐる竹群の梢も桃の梢も残暑
群丘s33p35    昼ながら鴨の猟場はしづかさのみちをり池をめぐる竹むら
冬木s38p30    段々の畑に七夕のうつくしき竹とクルスと仰ぎつつゆく
冬木s38p36    ささやけき漁港にて黒之浜といふ山にゆらぐ竹潮にゆらぐ船
冬木s38p37    ときじくの筍のびて路傍には集荷待つ甘藷の袋をぞ置く
冬木s40p98    大樹寺の八代の墓そがひなる春篁のひかりしづけし
形影s42p22    修竹の上の空よりきこえくる海の音速しひとつとどろき
形影s42p28    暁のきざすくれなゐに竹そよぎあらかじめ一日の愁をおくる
形影s42p35    修竹の上なる夜の海鳴は二十五年まへのこころを伝ふ
形影s43p42    さかひなく雪おほへれば青き幹たてし篁のなかにもつもる
形影s43p42    篁の常にて幹の寒からんそのなかに積む雪を悲しむ
形影s43p52    時じくの筍のびし渚村髪種々とふかれてあゆむ
形影s43p52    篁に幹のうち合ふひるさがり身をそばだてて浜より帰る
形影s44p76    山の上にありてささやけきみ寺こそ親しかりけれ篁の風
形影s44p79    たちまちにやむ蟾蜍のこゑ風なきににほふ筍寺庭のうち
開冬s45p21    良寛がいほりし跡の竹の葉に秋の日さして蜻蛉いこへる
開冬s46p58    草木の新しき春をたたへよと人はいはねど筍とどく
開冬s48p92    土割りてひいづる黒き筍の食はぬ梢といへども楽し
開冬s48p93    六月にいまだ食ふべき筍のあれど霧ふるゆふぐれ寂し
開冬s48p95    浅山のいづこもしげる竹むらに風ふきて封建の代を思はしむ
開冬s48p96    行く人のなき銀山の跡のみち竹にひびきてひぐらしが鳴く
開冬s49p113   鳥虫の声なくあつき秋の昼幹青くたつたかむら広し
開冬s49p117   あづさゆみ春の若布を食ふときに千里山より筍とどく―再掲
天眼s50p7     竹を負ひ梅もどき赤き木のあればひさしく逢はぬ兄おもひ出づ
天眼s51p33    霜とくるあしたのひかりは幹青き竹の林の石つやつやし
天眼s51p33    湯の岳の大石を据ゑ竹の幹植ゑくれしかば筍を待つ
天眼s51p33    冬の日にそよぐ竹の葉しげからず大き石三つ庭のしづかさ
天眼s51p40    わが足はふたたび軽し窓ちかく風によろこぶ竹のごとくに
天眼s52p59    わが庭の石のほとりに萌えしとふ筍あはれ行きて見ねども
天眼s52p74    砂取にふたたび来れば風竹を敲くなぎさに涙もよほす
星宿s54p17    生垣のそとに筍のびてゐる円通寺石ある庭のしづかさ
星宿s56p50    三年経てわれの来しかばつゆじもの日の寒き庭竹の影あり
星宿s56p71    たかむらの幹のつゆじも乾くころ蛇崩道を行きて悲しむ
星宿s56p71    柿の木の枝たかむらにのぞきをり紅葉美しきこの二三日―再掲
星宿s57p74    たぎちなく流うつれる三時間ぬれし篁の緑ひかりて
星宿s57p75    川岸にひさげる見れば冬の日に岩を削りて筍を掘る
星宿s57p76    道にある竹の落葉を踏みてゆく久々の晴天午後のひそけさ
星宿s57p79    長閑の人あるときは道ゆきて竹藪の筍おどろきて見る
星宿s57p80    かすかにも竹落葉ちる音きこえ八十八夜の黄の葉さやけし
黄月s58p29    篁のうちに音なく動く葉のありて風道の見ゆるしづけさ


