あ行 か行 さ行 た行 な行 は行 ま行 や・ら・わ行



〔はぎ(注)〕    
しろたへs17p63  かなへびといふ蜥蜴にて萩むらのかわける土にかくろひ行けり
地表s27p27    萩の花すぎがたに青き実の見ゆるわがかなしみて明け暮るるとき
地表s28p45    うら枯るるものの明るさや毛越寺の池のみぎはに荻もみぢせり
地表s30p97    微かにて花咲きそめし萩などもしほはゆき海の風に吹かるる
冬木s39p54    こまかなる萩の花さくひとむらの枝そよぎつつ残る暑さか
形影s42p34    したたかに降りたる雨を境とし今年の萩も終りてゐたり
開冬s46p52    昼ゆゑに鳥のこゑなき山のみち八月二日萩すでに咲く
天眼s53p103   その花の名を聞くのみになつかしき白萩などの咲くころとなる
天眼s53p103   何故となく腰いたむ日のつづき萩咲くころといへど歩まず
星宿s54p17    夏至のころ萩さきそむる古庭のあはれをしのぶ後の日もあれ
星宿s55p44    かがり子の部屋のべを過ぎ萩の花垂れさく崖の下をわがゆく
星宿s55p45    空中に雨気霏々として萩の花さく蛇崩の道さむからず
黄月s58p20    紅萩と白萩相隣り花の咲くこの庭園の簡明もよし
黄月s58p20    一株の風に枝重き白萩のときに影のごと見ゆる曇日
黄月s59p47    崖上に長き枝たるる萩の花咲き散るさまを日々知らず見る
黄月s60p70    かがりこの窓下を行くわが歩み一年すぎてまた萩の咲く
黄月s60p71    秋晴の一日のうちに萩の花終りむらさきの花あまた散る


〔はくしよう(注)〕
開冬s49p121   まどろみを誘ふ秋の日青桐に似たるはだへを白松はもつ
星宿s56p59    景山の白松をふく風の音眼下の故宮ほこりにかすむ


〔はげいとう(注)〕
歩道s9p30     葉鶏頭の赤き一群が目にうかべど植物のごとき感じにあらず
歩道s10p43    雁来紅が土に乱りし庭ありて日の折ふしに白き猫をり
黄月s59p50    人のごと見て親しみし植物のかまつかすでにうら枯れてゆく
黄月s60p72    十株ほど赤きかまつかゆらぎつつ西日に光りわが通りゆく


〔はぐさ(注)〕
黄月s60p68    道のべのはぐさのたぐひいつ知らず道をせばめて人にさやらふ


〔はこねうつぎ〕
開冬s45p17    風ふけばひるがへる紅わびしくてはこねうつぎはいづこにも咲く


〔はこやなぎ(注)〕
冬木s39p81    白楊の並木にわたす葡萄の蔓ゲーテが見たるものをわが見つ


〔はす〕
歩道s8p19     暮方にわが歩み来しかたはらは押し合ひざまに蓮しげりたり
立房s21p59    花すぎし蓮のしげりよさえざえとしたる緑は心いたきまで
群丘s31p15    蓮の葉は老いて緑のさえざえし稲穂にいづる道を来しかば
形影s41p13    うちつづく稲田蓮田のなかの水人ゐて水をうごかす音す―再掲
形影s41p13    蓮の根を洗へばゆるる水草のかすけき花は秋の日に咲く
形影s41p14    境なく水路につづく沼のなごり秋青き蓮は心さわがし
形影s41p14    秋の日に青き蓮の葉おくれ咲く花のあはれも旅にして見つ
開冬s47p73    伊豆沼の三百町の無主の蓮花さけば遠く来りてあそぶ
開冬s47p74    水に生ひて今年の青を遠く鋪く蓮はさやけし空ひろき下
開冬s47p74    蓮の花見つつ舟にしてゆくときに朝日に照るは花のみならず
開冬s47p74    さわがしき朝の光とおもはねど遠近のなき蓮のくれなゐ
開冬s47p74    水の香をもちてかがやく蓮を見つ淡紅の花深紅の苞
開冬s47p74    三尺の天にひらきて紅のなかにうつくしき蕊あり蓮は
開冬s47p84    しげりたる蓮のあひだはあるときは林の如く舟をゆかしむ
開冬s47p84    あらかじめ暑き夏日は伊豆沼のさやけき蓮の上にけぶろふ
開冬s47p84    歓を倶にして舟にゐたるとき蓮の香よりも酒の香つよし
天眼s51p43    おほよそに白き蓮の葉空ひくく秋燕とぶ沼に音なし


