あ行 か行 さ行 た行 な行 は行 ま行 や・ら・わ行



〔かいじゆ(注)〕    

開冬s49p121   しげき葉の覆ふ楷樹はもみぢせり風も吹かねば音なき一木
天眼s53p90    暑き日をさへぎる湯島聖堂の楷樹の下に今日は憩ひつ


〔かいだう〕
天眼s50p11    くれなゐの花たをやかに光ある海棠を惜しむゆふべをとめと
天眼s53p87    海棠も蘇芳もはなの濃厚にして変化なき晩春の日々
星宿s55p34    蛇崩のいづこゆきても繁紅の海棠の花さくころとなる


〔かうじ(注)〕
しろたへs17p68  朝々の市におびただしき菊の花柑子の類もこのごろ多し―再掲


〔かうじ(注)〕
群丘s35p66    寒き日のちまた歩めばあるところ麹をほぐすわびしきにほひ


〔かうほね〕
冬木s40p103   山もとに魚を放たぬ池ひとつ河骨の花ぬきいでて咲く


〔かき〕
歩道s14p102   疾風に枝折したる柿の木が家すれすれにありぬふるさと
歩道s14p117   柿の葉に明方の風しづかにて音なきときに吾はかなしむ
しろたへs15p7   柿の木に蝉なくときはうらがなし日に照らされて歩み来しかば
しろたへs15p8   柿の実はたわわに青し幼くて吾があそびけむ畑ぞひの道
しろたへs18p98  秋の日ざし冬の日ざしにつらなめて甘くなりたる柿を食ひつも
立房s20p7     われひとり目ざめし夜半に柿の葉を照らして白き月かたぶきぬ
立房s20p10    胃のいたみ鎮りゐたるさ夜なかに青柿の実の土に落つる音
立房s20p12    さまざまに心あそびて吾が倚れる柿の木の幹あたたかにして
帰潮s22p12    柿の木の若葉に光あたるとき春のかがやく朝を迎ふる
帰潮s22p21    落ちてゐる柿のころころとしたる花雨ふれば幼子の拾ふことなく
帰潮s22p23    縁にでて狭庭見てをりさみだれに青黴したる柿の幹など
帰潮s22p26    日盛に庭ほのあまき匂ひする青柿の実がいくつ落ちゐて
帰潮s22p29    洪水を悲しみより幾日過ぎこのひややけく甘き柿の実
帰潮s22p34    戸の外は柿の落葉を猫のゆく音せしのみに夜のしづかさ
帰潮s23p45    柿若葉に軽風の立つゆふまぐれにてありがたき音のきこゆる
帰潮s25p117   ころころとしたる柿の花おち居たるところに立てば母ぞ恋ほしき
地表s28p47    ささやけき大日堂の前庭に柿の落葉を音たてて踏む
地表s29p65    山中の人のすぎはひかすかにて小柿の青実臼につき居り
冬木s39p50    ことごとく若葉のなかに道のべの柿と桑とは明るかりけり
冬木s39p81    数本の柿に黄の実の照るところ過ぎてナポリへ向ひつつゆく
形影s42p35    とりいれてのち営みの無きしばし土の静けさ柿赤き下
開冬s45p25    鴎外の生れし家にしづかさや柿の一木の朱の葉をおとす
開冬s45p25    柿落葉さやけきゆふべ鴎外の生れし家はすでに戸をさす
開冬s46p56    永明寺の庭しづかにていまおちし形をたもつ柿の落葉は
開冬s46p56    紅葉の天あけて露ふかぶかし柿落葉ちる鴎外の墓
天眼s50p25    蛇崩の坂の熟柿雨ふれば鳥は来ざらん吾もあゆまず
天眼s50p31    熟柿のおちしが道につぶれゐる蛇崩坂を日ごと歩みき
天眼s51p49    葡萄くふ歌を考へをりたるに柿林檎蜜柑秋あわただし―再掲
天眼s52p59    時はいま楽しといひて蛇崩の柿の花落つるところを通る
天眼s52p69    ゆく道に柿の葉の散るころとなり今日の朱の葉をけふ拾ひもつ
天眼s53p97    柿の花おちしところに落つるもの柿の実にして逝く日々早し
天眼s53p105   ところどころ柿の実赤く高台の秋の日淡き午後道をゆく
天眼s53p108   色づきし柿の葉桜の葉を踏みてゆく道楽しきのふも今日も
天眼s53p109   土の上に落ちず木に枯るる豆柿を三年見しわれ三度弔ふ
星宿s54p22    遠くより柿の黄の実の見えながらゆく蛇崩のくだり路安し
星宿s55p45    落つる葉に桜柿などまじるころ日々新しき色をわが踏む―再掲
星宿s55p46    枝にある柿花に似るころとなり老いて霧中に見る花に似る
星宿s56p65    無為の日の変化のひとつ柿の木に蝉強く鳴くところを通る
星宿s56p65    柿青き木下を行きし兄とわれ五十年以前の生家眼に在り
星宿s56p68    ゆく道に熟柿つぶれて落ちゐるを惜しむにあらずはたにくむなし
星宿s56p68    遠景の柿黄に見えて楽しくも新愁ひとつ忘るるごとし
星宿s56p70    柿のもみぢ桜のもみぢ散りはてて踏む楽しさのすくなし道は
星宿s56p70    豆柿の踏まれし道のわびしさも行き馴れて日々の寒を怖るる
星宿s56p71    柿の木の枝たかむらにのぞきをり紅葉美しきこの二三日
星宿s57p84    道ゆきて落ちゐるものをあやしまず踏む柿の花日のゆき早く
星宿s57p89    一夜ふきし台風のあと豆柿の青き実の散る道を踏みゆく
黄月s58p18    春頃より道に落ちつぎし柿の実が大きくなりてわれを惜します
黄月s58p22    ふく風を気にせず歩むわが道に枝ながら落つるその豆柿は
黄月s58p27    遠くより柿の実みゆるころとなりいまだ濁らぬ視野をよろこぶ
黄月s59p37    われの眼のめざむるばかりゆく道に柿の若葉に日があたりゐき
黄月s59p43    幼子が道に拾ひてゐるものは柿の筒花にていとけなし
黄月s59p49    風の日は殊更おほき柿落葉美しく散るところを歩む
黄月s59p55    風のふく日は晴れながらやや寒し豆柿の下実のあまた散る
黄月s59p57    豆柿の実の多く散る道の上さけて安けし今日の歩みは
黄月s60p60    豆柿も棕櫚も小鳥の運びたるものと知るわれ木々はしけやし
黄月s60p61    満天星の赤き葉のあるほとりにて憩ふ豆柿の散る実を踏みて―再掲
黄月s60p67    柿の花いつとしもなく過ぎしかば同じところに若実落ちをり
黄月s60p69    西日さす路傍に落ちてゐるものを大き青柿と知りて驚く
黄月s60p75    いくばくか実のめだち来し豆柿に手ふれることもなくて道ゆく
黄月s61p81    棕櫚の葉のここに開くは豆柿のごとく小鳥の運び来しもの―再掲
黄月s61p86    道のべに青柿の実の落ちゐるを散歩のたびに踏む頃となる


