熊   本   地   震         





  ⑥ 「歩道」十二月号作品


 松永ケイ子(熊本)


落石に注意の看板いく所阿蘇への道に萩の咲きそむ
復興の車輌連なり萩尾花女郎花咲く阿蘇の迂回路


 坂田保美(熊本)


倒れたる墓石直す余裕なく盆を迎へて先祖へ詫ぶる
やうやくに避難先より帰り来し友の顔見て元気わきくる






  ⑤ 「歩道」十一月号作品


 松永ケイ子(熊本)


煩雑なる被災者支援の手続きにくたびれはてて夫帰り来
資材なし職人なしと待つのみに期限を越さば補助金なしとぞ
いく度もブルーシートを補修していつかわからぬ屋根屋待ちをり


 坂田保美(熊本)


傾きてゐし君の家崩れ落つるさまを避難所にあわて知らする






  ④ 「歩道」十月号作品


 荒木精子(熊本)


春の夜の月はあまねく激震に崩潰したる家々てらす
余震つづきねむれぬ幾夜贈られし六甲の水にこころ和ぎゆく



 松田幸子(熊本)


地震後に豪雨襲ひて前向きに植ゑたりし田が水に沈めり


 松永ケイ子(熊本)


震災の家々解体進みゐて不意に開くる視野にとまどふ


 坂田保美(熊本)


通らねばならず壊れし町を行く壊れしにほひに無念湧きくる
将棋倒しとふ言葉そのまま倒壊の家並の中に日々を送りぬ 





  ③ 「歩道」九月号作品


 島田幹夫(熊本)


車中泊続けゐる妻常よりも多くの花を庭に植ゑをり


 森田良子(熊本)


ざわざわと音高まりてゆるる家動けぬ夫を咄嗟に思ふ


 中山弘子(熊本)


地震のあと心身疲れ深くして回復おそきを独り哀しむ


 足立セツ子(大分)


地震にて車中泊して居ると言ふ友の声益城町より届く


 松田幸子(熊本)


残生も少なからんにかつてわが知らざる大き地震の襲ふ


 松永ケイ子(熊本)


アパートの壁は日毎に崩れ落つ住人何処に如何に過すや


 坂田保美(熊本)


わが家のみ残して倒壊せし町に肩身の狭き思ひに暮らす






  ② 「歩道」八月号作品



 古賀雅(福岡)


騒然とテレビもラジオも携帯も地震避難の警報を告ぐ


 島田幹夫(熊本)


樟若葉に守られをれど天守閣甍崩れて土をし晒す


 堀和美(香川)


チヤンネルを切り替へたればただならぬ緊急速報激震つたふ


 森田良子(熊本)


地震知らす携帯電話の鳴りをれどわがいかにせん動けぬ夫と


 福谷美那子(神奈川)


震災の日より車中の暮しとぞ大分の友されど明るし


 菅原龍美(大分)


身をゆする地震の強さに怯えつつ一人部屋にて朝明けを待つ


 中山弘子(熊本)


かすかなる揺れにも目覚むる夜の続き日すがら夢遊病者のごとし


 米倉アサ子(福岡)


熊本の建物被害五万超ゆ日々の生活いつ落ちつくや


 矢野圭子(福岡)


激震に恐怖走りて真夜中に家族相寄り一夜を過ごす


 渡邉珪子(大分)


熊本の地震久留米も強く揺れ震度五強の地震の恐さ


 足立セツ子(大分)


車中泊すと言ひ電話切りし友益城町より連絡途絶ゆ


 松田幸子(熊本)


被災せし屋根を被ひしブルーシート強風吹きてふくれはためく


 松永ケイ子(熊本)


ラツプ敷く器によそふ避難食せめてととのへん一汁一菜


 村嶋暁美(熊本)


わが誇る熊本城も被害受く震度六なる脅威あらはに



 大槻スエ子(宮崎)


予告なき地震に怯えすごす日々震源地遠く住むわれさへも


 柴田照子(宮崎)


揺れ激しく地震警報に身がまふる一人居の夜に不安つのりて


 金津紀久子(石川)


城も陥ち今なほ余震にをののける被災地思ふ雨降る一日


 大森恵美子(愛知)


震度四余震の報道つぎつぎと彼の地に住まふ姪を案ずる


 井上力(千葉)


最大震度7強記録し熊本の余震がすでにひと月つづく


 松尾節子(千葉)


子の家にて地震におびえし一夜明け熊本城の惨状を知る


 小林よし子(福岡)


半日をベツドの下に隠れゐし猫は余震にまたも身構ふ


 林田美奈子(千葉)


熊本地震に母の生家は全壊し従弟は家の下敷きになる





  ① 即 詠 録


  松田幸子


この世とも思へぬ地震(なゐ)に二度もあひ全ての事のこだはり捨つる
振り返る八十四年のわが恐怖「大阪空襲」と「熊本地震」と
震災の片付けしつつ終活を重ねて思ふ老いたるわれは


  村嶋暁美


入浴の最中(さなか)に地震襲ひ来て夢中に飛び出し夫を呼べり
避難せし体育館の揺るるたび(をさな)抱きしめ収まるを待つ


  松永ケイ子


ヘリの音サイレンの音鳴り止まぬ余震の闇に夜明けは遅し
片付くる手は止めぬままとくとくと被害の無き言ふ電話聞きをり


  坂田保美


大地震に電気も水もなき暮し物と(すべ)とを出し合ひ過ごす
この世とは思へぬ揺れに見舞はれてテーブルの下に呆然とをり



  小笠原静香


未だなほ余震続けど気晴らしに来たるバラ園千紫万紅
唐突の激震ありて無意識に気づけばわが身卓下に居たり
くづれゐしお城の石垣天守閣目の当りにし呆然となる


  島田幹夫


繰り返す余震に怯えテレビ見る壊れたる屋根倒れたる家
ドンといふ音先立つる地の(おご)(なぶ)られてをり無力のわれは