〔はなみづき(注)〕
天眼s52p59    街路樹の花水木祭のごとく咲く街すぎて動君の家を訪ひにき
天眼s52p59    花水木あぢさゐなどに煉瓦色の楽しともなき外国種あり
黄月s59p37    寒暑なき花みづき咲く空の下万物清々の時を惜しまん


〔ははそ(注)〕
群丘s36p80    もろともに柞の若葉そそぐとき五月のひかり林泉に輝く


〔はひまつ〕
冬木s39p51    夏の日に這松の樹脂にほふらん風ふくなだりしばらく歩む
冬木s39p52    這松のいづこともなき鳥がねは小鳥の声ぞ吹く風のなか


〔はぼたん〕
歩道s10p34    この日ごろかよふ巷に葉牡丹の鉢をし見れば冬日はさしぬ
歩道s11p57    葉牡丹を置き白き女の座りゐる窓ありにけり夜ごろは寒く
天眼s50p13    おどろにて道の花壇に葉牡丹の黄の花寒しゆく春の風
星宿s54p13    黄のあはき葉牡丹の花さくころとなりて銚子の日を懐しむ
星宿s55p28    はなやかさ寂しさもなき葉牡丹の花壇は日々の霜柱あり
黄月s59p33    さく花にあらぬ葉牡丹の開くころ蛇崩坂はやうやく寒し
黄月s59p42    行きずりにをりをり見しが葉牡丹をぬきて何もなき土のすがしさ


〔はまだいこん(注)〕
しろたへs17p67  砂浜に浜大根といふ草の青々とせるひとところあり
形影s44p80    おぼろなる浜大根の花さきて干潮の海とほき波音
天眼s50p15    外川には浜大根の花まぶし四十年すぎて老いて来ぬれば
天眼s50p29    いづこにも浜大根の花さける春日外川の渚をあゆむ
星宿s54p14    いたるところ浜大根の白き花渚に波のごとく吹かるる
星宿s54p14    知る人は知るその花のなでしこに似るあはれさや浜大根は


〔はまなす〕
地表s27p24    はまなすの実はおのづから紅ふかき頃としなりぬ渚草叢
地表s30p89    梅雨のあめ降りつぐときにわが庭のハマナスの実は赤く熟れゆく
地表s30p92    草原は朝のしづかさをたもちをり紅きハマナスところどころに


〔はまひるがほ〕
星宿s54p14    淡紅の浜昼顔にここに逢ふ十年の時と人まのあたり
形影s42p27    むらがれる浜昼顔の淡紅に海の夕日のおよぶかがやき


〔はままつよひ(注)〕
星宿s54p14    おひおひに夕暮れてくらくなる渚浜待宵の黄は星に似る 


〔はまゆふ〕
形影s41p16    海風のあたらぬ浜のくさむらにしばし憩はん浜木綿の青
形影s42p27    浜木綿の下に浜百合も咲くころとなりて楽しく渚をあゆむ
形影s43p51    浜木綿の花さくなぎさ梅雨あけの暑さに馴るるわが日々あはれ