〔かし〕
軽風s6p71     暗闇を来し塀の上にひとところ街燈にあかる樫の葉むらが
歩道s14p94    樫の木の風にゆらげる音のして明るき隣室に妻すわり居り
しろたへs16p21  窓そとの樫の葉群はそそぎたる今宵の雨にうす明りせり
立房s21p36    樫の木の上に月いでてみづみづとしたる夜空を窓よりのぞく
立房s21p39    いかりたる後ゆゑ妻があはれにてならず樫の木のしづくする路
帰潮s24p73    大寒のうちあたたかき午後のいとま青樫に黄いろき光を置きて
地表s26p8     樫の木の木下に落葉光りゐるゆふべの道をすぎてわが行く
群丘s35p76    午後三時すぎて赤ばみし日の光たまたま樫の幹にとどまる
開冬s45p30    ゆく春の季のすがしさ醍醐寺の縁にをりをり樫の葉が散る


〔かしは〕
軽風s5p51     柏の木ものものしくもむらがりて山中に見れば尊きごとし
群丘s33p45    砂丘につづく林は柏の木なかの砂地を行けば音なし
群丘s33p45    林なす柏の木立年ふりて秋の青実を葉のひまにもつ
冬木s37p10    しろじろと雪おほふ砂丘のあるところ褐色の枯葉うごく柏は
開冬s46p53    灼金のごとくもみぢせし柏の木牧場なれば牛の声透る
開冬s47p76    寺庭に影をおとせる柏の木老いて石のごとき幹に手ふれつ


〔かぢのき〕
地表s26p14    梶の実はいかにみのりて居るならん罪のごとくに空想うごく


〔かつら〕
開冬s47p76    夏の日に聴禽書屋は戸をとざす時ゆきて桂の木も人もなし


〔かなめもち(注)〕
立房s21p41    樺いろにかなめ若葉して青山の墓地はかがよふ昨日も今日も
地表s27p19    すこやけきかなめの若葉樺いろに輝く一日一日を送る
星宿s57p78    かなめなど若葉のときの朱き葉をしひてたたへずはたいやしまず


〔かひがらさう〕
形影s43p52    浜みちのほとりの畑夏の日に貝殻草は花のかがやく


〔かぶ〕
冬木s39p63    砦ある山なかの町にむらさきの蕪褐色の兎など売る


〔かへで〕
軽風s7p90     いさぎよしとぞ我は思へる紅葉の樹いろづくまへの青き葉を見て ?
しろたへs17p68  寺庭にいりて来ぬれば老木なる楓の紅葉かぜに音する
帰潮s22p36    もみぢ葉の重きくれなゐ一木たち昼まへ晴れて昼すぎ曇る ?
帰潮s22p36    紅のおごそかなりし楓一木ちかづきて見んいとまなかりし
帰潮s22p36    墓丘にくれば終りの紅葉ありその葉乾きて風に音する ?
帰潮s23p69    この丘は日ましに寒くならんとす紅おごそかの楓がみえて
群丘s35p67    栂の尾の谷川の音きこえくる楓若葉の下のいしみち
群丘s35p76    午後の日のうとくなりたる寺庭に楓の落葉よごれて乾く
冬木s40p95    冬の雨に幹洗はれし楓の樹あひ見んとして家いでてゆく
形影s44p76    うつしみの吾をおほひて光しむ石山寺の楓の若葉
開冬s46p60    おもひきり枝をのべたる楓など若葉たはやすく風に吹かるる
天眼s50p26    いささかの時雨にぬれてわが庭の楓は朱のよみがへるらし
星宿s54p15    かたくなに枝にとどまりてゐし楓その枯れし葉は若葉となれり
星宿s55p37    小々の月輪の下しづかにて庭のかへでは若葉ゆたけし
黄月s58p25    公孫樹落葉楓落葉は年輪を思はしめつつ道に散りゐき―再掲