〔たけにぐさ〕
立房s21p54    おほよその緑の中に竹煮草のぬきいでし穂は白くそよぎぬ
立房s21p55    竹煮草ののびし穂立ちもいつしかに樺色だちて花すぎんとす


〔たちあふひ〕
帰潮s23p55    立葵のまぶしき花はゆくりなき道のほとりに今日さきゐたり
群丘s35p68    夏花の立葵などさきそめし朝の庭は土の香ぞする
天眼s52p62    立葵さくころとなりゆきずりの路傍などにも健かにさく
天眼s53p96    今年また立葵さくころとなり同じ花同じところに開く    
天眼s53p97    立葵あぢさゐなどに当然に塵なき梅雨の日々坂をゆく
黄月s58p14    あらかじめ待つもののごと花の咲くその立葵道に見て立つ


〔たで(注)〕
歩道s11p54    いたどりも蓼もゆたかに茂りつつ花の過ぎにし時にあそびぬ-再掲
歩道s13p88    朝露のまだなごりある蓼の香にとりとめもなきおもひして佇つ
歩道s14p121   はびこりし叢ありて殊更に日に蒸れながら蓼の香ぞする
立房s20p14    ことごとく赤く枯れゆきし蓼などもまじりて原は寒くなりたり
立房s20p15    蓼も葦も枯れたる溝はきぞのよの時雨はれしかば水きよくして
立房s21p63    心充ちし日々といはなくに蓼の茎あかざの茎のうつくしき時
立房s21p64    丈たかきあかざも蓼も枯れゆかん明るき道に日は香ぐはしく―再掲
地表s29p76    犬蓼の赤き茎などうら枯るるものの香のして水寒からず
冬木s39p41    たひらなる水のつづきの岸のくさ蓼など枯れて冬日にかわく
開冬s47p85    そこはかとなき泥の香も親しくて水のほとりの蓼もみぢせり
天眼s53p102   道のべの残暑のひかりくれなゐの蓼は同じ穂の咲き替るらし


〔たぶのき(注)〕
地表s27p23    山路来てたぶの太木の林あり古りし常盤木の中のしづけさ
形影s42p29    たまくすの木のかげおよぶ庭のうへ夕ならずして白粉ひらく
形影s42p33    玉樟のうへに茫々とひかる海秋の日午睡よりたちて見さくる
形影s43p53    角材をたててとよもす声きこえ海鳴きこゆ犬樟のうへ
開冬s49p107   補陀落の寺のしづかさ冬青き山には枯れしたぶの木ひかる
天眼s51p39    玉樟の大木の下に五月末の雨かと思ふ花のこぼるる


〔たまねぎ(注)〕
形影s44p72    みどり濃き玉葱畑紀の川にそひて五月の光にけぶる
形影s44p72    たまねぎの向うすぎがたの菜の花は春惜しましむ泪出づるまで


〔たものき〕
群丘s34p52    タモの木のしげる渚に若者も女もをりて人の匂ひす ?
群丘s34p53    浅川の水はしたしくタモの木のしげる根かたを流れつつくる ?


〔たら〕
開冬s48p91    戯れに愁を割くとわがいひて刺強くなりし
の芽を食ふ
天眼s52p77    牡鹿なる自動車道を懐しむ今年楤の芽をつみし山中
星宿s55p43    われの眼は昏きに馴れて吹く風に窓にしきりに動く楤の葉


〔だいこん〕
歩道s10p33    松山の海にせまれる浅峡にいとなむ畑に大根は青し-再掲
立房s21p69    向ひ家は檐の煙突と大根にさながら寒き夕日さしたり
帰潮s22p19    大根の散りがたの花おおぼろにて飛行機の音とほく聞こゆる
群丘s33p41    岫の下はすべて松川浦のうち畑ありて大根の間引してゐる
開冬s49p108   大根の花にまじりてゑんどうが咲きわが庭の春ゆかんとす