〔はまゆり(注)〕
形影s42p27    浜木綿の下に浜百合も咲くころとなりて楽しく渚をあゆむ―再掲


〔はりもみ〕
冬木s40p104  針樅の林のなかに音のなき夕まぐれにて暗し緑は
冬木s40p104  はりもみの林をいでて帰りくる稲穂田の黄のくれのこるころ


〔はんのき(注)〕
軽風s7p89     水の上ひくき浮島にまばらに榛の木立ちぬ黄にいろづきて
しろたへs16p29  山葵田のなかより立ちし榛の木はこの山の雨に若葉音する―再掲
しろたへs16p29  榛の木のしたに影する山葵田はつめたき山の水がやしなふ―再掲
冬木s39p57    朝焼の空遠き野をゆく道に榛の並木は秋のすがしさ
冬木s39p60    並木もつ道いくたびも野にみえてあるとき高き榛の木の列
冬木s39p61    簡潔に運河がみゆるもみぢばの榛の並木の下をゆく水
開冬s45p22    榛の木の列さまざまに見えをりて遠き山ちかき刈田も寂し
開冬s46p51    榛の木を切れば日のさす切口はたちまちにして深黄となる


〔ばせう〕
軽風s3p30     芭蕉葉のほぐれ若葉や秋立つと朝な夕なに風もこそ吹け
群丘s34p54    海風のかよふ一山おしなべて緑やさしき芭蕉のしげり


〔ばら(注)〕
帰潮s23p50    みづからの光のごとき明るさをささげて咲けりくれなゐの薔薇
帰潮s23p50    曇空むしあつくして黄の蜂の音のきこゆる薔薇の花むら
地表s26p15    たまものの薔薇の低木にしろたへの花秋の日にひとつ咲きそむ
地表s28p35    暑き日に心しづまる黄の薔薇の花を見たりと人にいはなく
群丘s31p21    冬の日の光に咲きてしろじろと襞くどからぬ蔓薔薇ふたつ
形影s44p81    われを待つところともなき明るさや七万の薔薇ひとときに咲く
形影s44p82    薔薇さきて小鳥ひくくとぶ楽しさはかつても見しか老いて今日見る
形影s44p82    さく薔薇の土に影おくかたはらに老いて愁の多きは何か
開冬s46p46    薔薇のさく土より埃ふきたてて一日わづらはしゆく春の風
開冬s48p89    十葉の薔薇もみぢせる窓外に大寒の日の平安はあり
天眼s50p26    冬ちかき小園のうへさく薔薇のめぐりは清し日は照りながら
天眼s50p26    わが庭の薔薇の朱実をついばみてしばし遊びし冬鳥あはれ
天眼s51p39    雨つづくゆゑ青草のふかき庭くれなゐの薔薇日々しづかにて
天眼s52p62    光ある花を讃へて薔薇のさくころ充ち足れる日々とおもはん
天眼s52p78    アラスカの木々ふかからず紅の野薔薇の花はいづこにも咲く
天眼s53p81    来る無く失ふも無きわが庭に奕々として夕薔薇の咲く
天眼s53p88    蛇崩の往反人の同じきに季うつり家々の垣薔薇となる
天眼s53p97    門ちかく今年移しし梅の木の下に薔薇さく及辰園の庭―再掲
天眼s53p108   沈黙のわれのごとくに茎たかく咲くくれなゐの冬薔薇あはれ
黄月s58p9     いづこにも薔薇の咲くころ年老いしわれさへ楽しゆく日来る日は
黄月s58p10    花移り花替りゐる道のべに薔薇の命はいくばく長し
黄月s58p15    薔薇のさくとき薔薇のさく道のうへ三時待ち銭湯へゆく人歩む
黄月s59p45    薔薇の木のとげを恐るる老人が若葉の下を今日暑くゆく
黄月s59p46    つるばらの花びらの散る道のべの風に吹かれてしばし憩へる
黄月s60p65    散りがたのつるばらのある椅子のべに憩ふ一年の良き時間にて
黄月s60p77    つるばらの散る椅子のべに憩ひしが半年すぎて歳晩となる
黄月s61p81    日々白き薔薇のつぼみをあはれめど開かず枯れて新年となる