〔かぼす〕
天眼s52p67    木の実にて「かぼす」といふ酸味添へて食ふたとへば答志島の若布を


〔かぼちや〕
軽風s5p54     南瓜棚の下に来りて油照りのあかるき空を見てゐたりけり
立房s21p78    ひとつのみ牧舎のまへに居る仔牛ちかづきみれば南瓜を食へり
帰潮s22p28    おしろいの花を傾けし南瓜など夏すぎてゆく庭を見しかば―再掲
帰潮s22p30    はびこりし南瓜の蔓をかたづけていくばくか土寒くなりたり
帰潮s23p55    ものみなの息をひそめし如き昼南瓜の花に蜂ひとつ来る


〔かや(注)〕
帰潮s24p76    榧の大木春のすがしき香の下に熱あるわが身しづかならしむ
しろたへs15p9   樅の太木榧の太木にたえまなき風かとおもふ波ぞきこゆる―再掲


〔からたち〕
歩道s11p48    夕茜みつつ来りて土手のうへの枳殻の枝やさしかりけり
帰潮s23p47    谷あひといふべき道に逝春の日は照りゐたりからたちの花
地表s26p12    墓地下の道に枳殻のみのるころいや更にして貧しかりしか


〔からまつ〕
軽風s7p81     高原の上にあらはに春日てり芽ぶく落葉松はまばらに遠し
立房s21p79    黄葉して高き一木の落葉松は昼すぎて風の音をつたふる
群丘s35p86    めのまへに落葉松の枝ゆれをりて遠くの風の音がきこゆる
群丘s36p96    からまつが淡き黄となるころほひの山をあゆめば山は明るし
冬木s37p10    ひといろの雪野をゆきて落葉松のはつかの朱もこほしかりしか
形影s41p11    唐松の林しづまるひすがらに稀に鳴く郭公を幼が真似る
形影s43p47    落葉松の緑あはあはと富士桜まじはりて咲く林しづけし
形影s43p47    やうやくに芽ぶかんとする落葉松の林のひまに雲も湖も見ゆ
開冬s45p36    山こえて行き行く一日唐松の黄葉白樺の黄葉は楽し
開冬s46p51    落葉松の林をふきて移り来る風の音移りゆく風の音
開冬s46p55    落葉松の若木のもみぢ黄につづく山のなだりは雨雲高し
天眼s52p63    からまつの林あらはに馴鹿の歩むかたちの見えてバスゆく ?


〔かんしよ(注)〕
冬木s38p37    ときじくの筍のびて路傍には集荷待つ甘藷の袋をぞ置く―再掲
天眼s52p79    老いし歯にこころよき芋朝に食ひ夕に食ひて酒をつつしむ ?


〔かんな〕
帰潮s25p115   朝の霜おきて終りしカンナなど黒く乾きて午後の日は照る


〔かんらん(注)〕
冬木s39p42    湖岸のひろき畑に甘藍の霜やけて赤き葉を見つつゆく
天眼s50p11    衰へし身を養はんわが日々に甘藍うまし海のべここは
天眼s50p15    おきふして十日経しかば海近き畑に甘藍の黄の花がさく
天眼s52p54    冬ながら甘藍うまきところにて青き畑海の光を受くる
星宿s57p79    四年経て銚子に来れば甘藍の畑西日さし影ものものし


〔がじゆまる〕
群丘s34p55    道のべにガジマルの木を仰ぎ立つゆるる気根のかなしともなく
形影s44p104   回廊のなかにはびこる木の根にも馴れてあやしまずレリーフを見る ?
形影s44p105   幾條の幹とも根ともつかぬもの門の仏頭をおほひて生くる ?
形影s44p106   タ・プロムは木の根わだかまる小廃寺石の塔いくつこごしけれども ?
形影s44p106   わがこころしきりに虚し目のまへに木の根動かず石も動かず  ?
形影s44p107   石壁に垂れし木の根が銀灰に光るところをすぎて出で来し ?