〔だいづ〕
歩道s10p38    とろとろに摩られし豆がつづけざまに石臼より白くしたたりにけり
立房s20p11    雨ながら更けゆきし夜煎豆をひとり食へれば背なかが寒し ?
立房s20p12    庭に来てわれは立てれば日に干せる大豆の莢はかわく音する
地表s28p40    丘畑は大豆の黄葉ゆふかげのわたらふ空の下にしづまる


〔だりあ〕
軽風t15s2p14  ダアリアは紅ふかく花さけり麦刈られたるこのあき畑に


〔だんちく〕
冬木s39p74    オリ―ヴの畑のあひだに暖竹のしげるを見れば小さき川あり―再掲
開冬s45p11    暖竹の筍あれば目にとめて季にさきだつものを憐れむ
開冬s46p56    海の雨たちまち晴れて光あり暖竹の上を移る白雲
星宿s54p10    暖竹の筍青きなぎさみち二月の光る砂を踏みゆく


〔ち―く〕
形影s44p97    石だたみきよきバイヨンの廊のまへチ―クの花のめにたたず散る
形影s44p99    幹たかくチ―クもラワンもそそりたつ石に接して白きその幹
形影s44p99    バイヨンをさかりゆくとき落ちてゐるチ―クの朱実手にとりて見つ
形影s44p99    朴に似てチ―クの落葉かわく道にほふ埃を踏みつつあゆむ
形影s44p103   朝ゆゑに林のなかは暑からずプラ・カ―ン参道のチ―クの落葉
形影s44p104   プラ・カ―ンにせまる林はところどころチ―クの黄葉木々のしたしさ


〔ちからぐさ(注)〕
黄月s59p45    家いでて道のちから草穂ののびて残暑を垂るるところひそけし


〔ちがや〕
地表s28p39    犬蓼も浅茅も秋の草黄葉水浅き池めぐりて来れば―再掲
天眼s52p73    ちがやなど風にふかるるもの軽し影さきだてて帰る渚に


〔ちこり〕
冬木s39p81    オリ―ヴの古木のしたにチコリ摘む農婦をみればあそびの如し―再掲


〔ちさ(注)〕
歩道s13p83    たそがれの潤ふごとき影たちて土ひとところ萵苣生ふるのみ


〔ちや(注)〕
開冬s45p31    ゆく春の新茶をのめばさながらにわが身にしみて香とどまる


〔ちゆ―りつぷ〕
星宿s57p84    ことごとくチューリップ散り帰り来る霏微その地に至らざる午後


〔ぢんちやうげ〕
天眼s52p57    いづくにも沈丁花かをり一人にて行くとき二人にて行くとき楽し
天眼s53p84    今年また来る日々楽しまへぶれの沈丁花の香ひとところあり
天眼s53p84    いづこともなき花の香を感じつつゆふべ蛇崩の道かへりくる ?
星宿s54p11    いちめんに覆ふ沈丁華香ぐはしく低き丘あり公園なれば
星宿s55p30    沈丁華さき風なきにおのづから遠き香かよふ頃となりたり
星宿s56p55    春早き花の香かよふときはいま楽し世田谷公園の丘 ?
星宿s57p78    春光の日に日にふかく思ふとき沈丁華にほふ蛇崩の坂


〔つきみさう(注)〕
群丘s34p60    月見草群落の花さきのこり対岸に球形の瓦斯タンク照る
群丘s35p71    月見草枯れてつづける岬のみち堡塁の跡ひとつあらはに
開冬s45p17    大波のたえずくだくる汀みゆ月見草咲く浜をへだてて


〔つくし〕
帰潮s24p76    風邪の熱まだこもる身を休むとき樺いろ清しもゆる土筆は
冬木s37p15    奥飛騨の春田のひかる峡のみち土筆をつむと妻といで来つ