〔ばれいしよ(注)〕
軽風t15s2p10  露もてる馬鈴薯の花匂ひつつこの野の畑に月出づるらし
軽風t15s2p14  水汲みて女帰りゆく馬鈴薯の花さく畑の道かわきたり
軽風s5p50     畑隈にいこひて見れば馬鈴薯は眼の高さまでのびて花咲く
軽風s5p53     味噌汁の馬鈴薯を煮る炉のはたに我は居たりき音の楽しく
群丘s34p51    馬鈴薯のしろき花咲きてむしあつき島の畑を渚にくだる
開冬s45p39    むらさきの畑白の畑馬鈴薯の原種農場に花さくところ
天眼s51p47    大粒の栗のごとうまき馬鈴薯がこの世にありと君に伝へん


〔ひさぎ(注)〕
形影s44p69    をさなごの出で入る上にこのごろは楸の若葉くれなゐの顕つ ?


〔ひし〕
しろたへs16p34  葦の間は池一面におほひたる菱の葉むらが乾きてゐたり―再掲
立房s21p72    塘路湖の水のあかるさ渚にて菱の古実をひとつ拾ひし
群丘s35p72    岬なる松の林のなかの池秋あつき日に菱の葉しげる―再掲


〔ひつじぐさ〕
開冬s45p38    浅山のまのささやけき湖は残暑の水にひつじ草咲く


〔ひのき〕
歩道s9p31     あかつきの赤き光にひともとの檜たちつつ尊かりける
しろたへs16p20  檜の幹あかがね色のあらはれて雨にぬれをり寒き日すがら
立房s20p21    こまかなる檜の落葉たまりをり時雨はれゆきしこの昼つかた
帰潮s23p38    くれなゐの檜の落葉その幹の下にぬれつつ寒き雨ふる
地表s27p26    ひたすらに檜の青はいたいたし秋日にいでて吾の来しとき
地表s29p57    濃厚にしてさやかなるものありと吾の見てゐる檜の緑
冬木s38p28    日の長くなりしゆふべに椎の木の上は青檜の上はくれなゐ―再掲
冬木s38p31    木々のうち檜の緑さやけきが二階より見ゆわが秋の日々


〔ひば(注)〕
軽風s4p44     夕ちかき空は曇りてをりしかば檜葉の香のする道を来にけり
帰潮s25p100   さむざむと檜葉のゆれゐる曇日の風単調にしてひびきなし
形影s42p23    恐山ちかづく道は雲しづむ檜葉山のなか暗くなりたり
形影s42p23    おのづから檜葉のしげ山をぐらきに朴の青葉はさやけかりしか
形影s42p23    ふかぶかと檜葉しげる山くだり来て恐山白き石原と湖


〔ひま(注)〕
立房s20p8     戦は過ぎけるかなと蓖麻の花のこまかき紅も心にぞしむ
群丘s33p44    十三潟のつづきのごとき前潟もさびしかりけり岸の蓖麻の実


〔ひまはり〕
冬木s39p63    レマン湖にそひつつひろき向日葵の畑は秋の黄の花さけり


〔ひやくにちさう(注)〕
開冬s49p114    百日草稚女のごといまだ庭に咲き白髪われは何にか似たる
天眼s53p100    胡瓜棚と百日草と窓そとにありて風景の色彩うごく―再掲


〔ひるがほ(注)〕
群丘s34p54    紫の昼顔のさく道をゆく沖にはうとき珊瑚礁の波
形影s44p99    「象のテラス」前面にして昼顔の花あまた咲くところも暑し