〔がま〕
天眼s50p7     冬の日にいでてあゆめば逢ふ人もなく蒲の穂の光る川ぞひ


〔きうり〕
軽風s3p29     街の店に胡瓜あからむ此日頃ふりつぐ雨を思ひつつ来し
帰潮s23p57    黄の小花さける胡瓜の畑にて得しよろこびを暫くたもつ
帰潮s25p107   葉のひまにはればれとせる黄金色の胡瓜の小花けさも見てゐる
地表s30p82    胡瓜もみの荒き匂ひもあやしまず冬のゆふべの晩餐終る
天眼s53p100   胡瓜棚と百日草と窓そとにありて風景の色彩うごく


〔きく〕
歩道s10p46    わが室の窓より見ゆる街屋根に或家の菊すがれゆくらし
歩道s11p56    ゆふあかり街空の上に渡るころ物干にある菊等さやけし
歩道s14p105   硝子窓日ぐれむとして廊下には丈たかく咲く菊の花あり
しろたへs17p68  朝々の市におびただしき菊の花柑子の類もこのごろ多し
帰潮s23p66    菊の花みつつゐたりき冷えわたる空気に佇つは心たのしく
帰潮s23p66    ぬばたまの夜はすがらに菊の花しづくしたたりて冷えつつあらん
帰潮s23p67    夕雲の輝くごとき菊の花その比喩ひとつ抱いてねむる
帰潮s24p96    地ひくく咲きて明らけき菊の花音あるごとく冬の日はさす
帰潮s24p96    菊の花あからさまなるわが庭のきよき空気に虫もあそばぬ
帰潮s24p98    菊の花土にあかるく咲きそめてこの空間も豊かになりぬ
帰潮s25p99    菊の花終りし庭に透明に冬日は晴れてわれを立たしむ
地表s26p16    朝々の霜をかうむりて赤菊の花咲きながら冬至過ぎたり
地表s26p17    赤菊の色こき花は幾日のちあるかなきかの如くにならん
地表s27p28    寒きかぜ空より吹きてゆふぐるる庭には菊の花いまだ見ゆ
開冬s45p23    菊の花ひらくころにてゆくりなき刈田に隣る黄のさやけさよ
開冬s45p26    菊の花ひでて香にたつものを食ふ死後のごとくに心あそびて
開冬s46p55    夕露は菊の花にもおきぬらん?外生家戸をとざしたり
星宿s54p23    台風を境に木々の衰ふるとき菊などの咲く花つよし
星宿s56p69    ひとところ蛇崩道に音のなき祭礼のごと菊の花さく
星宿s56p70    冬の日のさして小菊に光あり平安は庭五十坪のうち
星宿s56p72    終りたる菊むら枯れて匂なき道べのあはれ年々に見つ
星宿s57p93    家いでて蛇崩道に一時間われのひたれる黄菊の天
黄月s59p40    日々あゆむ道に明治の赤き花豆菊咲きて父おもはしむ
黄月s59p50    菊などの庭草長けしものにふれ日々歩くため家をいでゆく
黄月s59p59    十余本菊赤く咲く扉をあけて頭はたらく珈琲をのむ
黄月s60p73    新しき菊を見ながら憩ふとき日の照る遊歩道の楽しさ
黄月s60p79    道のべに咲く菊の花日にうとき冬の光に花びら強し
黄月s61p82    白菊の花たけ高く咲くところ行くこともなし足弱くして


〔きくいも〕
星宿s57p91    椅子あれば菊芋といふ雑草の咲けるほとりにしばらく憩ふ
黄月s59p47    菊芋の黄の明らけく咲くほとり足をいたはるためにいこひき


〔きすげ〕
歩道s8p13     萓草が黄に咲きみちし原ありて道くれしときあやしかりけり
歩道s8p15     尾瀬ヶ原に吾は来しかば萓草の黄の断続が見えわたりけり
立房s21p26    冬こえし草にとなりて新しき萓草もえぬここの水のべ
地表s27p24    飛島のなぎさに近きくさむらに黄菅の莢実くろき種子をもつ
群丘s36p82    陸果つる海の光に草山は黄すげの花のかがやくあはれ
群丘s36p82    黄すげ咲く竜飛の崎にふりさけて北海道の遠山は見ゆ
開冬s46p50    草にゐて鳴く鳥多し萱草の花照る遠きなだりにも鳴く
開冬s49p117   さすたけの君が病ひはこの草の芽を食ふ時にけだし忘れん


〔きのこ(注)〕
地表s29p69    木々古りし峡の平に家ありて秋のきのこを日に並べ干す


〔きび〕
軽風s4p45     裏畑に黍の根赤くのこりゐて風は寒しも朝な夕なに
しろたへs18p84  浅谷の家むらに照る月ゆゑに茂れる黍の畑あかるし


〔きり〕
歩道s10p37    夕暮のほのあかりせる坂道に桐の花みゆ石垣のうへ
立房s21p41    むらさきのおぼろの花は濠水をへだてて見ゆる桐の高木に
開冬s47p83    桐の花さく晩春の尾鷲にてあひ見たるより十年あまりか
星宿s54p15    われの来し湯島聖堂の後庭にむらさきの雲桐の花さく
星宿s57p85    むらさきの桐の花さく昼さがり古実手入れせぬ家も又良し


〔きりんさう(注)〕
群丘s35p71    きりん草黄にさきのこる原のさき岬のいだく潮はものうし
形影s44p93    霧多きところとぞいふ麒麟草の黄は川原をうづめてつづく ?