〔つげ〕
星宿s54p16    植込の黄楊の木むらは星空のごと小花さく梅雨どきの日々
星宿s56p50    植込のつげなど散りし葉をのせて冬の日寂し常の道のべ
星宿s56p63    葉のひまに星のごとき花咲ける黄楊いつさかりとも知らず過ぎをり
星宿s57p84    こまかなる黄楊の白花衰老のうとき眼を射る楽しともなく
黄月s59p46    こまかなる白の眼を射るつげの花紫ばみて見ゆる今年は


〔つた〕
歩道s14p96    耐へがたきまで葉は茂らむとやはらかき蔦の若萌みつつし思ふ
歩道s14p99    蔦の葉に群れてこもれる蝿の音うつつなく来しその日向にて
歩道s14p107   わが家に蔦はあらはにすがりをり葉は皆おちて骨のごとしも
歩道s14p116   石垣をおほへる蔦はこのごろは若葉のまへの赤きしづまり
歩道s14p122   幾万といふ蔦の葉がひとときに風にし動く楽しともなく
黄月s58p22    壁おほふ蔦の紅葉のいちめんにかがやく下を日ごと歩みき


〔つつじ(注)〕
軽風s8p93     春日てる松の林はくれなゐの躑躅の花に光もれ居り-再掲
歩道s14p97    昼すぎて折々つよき風音に窓より見たり躑躅さく庭
歩道s14p120   鋪道こえむかうの庭に躑躅さく見あけるごとき赤の一群
しろたへs18p75  いちはやきつつじの若葉目にたたず乾ける園は清くおもほゆ
冬木s40p97    幾年かかへりみざりしに白花のつつじ胸せまるまでの明るさ
形影s43p55    紅葉せるつつじひとむらの耀を置きて煙霧のなかの遠き陽
形影s44p75    いづくにもつつじ明るき寺々のわびしともなき岡寺のみち
形影s44p79    紅あはきつつじ花さく若葉かげ憩へば更に山の親しさ
形影s44p90    長き夏すぎて残暑に返り咲くつつじ一時の誤にして
形影s44p108   ひといろにつつじ朱を布く輝に今日ひたりきと後もしのばん
天眼s51p43    返りさく花稀に秋の葉のしげり静かになりぬ庭のつつじは
天眼s53p87    道のべの日々花多き山吹もつつじも旧知わが声を待つ―再掲
星宿s57p85    家にても道をゆきてもあふれ咲くむらさきつつじわれを富ましむ


〔つはぶき〕
歩道s13p79    南より日のさす岨に石蕗はむらがり生ひぬその葉たのしく
歩道s13p84    蒸しあつき暴れもよひより光さし窓下にある胡蝶花と石蕗-再掲
群丘s35p73    しづかなる水をゆくとき堀岸に黄のつはぶきの花はかがよふ
形影s44p94    おもむろに西空晴るる山のみち石蕗の花いちめんに咲く
天眼s51p46    つはぶきは黄も葉もともに光あり一つの崖の海になだるる
天眼s52p68    石蕗の濃き黄の花はさきそめてわが生れし日を人の待つとふ