〔びは〕
軽風t15s2p10  老父がふところより出し給ひつるその枇杷の実や露にぬれをる
歩道s14p92    板塀のうちは風ふく音のして厳しきさまに枇杷一木たつ
立房s21p66    枇杷の花さきそめて日のあきらけき今日は折をり蜂がまつはる
帰潮s22p7     苦しみて生きつつをれば枇杷の花終りて冬の後半となる
帰潮s22p21    枇杷の実の黄にいろづきし窓外の一木をりをり風にもまるる
帰潮s22p22    ちからなく時に遅るる吾かとも思ふしきりに枇杷の葉鳴りて
帰潮s22p24    現実の時間なき地下売店にうづたかくして枇杷の黄なる実
帰潮s22p29    秋の日のさやけきころをつぼみ持つ枇杷の一木よ営々として
帰潮s22p34    つつましく冬の花もつ枇杷の木の見えゐる窓に日すがら坐る
帰潮s22p36    窓そとの暗き枇杷の葉枇杷の葉は今日の昼すぎしきりに揺るる
帰潮s23p41    寒き風ふくゆふまぐれ枇杷の木の根かたの土に埃たちつつ
帰潮s23p45    一人にて居ればはかなき昼すぎにをりをり風の集ふ枇杷の木
帰潮s23p46    さながらにわが貧困を思はしむ枇杷の古葉が土に乱れて
帰潮s23p52    せまりくる常の不安のひとつにて影なき枇杷の木にむかひをり
帰潮s23p62    野分だつ風にしきりにゆれながら枇杷の木は花のつぼみを持てり
天眼s53p109   街かげの日々人の無き小園に来ることのあり枇杷の冬花
星宿s54p16    初夏の日に散る葉まれにして枇杷の実の青し小園の常来るところ
星宿s54p19    枇杷の実の落ちゐる庭のにほひなどいとはしからず自然の空気
星宿s54p21    広き葉の枇杷を愛してその上の天に音する風を聞きにき
星宿s56p53    枇杷の花すでに咲きゐし年終り冬深くなる日々の晴天
星宿s56p69    石のごと木の根あらはれし街川の岸にひそけく枇杷の花さく
黄月s58p5     年こえて咲く枇杷の花かすけきに老境多日なきわれの親しむ
黄月s59p60    枇杷の花しづかに空に咲きそめて蛇崩の道歳晩となる
黄月s60p80    かすかなる枇杷の花さく道のべをかへり見ずしてわれ歩み来し


〔びらうじゆ(注)〕
群丘s31p9     びらう樹の葉の騒ぐ音ききつやと過ぎにし人をしのびつつ行く


〔ぴ―まん(注)〕
冬木s39p42    ピ―マンの茎枯れて立つ畑には冬日ににほふ赤き実黒き実


〔ふうろさう(注)〕
地表s29p73    秋はやくもみぢせるもの虎杖も風露もすがし高原にして―再掲
地表s29p73    おしなべて短き草にまじり咲く風露の花の淡きくれなゐ
地表s29p73    さながらに秋の光に灼けしもの風露草のもみぢ小さけれども
開冬s46p49    むらさきの風露さきつづく山の原霧のむかうに海音きこゆ


〔ふえにつくす(注)〕
開冬s47p73    温室の覆をとりし園みえて無枝の林はふく風のなか


〔ふき〕
立房s21p26    蕗の薹ややのびゐたりその茎の上にこまかき花むらがりて
立房s21p48    うすぐらき木下とおもふ蕗の葉に天道虫がひとつ居りたる
地表s30p95    もりあがり来る山がはの濁りたる流の岸に蕗なびき伏す
群丘s36p79    無花果の木下の土のひたすらに乾きて蕗の薹ももえゐたり―再掲
冬木s37p13    俗にいふ五十肩にてうとましき躰をはこぶ蕗萌ゆる庭
冬木s39p43    貧しかりし石炭の灰が庭すみに土となり蕗の薹ほほけをり
形影s44p70    雪きえしところに萌ゆる蕗の薹春の湯沢の香をしのばしむ