〔きんせんくわ〕
開冬s45p10    昨日より今日は花多き金盞花冬海ちかき畑をよぎる
星宿s57p85    道のべに十株ほどの金盞かがやきて春晴はいま風に随ふ


〔きんぽうげ〕
開冬s48p93    田をううるころにて畦に黄の花の金鳳花など咲くふるさとは―再掲


〔きんもくせい〕
星宿s55p45    川のべを行きてあやしむ木犀の花に香のなき日々の晴天 ?
黄月s58p25    潮入の池にみちくる水動き金木犀の花の香ぞする
黄月s59p48    黄の花のかたまりて散る木犀の香も年老いてやうやくうとし
黄月s60p71    葉をもるる夕日の光近づきて金木犀の散る花となる


〔ぎぼうしゆ〕
地表s29p78    冬の日にさながらに黄に照らされて静かになりぬ擬宝珠の葉は
開冬s49p120   ゆく春の擬宝珠を食ひしのびたる吉野谷に来て湯を浴みにけり


〔くこ〕
形影s41p16    満潮になりし浜より帰りくる風を負ひ枸杞の芽をつみながら
形影s42p33    波あらき浜より帰るみちすがら枸杞の芽をつむひでて食ふべく
形影s42p33    幼子を待ちて佇むついでにて道のべの枸杞の花をあはれむ
形影s43p44    三月の渚に枸杞をつみに出ておくれ咲く黄の水仙もつむ
形影s44p61    新しき光さしそふ渚みち枸杞の冬芽のやはらかに立つ
形影s44p65    枸杞の芽をつめば蓬の匂ひあり一日のかかる偶然もよし
開冬s46p43    老の身を惜しむともなく枸杞の芽が目につけば摘み渚に遊ぶ
星宿s54p21    いつといふさだまりもなき紫の枸杞の小花は道のべに咲く


〔くすのき〕
歩道s12p67    わが肌に汗にじみつつ現身やなにかみにくし散れる樟の葉
歩道s14p116   朝はやく吾が見つつゆく樟落葉黄ばめるゆゑに明るかりけり
しろたへs18p87  昼さむくそそげる雨は楠の樹下の砂にこともなく沁む
帰潮s24p83    久しかる願ひとぞおもふ樟の木の若葉あかるき長崎ここは
地表s27p20    池にそふ道をあゆみて樟の木の若葉のにほふ頃となりたり
地表s29p80    苑の道にわがかへりみし樟の木はその葉白々し冬の曇に
群丘s36p80    境内に樟の木ありて匂ひたつ若葉のひまに鳩あまたをり
冬木s40p94    外苑のさむき朝々常磐木のうちにて樟の葉はやはらかし
形影s41p13    ふりすぎし時雨の跡ののこる砂樟の木下はさながら清し
形影s41p13    色彩のある鎧などさむざむし外の樟の木をわたる風音
形影s41p14    限りなき稲はみのりてたもとほる村に老木の樟の葉の鳴る―再掲
形影s43p53    朝日さす庭にみだれてよもすがら風に吹かれし樟の葉にほふ
形影s44p72    風わたる紀三井の寺の樟若葉すがしき下にわれら憩ひき
形影s44p74    樟の木の春の落葉はひとしきり壺坂寺に風にながるる
形影s44p74    ここにても樟の若葉は風に鳴る無数珊々の音をつたへて
形影s44p87    つつしみてわが居るときは心かろし風にふかるる樟の葉の音
開冬s48p90    足よわくなりて歩めばゆく春の道に散りたる樟の葉は鳴る
開冬s48p95    白水の阿弥陀堂にてふたもとの老木のひとつ樟に?鳴く
星宿s54p18    道に散る樟の古葉の老い朽ちぬもの美しとおもふ夏の日
黄月s58p17    樟の木のたぐひ若葉のすがしきに光をりをり風に吹かるる
黄月s58p17    風のふくとき空深き音のする樟の若葉をたたずみて聞く


〔くず〕
しろたへs15p8   おくつきはこの丘にして赤土のすがしき上に葛はびこりぬ
しろたへs16p35  すでに花をはりし葛のしげりあり見つつ居るとき風もふかなく
開冬s45p19    島山にみゆる瀬先といふところ葛しげる下潮は瀬にたつ
開冬s45p20    旅なれば昼酒のむもよからんと葛の花さくところを通る
開冬s45p31    紫の葛の花さく湖岸のくさむらふかし残暑のにほひ
開冬s45p39    葛などの露かぐはしき島のみち伊良子度合を見て立ちどまる
開冬s47p76    葛の花ちりて夏ゆく今宿の薬師堂に来つ亡き人のあと
天眼s53p104   秋の日にまだ葛の葉のもみぢせぬ島寒からずさわぐ潮の瀬
星宿s56p72    西湖ゆく船より島に降りたちて葛湯をのみし寒き早春


〔くぬぎ〕
しろたへs15p8   わが兄は櫟林に入りゆけり少年の日の記念を有ちて
立房s21p84    対岸は土崩えのうへに冬がれて立つ櫟原川をへだてて
帰潮s23p38    褐色の櫟の葉ある丘のみち雪もよひ空みえてのぼりぬ
冬木s38p23    ふるさとに似し冬山の香こそすれ櫟の枯れし葉は光りつつ