〔つばき〕
歩道s11p56    既にして秋寒きかな窓にしげる椿の外は夜になりつつ
歩道s13p79    垣内にて椿の油しぼりをりまれに滴るは静かなるもの
歩道s13p79    砂畑に椿の若木たちしかば午後の光に葉は照りにけり
しろたへs16p19  白椿おぼろに見ゆる裏庭や硝子くぐもりて寒き朝々
しろたへs17p55  白椿あふるるばかり豊かにて朝まだきより花あきらけし
しろたへs17p55  春さむくその白花をかなしみし椿一木は既に終りぬ
しろたへs18p73  向きもなくゆすぶる如きけふの風白の椿はつぼみ開かむ
立房s21p28    ここにして火をまぬがれし木立あり交りてあかき椿さきつつ
立房s21p65    移し植ゑていまだ若木の椿あり厚らなる葉に秋の日の照る
帰潮s23p72    幼くて姉とあそびし日のごとく溝に椿の花が落ちゐる
地表s29p54    鶯のほがらかに鳴く昼すぎの椿木立のなかに吾が来し
地表s29p62    宮戸島椿林にこゑ透り鳴くひぐらしを君も聞きつや
群丘s36p79    わが庭に移し植ゑしより花さかずなりたる梅も椿もあはれ―再掲
冬木s38p27    椿の花むらさきばみて見えゐるを長く咲きたる花とおもひつ
形影s41p16    ときはやく椿花さく藪かげをいでて波の音やうやくしげし
開冬s45p30    醍醐寺の池にただよふくれなゐのその落椿ところを移す
開冬s49p107   椿など覆ふ岬みち葉をもれてまれに燈台の?かがやく
開冬s49p108   海いでて山に照る日は椿さく寺の泉のほとりにも照る
黄月s58p31    おほかたの雪消えしころ寒椿さく道のべは雪凍りをり
黄月s61p81    冬の日にさく寒椿蛇崩川支流の道にその花あかし
黄月s61p83    寒椿むらがりて低く咲く花のくれなゐ強し日にうとけれど


〔つめくさ〕
黄月s58p15    詰草の白とむらさき北上川見おろす丘に踏みてわが立つ
黄月s58p17    青芝にまじる詰草の白き花すがしく見ゆる行きて踏まねど―再掲


〔つるな(注)〕
天眼s53p106   卵とぢの蔓菜やはらかに歯の弱きわがよろこべば妻のつみ来る


〔てんさい(注)〕
冬木s39p61    野の川はセエヌの支流水岸が畑の岸にて甜菜を積む


〔とが(注)〕
群丘s36p99    高山のなかどの道をめぐり来て栂ふく風の音するところ


〔とち(注)〕
立房s21p38    しづかなる若葉のひまに立房の橡の花さきて心つつまし
形影s44p92    仙台藩寒湯番所跡ふく風に橡の黄葉は音たてて散る


〔とどまつ〕
地表s28p41    とど松のいただき白く枯れたるは雪つむころに兎葉を食ふ


〔とねりこ〕
冬木s39p80    ヴァチカンの坂に雨はれて散る黄葉とねりこの並木風にふかるる


〔とべら〕
冬木s39p41    ひくき松海桐花のしげる松山の砂には雨後の寒さのこれる
冬木s40p101   ゆく春の海くもりつつ断崖のうへの平に海桐花群れ咲く
形影s41p16    浜ちかき藪の木群の海桐の実小鳥来てゐるその声きこゆ
星宿s54p10    晴れし日の渚をゆけば海桐花など松にまじれる葉に光あり


〔とまと〕
立房s21p55    街ゆきてさわがしき心しづまらんトマトの上に風立ちそめぬ


〔とろろあふひ(注)〕
地表s29p63    暑き日に人の働く畑ありとろろ葵の黄の花さきて
開冬s47p77    黄の花のとろろ葵さく残暑の日門をとざして家ごもりけり
星宿s57p91    ゆく夏のかかるあはれは今日もあり絵にならぬうち花形なし


〔どいつたうひ〕
群丘s33p36    風さわぐ独逸唐檜の林ありひとつらなりの緑こごしく


〔どうだんつつじ〕
星宿s57p77    ゆく道に満天星の植込刈られゐて寒の晴天にその枝煙る
黄月s59p56    一日の冬日の平和刈りこまれたる満天星のもみぢがけぶる
黄月s59p59    満天星の赤きその葉をたたへゆく日々晴天の歳晩の道
黄月s60p61    満天星の赤き葉のあるほとりにて憩ふ豆柿の散る実を踏みて
黄月s60p80    満天星のもみぢうつくしき年の暮老人なれば日を惜しむなし


〔どくぜり(注)〕
軽風t15s2p13  昼雨にぬれつつ来れば山かげに毒芹の花しろく咲きたり