〔ふぢ(注)〕
軽風s3p28     たまたまに吾がいでて来しこの道に藤の花ちる頃となりにし
地表s30p86    むらさきの藤の花ちる峡のみち女良谷川にそひてわが行く
群丘s34p49    白藤の花にむらがる蜂の音あゆみさかりてその音はなし
形影s44p75    むらさきの藤浪なびく岡寺にまれまれに鳴く春蝉のこゑ
形影s44p78    今熊野観音堂に白藤の香ぐはしき日を後もしのばん
開冬s46p59    藤の咲く日にいでたちてくさぐさの国を見めぐる楽しかるべし
開冬s48p91    対偶をよろこぶ及辰園先生が藤浪の下にこよひ酒を飲む
開冬s48p92    木のうれに寄りて咲くゆゑ遠けれど散りたる藤のむらさきすがし
天眼s51p40    雲のごと藤さく洲あり断崖のきりたつ川をさかのぼり来て
天眼s51p40    晴れし日の水のひかりは石壁にありその下の咲く藤にあり
天眼s51p40    石壁の下の川洲にむらさきの藤を明恵にまねびよろこぶ
天眼s53p88    くさぐさの花晩春の日々すぎてむらさき光ある藤のさく    
星宿s55p36    湖岸の藤さきそめしその棚の下に立ちにき留念のため
星宿s57p83    あかねさす昼の日長きゆく春に藤の花の香あまくとどまる
星宿s57p83    風強き日にて吹かるる花うごき藤棚のへにかをりただよふ


〔ふよう〕
地表s27p22    夜ふけし家に帰りてわが庭の芙蓉は明日の花ひらきそむ
地表s28p37    朝焼のくも高空にうごきつつ芙蓉の花はかたち新し


〔ふり―じあ〕
地表s29p53    夕日さす宇喜多秀家の墓どころフリ―ジアの花すぎがたにして


〔ぶ―げんびれあ(注)〕
冬木s39p82    ソレントの昼のひそけさ紫のブ―ゲンヴィレア花あふれ咲く


〔ぶだう(注)〕
群丘s31p15    静かなる日がつづきゐて葡萄の実黒くなりたる下を行き来す
冬木s39p62    ディジョンの白き小粒の葡萄の実フランス山間の匂ひかあらん
冬木s39p65    山ふかく来つつ山ふかきこころなし見ゆる傾斜は葡萄の黄葉
冬木s39p67    岩山のするどき峯が午後の日に光れる下の葡萄のもみぢ
冬木s39p81    白楊の並木にわたす葡萄の蔓ゲ―テが見たるものをわが見つ―再掲
天眼s51p49    天雲のごとく垂りたるかぐの実の葡萄の露の凝りしこの酒
天眼s51p49    葡萄くふ歌を考へをりたるに柿林檎蜜柑秋あわただし
天眼s53p107   むらさきの雲のごときを掌に受けて木の実かぐはしき葡萄をぞ食ふ
星宿s55p47    ゆたかなる葡萄の房はむらさきの天然一粒一粒の雲


〔ぶつさうげ(注)〕
群丘s34p53    生垣の赤き花さく仏桑華昼ひそかなる部落を過ぎつ
群丘s34p55    夕凪のなほ暮れがたき日のひかり仏桑華の赤き花を照らせり


〔ぶな〕
地表s28p41    蔦の湯に近づきながら太木々の?の林は散りすぎにけり
群丘s33p35    若葉せし?の林にをりをりにとよもす風の音はきこゆる
冬木s37p14    ?などの枝しろく照る春山や木々のしづくは雪消のなごり