〔くは〕
軽風t15s2p9   生あたたかき桑の実はむと桑畑に幼き頃はよく遊びけり
軽風s3p28     沢ふかく来しと思ふに山桑のそこ此処に白く咲くは寂しも
歩道s8p10     道のべに高桑の葉はみづみづしひとたび摘みしのちの若き葉
歩道s10p42    桑畑につづきし寺のみ庭にはみちのく夏の光さしけり
しろたへs16p36  裏庭の秋の光に枝のびし桑の木ありて清しその葉は
しろたへs16p37  桑の木の黄に透りたる広き葉は二日もすれば散りか過ぎなむ
しろたへs17p55  さわがしき春日となりてなよなよと延びゐし桑は若葉もえそむ
しろたへs17p62  うら庭に桑の赤実に来てたてば交りてくろく熟れし実のあり
立房s21p33    朝の日に枝ひかりたる桑の木がまばらにつづく雪の上の道
地表s29p53    青き萱桑の若葉も春なれど狭き谷田に鳴く蛙なし―再掲
地表s29p63    ゆく夏の強き光に楢林そとの桑畑はかぎろひの立つ―再掲
地表s29p63    夏の日にかぎろひけぶる桑畑かよふ路ありて自転車通る
冬木s39p50    ことごとく若葉のなかに道のべの柿と桑とは明るかりけり―再掲
天眼s50p17    ふる雨に明るくつづく桑畑ここの台地は古代にか似ん


〔くまざさ〕
歩道s8p17     たちまちに熊笹の葉にとまりたり暗山道に蜂ひとつゐて
立房s21p75    たえまなき疾風のなかに風を切る熊笹の音さびしきまでに
立房s21p82    熊笹のたえしところに枯れふして羊歯の大葉はひらたくなりぬ
地表s29p52    くま笹の色のかわけるしげみにも光明るくてこころ疲れん


〔くり〕
群丘s34p56    栗の花おぼろに見ゆる月夜にて翅音のなき蝶もくるべし
群丘s34p56    かのゆるる栗の梢にさく花とかかはりなくて栗の花の香
群丘s35p68    年々に実つかぬ栗の花さきて庭に明るくみゆるこのごろ
冬木s39p61    縞をもつ栗の実大き柘榴の実ゆふべディジョンの街にいで来つ
開冬s48p101   いばらきの栗のつぶら実かねづきてかがやくものを見ればおもほゆ


〔くるみ〕
歩道s13p89    草もなき黒き古利根の川原みゆ胡桃樹ある岸よりひくく
帰潮s23p66    胡桃の実川に落ちしがはかなごと思ふ沈めりや流れゆきしや
開冬s47p85    砂金採るところを見ると川岸のくるみの青実垂る下に居き


〔くれそん〕
群丘s36p95    クレソンの青も落葉も池のうち水の音せぬ水源地にて


〔くわりん〕
黄月s59p50    晩秋の花梨の青実枕べに営々とあり三日のあひだ


〔くわゐ〕
歩道s11p54    ゆくりなく池のみぎはに慈姑あり長けし慈姑は衰へむとす


〔ぐみ〕
軽風s3p20     海風を吹き上ぐる浜の枯山に残る秋茱萸をわれ食みにけり
しろたへs17p67  砂浜のひとところのみ高き丘に時じくの茱萸の花を手折りつ
立房s21p41    茱萸の実はいまだも青く旅にある童馬山房先生こほし
形影s42p32    とどこほりあるわがからだ運びゆく胡頽の秋花のにほふ藪かげ


〔けいとう(注)〕
しろたへs17p63  くれなゐの鶏頭の花置きてあり外の日照りが窓にかがよふ
しろたへs17p63  盂蘭盆にささぐる花のひとつにて鶏頭の紅の切花かなし
立房s20p8     焼跡のみち歩み来ていくところにも鶏頭の花日にあきらけし
立房s21p60    夕あかりいまだ暮れねば鶏頭のすがすがとして立つくれなゐよ
立房s21p62    さきはひの未来界より吹く風あり夜の鶏頭のそよぐ一時
立房s21p64    縁にでて庭を見しとき鶏頭はあそびのごとくゆるる秋日に
立房s21p67    ひややけき午後のひととき鶏頭のこまかき種子を手ぐさにし居り
帰潮s22p28    曇より光さすときくれなゐの鶏頭の花いまだあたらし
帰潮s22p30    寒き雨庭にそそげば鶏頭の茎のくれなゐも鮮やかにして
帰潮s22p31    鶏頭の茎のくれなゐ照らしたる初冬の月よ悲しきまでに
帰潮s23p59    鶏頭に炎のごとき花ありと記しとどめてわれ沈黙す
帰潮s23p63    花すぎしおいらん草と紅の鶏頭とたつ虫もなかなく―再掲
群丘s34p61    乾きたる晩夏の土にひとところ赤きかたまり鶏頭が咲く
開冬s45p26    五十年以前のこころよみがへる鶏頭の朱に日のにほひあり
星宿s55p39    たけ低き鶏頭などの草花に新種多くあり知る要もなく


〔けし(注)〕
しろたへs16p27  罌粟の花みつつ居るとき扁平にうごくその花や風ふきしかば
地表s27p19    芥子の花明るくゆれて昼すぎのわが庭の上ひくく風吹く
地表s27p19    くれなゐの芥子の花風に揺れながらいとまあるとき亡き母思ほゆ
地表s27p20    うろこ雲の行きとどまらぬ日のゆふべ芥子の実ゆるる庭におりたつ
冬木s39p43    廉売の花をむすめが買ひて来しひなげしあまた花のやさしさ
形影s44p71    ゆく春のけしの畑をしのべとぞ花びら二片机にとどく
開冬s48p89    陰を布く木のなき庭に芥子の花さきて寒の日のこころ軽さよ


〔けふちくたう〕
冬木s39p76    夾竹桃さきのこる崖を境とし低くつづける古代の廃墟
冬木s39p82    せまき道に夾竹桃並木さきのこり秋日あかるき南イタリア


〔けやき(注)〕
歩道s13p87    槻の木に音さだめなき夜の雨わが窓ちかく響きつつあり
歩道s13p87    秋の日に若葉する欅ありひとたびは暴風のために衰へしかど
歩道s13p88    窓外の欅の幹にひかりさすいつの日よりか?も鳴かなく
歩道s13p90    わが窓のしたの鋪道は朝あけて欅の落葉みちにしづけし
歩道s14p95    萌えたちし欅並木のはてにして風たえまなき暮がたの空
歩道s14p102   槻の木のむかうに広き鋪道ありとめどなく夜の雨ふりながら
歩道s14p103   槻の木のはやき落葉は黄のいろのさやかに散りぬ行く道のうへ
歩道s14p108   槻の木の落葉やうやくにすくなくて年終りけることぞ身にしむ
歩道s14p112   槻の木のとほきあたりはおほよその紅色に低く並みたつ
しろたへs15p11  いましがた茅蜩なける槻の木はわが歩むとき葉のそよぐ音
しろたへs15p15  窓しめて吾のこもれる夜の風槻の落葉は鋪道に音す
しろたへs15p16  わが窓を明るくしたりひと時の槻の並木の朝輝は
しろたへs15p16  朝はやくより槻の並木は枯れし葉が日にかがやきぬ現身さむく
しろたへs15p16  一夜風なぎし朝の槻の落葉ふかぶかとして道にかたよる
しろたへs15p17  欅の葉黄葉ののちの土色に並木は遠くしづまりにけり
しろたへs16p19  麦門冬のくさむらに槻の落葉ありて今日のあさけに覆ひたる霜―再掲
しろたへs16p25  ひとときに槻の並木は若葉せりわが朝夕の鋪道せばめて
しろたへs16p26  わが窓に槻の木末と輪郭の判然とせぬ白雲と見ゆ
しろたへs16p26  はやはやも一色の青となりてゆく槻の嫩葉をかなしみしかど
しろたへs16p30  垂るばかり青葉せまりし並槻のなかの鋪道を来て家に入る
しろたへs16p32  槻並木さながら重くしげりぬと物音なき夜の鋪道をし行く
しろたへs16p35  両側に欅がしげり道の上さわがしくして夕日さしたり
しろたへs16p36  槻の木の並木はとほく暮れゆきて空の暗きに雲が見えをり
しろたへs16p37  夜ふけし窓を開けばわが部屋を暗くおほひし夜の槻の木
しろたへs16p38  槻の木がちかく茂りてわが窓の上に音する夜の疾風は
しろたへs16p38  ふた側に槻並木ある鋪道にてはたての靄は朝のかがやき
しろたへs17p61  青き葉のしげりしげりし槻の木に音あるごとき夜に寝むとす
しろたへs18p73  轟々と槻の並木をふく風は吾がむらぎもの心やしなふ
しろたへs18p74  きさらぎの風ふく道の水溜におもほえぬ槻の落葉などあり
しろたへs18p86  あらし過ぎ輝きし日のつづきにて茂る欅も見えがたき闇
しろたへs18p86  槻落葉あしたの風にかたよりて鋪道に見ゆる楽しきは今
地表s27p30    落葉せし欅の枝に子供をり常来る鳥のごときこころか
開冬s45p21    大欅音なく秋日さしとほる五合庵跡にしばし来て立つ
天眼s50p24    銀杏ちるところ欅のちるところ雨はれし坂のぼりてくだる―再掲
天眼s52p71    夕光にふたもとの槻葉をおとすところ見えつつ坂くだりゆく
天眼s53p107   槻の木にゐる夕鳥のこゑきこえ行く坂道は寒くなりたり
星宿s54p9     たちまちに晴天となり行く坂の遠くに槻と雲と交はる
星宿s54p26    葉のさわぐ槻の木の下かへりくるゆふべの風は露をおびたり
星宿s54p26    道に踏む槻も桜もこのごろは古りて硬き葉の色あたたかし
星宿s55p34    花白きさくらのまじる一むらの槻けぢめなく若葉萌えそむ―再掲
星宿s56p54    くだりゆく蛇崩の坂四五本の欅のうへの雲あたたかし
星宿s56p58    春早き槻の梢のけぶるごと在るところにもわが顔は見ゆ
星宿s57p86    いつよりか足衰へて葉のうごく高槻の木のほとりへ行かず