〔べにうつぎ(注)〕
形影s42p22    いづこにも紅空木咲き梅雨曇さむき陸奥湾にそひてゆきゆく


〔ぺちゆにや(注)〕
開冬s49p114   ペチュニヤは秋庭に雲のゐるごとし花ゆゑ色の軟かにして


〔ほうせんくわ(注)〕
歩道s13p85    つまぐれの悲しき花はさきそめて梅雨のあひだに季はうつろふ
立房s21p55    しなえたる葉のひまにしてつまぐれのつゆけき花よ暑き光に
帰潮s23p54    縁にでて見れば鳳仙花さく庭の草の中よりかぎろひの立つ
地表s26p15    わが庭にいまだ咲きつぐ鳳仙花珊瑚細工のごとし秋日に
地表s27p26    二度萌の鳳仙花ひくく咲く庭にいでてこころを抒べんとぞする
地表s30p100   秋庭は何故となきにほひして花まばらなる鳳仙花など
群丘s31p14    鳳仙花いまだ咲きつぎてかすかなる花の匂を惜しまんとする
群丘s35p70    鳳仙花いつとしもなく終りゐる庭に銅貨をひとつ拾ひし
開冬s47p73    わが庭の草たけて梅雨明けんとす咲くつまぐれも百合も草の香
天眼s52p69    ゆきずりの道に咲きのこる鳳仙花百日われを慰めし花
星宿s57p87    植込の下に花さくつまぐれを明治生れのわれは哀れむ
黄月s58p28    鳳仙花など二度萌えの花咲きてゐしかど今朝の霜に終れる
黄月s61p90    十月に入りてやうやく花咲きし鳳仙花ながく形くづれず


〔ほていあふひ(注)〕
冬木s38p37    夕雲のあかるき下に布袋草枯れて咲きのこる花のむらさき
形影s44p100   アンコ―ル・ワットの濠にほてい葵の花うごかして水牛沈む
天眼s51p43    たもとほる沼のほとりに紫のほてい葵寒暑なき花の咲く


〔ほととぎす〕
天眼s53p110   いつ終るともなく花は終るらしたとへば路傍のとととぎすなど
星宿s56p52    朝夕にあゆむ道のべの霜柱ほととぎす枯れしあたりにしるし


〔ほほ(注)〕
軽風s3p33    日光さす朴の木の下はあたたかく朴の若葉はみなひぞりをり
軽風s5p57    この山に霜いたるころ杉群をぬきいでて高き朴の葉青し−再掲
しろたへs17p59  いさぎよき朴の一木に近づけば広葉のなかに蕾こもれり
帰潮s22p16    ゆく春の雨ふりいでし庭の木々朴の若葉はぬるることなく
地表s29p77    朴の木の落葉銀杏の木の落葉手入れとどきし木下にたまる
群丘s31p12    たしかなる形となりて朴の木の若葉はすがし春の曇に
冬木s37p15    朴の葉に味噌も漬菜ももりて焼く飛騨の炉のへの朝がれひにて
形影s42p23    おのづから檜葉のしげ山をぐらきに朴の青葉はさやけかりしか―再掲


〔ぼたん〕
しろたへs17p58  牡丹の花をはりに近き須賀川の古園にして一日しづけし
しろたへs17p58  ひとつづづ牡丹をみれば花びらに降りける雨のしづくを持てり
しろたへs17p59  曇ぞら風のたえたる古園に牡丹を見れば盛りすぎつも
しろたへs17p59  おのづから過ぎむとしつつ花びらの落ちたるものは土にうつくし
しろたへs17p59  残りたる花といへどもゆたかにて牡丹ゆらぎぬ風いでしかば
群丘s34p49    うちつけに牡丹あかるき庭に入る千仏院といふ寺の庭
群丘s34p49    むしあつく雨の晴れたる昼すぎに黒牡丹の花おもくしづまる
形影s44p74    牡丹照る長谷寺に来てさいはひの一日に集ふおもひこそすれ
形影s44p74    さわがしく人みちみつる長谷寺にゆく春の花かがやきやまず
星宿s57p79    牡丹さく花の明るさ凝視してうときわが眼をはげますあはれ
星宿s57p79    ゆたかにて輝く花を見たまへとわれに伝ふる声の聞こゆる ?