〔げつかびじん〕
開冬s49p114   一夜のみ咲きて終らん花を見つ憐れは大き花ゆゑにあり


〔げつけいじゆ〕
星宿s57p85    昼人のゐぬ家の垣いこふとき月桂樹花よりも葉の匂あり


〔げんげん(注)〕
軽風t15s2p10  げんげんの花咲きみちし広き田に雲雀の声は天より響く


〔こうしよくき(注)〕
開冬s48p102   秋暑きわが庭のうへしづかにて紅蜀葵の花枝たかく咲く
星宿s57p90    旗のごと紅蜀葵なびく道のべの晩夏の風に吹かれて歩む


〔こうぼふむぎ〕
冬木s40p106   埋立の砂をたもつと植ゑなめて黄に冬枯れぬ弘法麦は


〔こくわ(注)〕
立房s21p81    木天蓼に形似てあまきあしびきの山の木の実をコクワといひぬ
立房s21p81    相隣る木にして友はコクワ採み吾はむらさきの山葡萄つみ


〔こけ(注)〕
軽風s7p90     宮わきの苔たひらにて一もとの松の若木はながき葉の垂る
しろたへs17p43  古庭はしろたへの砂きよくして苔ある石をひくく置きたり
しろたへs17p45  山の木々生ふるがままの冬庭にゆたけき青の苔は栄ゆる
しろたへs17p46  ふかぶかと庭をおほへる青苔を見つつめぐりぬ踏むこともなし
しろたへs17p46  ひと色のしづけき青をたたへたる苔おほどかに庭をうづめぬ
しろたへs17p46  木々の葉の落ちつくしたる山庭に苔につづきて池は明るし
しろたへs17p46  青苔のすがしき庭に折ふしの風のなごりはひくく通ひつ
帰潮s24p74    この苑の木下の苔が霜荒れし土に乾くを悲しみもせぬ


〔こけもも〕
地表s29p72    秋はやく至る高原にかすかにて紅の実の照る苔桃よ


〔こぶし(注)〕
立房s21p38    すがすがとしたる辛夷にちかづけば暖き日ににほふその花
立房s21p47    林間をかよへる路のひとところ辛夷の白き花ちりやまず
立房s21p59    関川の宿に年ふりし辛夷の木青葉のときに来りあふぎぬ
帰潮s24p77    はるかなるものの悲しさかがよひて辛夷の花の一木が見ゆる
地表s27p26    二階よりつづく曇に向ひをり朱実ふりたる辛夷の高木
開冬s47p71    移り来し家に今年の花を待つ百苞の辛夷日々光あり
開冬s47p71    きのうふよりつづく疾風にわが窓をおほひてゆらぐ辛夷の白は
開冬s47p87    よごれつつ咲きのこる辛夷その上の桜は莟朱くなりたり
開冬s48p89    窓外に辛夷のつぼみ立つころとなりて衰へしわが日々寒し
開冬s49p108   たちまちに辛夷をはりてしづかなるいとまなかりし花を哀れむ
天眼s50p10    わがこころめざむるまでに輝きて窗そとにたつ辛夷一木は
天眼s50p26    辛夷の葉散りすぎてよりあらはなる花芽ひかりて一日風ふく
天眼s51p36    辛夷さくわが門を出て道をゆく一年過ぎし空気香のあり
天眼s51p36    高きより俯して見るとき明らけき辛夷の花を今年たたふる
天眼s51p37    門のうち門のそとにも辛夷ちる風痺を得たる日の記念にて
天眼s52p57    辛夷さく門をかへりみたちいづる及辰園先生は今年足つよし
天眼s52p57    空はれし一日辛夷の明るきははなびらゆれて風をよろこぶ
天眼s53p80    さしあたり善悪もなく新年の庭に辛夷の冬芽かがやく
天眼s53p108   静かにて清き冬日の稀にあり辛夷の花芽ひかるわが庭
星宿s55p28    得喪のひとしきわれのひそけさや辛夷の花芽冬日に光る
星宿s57p79    窓外に来る尾長鳥二つゐて咲ける辛夷の花をついばむ
黄月s58p26    辛夷の葉散りすぎてより光ある花芽を仰ぐ日々ありがたし
黄月s59p36    遠からぬ記憶なれども帰り路に桜とこぶし咲けるまぼろし―再掲


〔こんぶ(注)〕
群丘s36p81    昆布とるとき終りゐてひそやけきひとつの部落たちまちに過ぐ
冬木s37p11    雪せまる海のなぎさは沖根婦拾ひし昆布をくろぐろと乾す
冬木s37p11    流氷の寄るころ海にただよへふを拾へば拾昆布とぞいふ


〔ごくらくてふくわ(注)〕
形影s41p17    枕頭の極楽鳥花みつつ臥すかかる構図を誰か哀れむ


〔ごばう〕
しろたへs17p64  港にて泊てゐる船の人らしく茄子と牛蒡をいだきて帰る―再掲


〔ごむ〕
軽風s7p76     鉢植の護謨を買はむかと思ふまで心ゆたけきは常の夜に似ず
軽風s7p76     晴れながら春はまだきの部屋なかに厚葉護謨の木を置きてこほしむ
歩道s9p25     護謨の葉をけふ降る雨にうたしめてこのすがしさは心がなしも
地表s29p54    霧のごと雨ふりしかどすぐやみてゴム苗植うる畑輝く