歩道叢書(平成 その6)

    歩道叢書(平成 その六) 

  
逆 光(平成九年)  西村雅直
高層のビル建ちて昼の日の差さぬわが庭寂し妻の病みつつ
越前の鶴仙渓に先生を思ひ居しその時既に亡きかも
ひと刻の晴間に見ゆる白根山雪つむ峰に噴煙なびく
谷汲は桜の花に賑はへど茂吉の歌碑の辺り静けし
菊の花浮かべて立てし湯に浸るわが七十三の秋ゆかんとす


  
花を吹く風(平成九年)  岩沢時子
萌え出でし野の草摘みぬ栄達も既に無縁のひとりとなりて
職なくば鳥禽のごとき明暮かひとりの昼餉庭に対ひて
東京に住む子が帰りゆきし夜花を吹く風雨になりたり
髪冷えて目覚めし夜半に窓よりの月光浴びてゐたるうつしみ
もの忘れをみづからに許しこの日頃家事にしばしばタイマー使ふ


  
雲の反照(平成十年)  四元仰
父の命終らんことを怖れつつ雲の反照のなかに眠りき
離り住むこの二十年老父の苦を知らず父もわが苦を知らず
強ひらるる怠惰のごとく耕さぬ田があり秋の雨に水漬きて
わが子らの争ふ聞けば争は即ちやみがたき希みより来る
広々と絨緞を敷く図書館となりてわが靴かるくいそしむ


  
根々見の里(平成九年)  山上松根
わが夫真面目に農せしは何年かクーデターの外なしといきまく
何ごとも命がけなるわが夫三ケ月の入院に色紙五百枚書く
わが夫が預かりて居し茂吉の遺髪歌碑に納めて今ぞ安らぐ
潮ひきし河口近くに集まりて老ら蜆を賑はしく掘る
千年の公孫樹は空を覆ひゐて風なきに落葉一面に敷く


  
光る雲(平成九年)  高橋正幸
あるときは(おご)りあるときは挫けしが今常凡の日々に安らぐ
簡素なるもの勁くして裸木の冬晴の空に今しいきほふ
看取る者なきまま息を引きとりし父によぎりけん思ひは何ぞ
孝養を尽くさず父母を逝かしめし悔を負ひつつ新年迎ふ
札幌に春近づくか排水溝流るる融雪の水音清し


  
海 辺(平成十一年)  松帆喜美代
いざりつつ部屋すぎゆくに掌は足裏のごとくかたく亀裂す
金属を入れたる脚のやや重くわが意思になき動きともなふ
明石海峡すぎて大阪湾に入る遠近もなく満ちてゆく船
沈めたるケーソンは紅き円型の灯の集りを夜の海に置く
なゐの後幾日ひたすらに励みしが障害者われつひに立ち得ず


  
灯(平成十一年)  堀江登美子
言ふまじき言葉おさへて黙しをり青菜も茄子も美しきいろ
古の芭蕉のごとき装束を着せてわが父を柩にをさむ
午前五時四十六分激震に電池飛び出しし時計指しをり
夜着のまま駆けつけくれしわが子らに聞く町の惨はかり難しも
奥底にあたためて来し言葉あり五年の月日ささへくれにき


  
つゆくさ(平成十一年)  鬼形いつ子
湛へたる水位の動きなきダムに山垂直にうつるさびしさ
かつて我が母に送りし単衣もの着たる跡なし形見に貰ふ
あきらめを愚かと思ふ日もありき在り在りて今心順ふ
荒き波たゆたふ安房の広き海潮目さやけく夕づかんとす
はからずも道をききしがきつかけにそれより長き友となりたり


  
杉 森(平成十一年)  佐藤和子
息つきて来し山の田は夕暮れて風に揺れゐる青のすがしさ
その文字の乱れて終るカルテ繰り夫遺しし診療請求を書く
亡き夫の怒りし時の呼び声と思ひ目覚めて寂しうつつは
独り居のわが気儘なる所作なれや月光及ぶ卓に酒のむ
衰へし母看取りつつ思ひをり寡婦われの七年支へたまひし


  
楠若葉(平成十一年)  金子米子
静かなる蛇崩の道蔦からむ古りし豆柿に秋日あまねし
黄に萌ゆる楠の若葉にしぶきつつ光となりて釜滝は落つ
切り取りし肺の側より冷えてきぬ覚めし朝床にしばらくをれば
新年の集ひに疲れ臥す母とあと幾年か共に過ごさん
四照花の白き花咲き先生を偲びつつゆく蛇崩の道


  
霧の音(平成十年)  佐藤スミヱ
梅雨の雨降りつづくわが茶工場の蒸気はひくく軒下を這ふ
茶畑に敷藁をする姑の背のをりをりひくく畝にかくるる
パン生地に卵黄を塗る七時間経ちてからだの漂ふごとし
やうやくに初乳飲み得て納屋隅に仔牛は産毛光りて眠る
人に言ふ悲しみならず病む夫見舞ふ暇なく牧草を刈る


  
墨 縁(平成十二年)  森谷耿子
群がれる石も流れにふす草も秋日に旱く川原をゆく
春さむき夜の机上に墨を磨るわが息をきくごときしづかさ
逝く夏の水に浸せるわが硯面のくぼみの深からなくに
われの立つ浜の大地の震ひつつ響きかさねて寄する昼潮
たわいなく落語に笑ふわが生の余白のごとき昼のひととき


  
午後の風景(平成十二年)  岡本千代子
幾度も摘まれし茶の木つやつやと青葉のひかる峡の秋野は
茫々と海原のごとき黄浦江行き交ふ船の銅鑼の音ひびく
行きずりに人声かける此の街は子等の故郷わが終の家
雪原に下りし丹頂鶴の群こうこうと鳴き白き息はく
自転車の事故にて頭に怪我をなし夫は白布に包まれ眠る


  
寂 静(平成十年)  石井清恵
来年をわれは思はず鶏頭の朱眼にとどめ夏をゆかしむ
椎山にとよもして吹く風音をこの寺に嫁し五十年きく
視力なき夫の手をとり歩くなど思ひみざりしわが老の日々
病む夫に代りて御堂に経を読み打つ鐘の音はわれを救へる
寂静にいまだ及ばぬわれなれどこの寺守り年積みゆかん


  
海鳴り(平成十一年)  柳照男
雪渓をくぐりて峡に出でし川とどろき上げて一気に下る
雪解水たたへしダムを覆ひつつ移らふ春の霞明るし
売る牛に食はす飼ひ葉を俯きて切りゐし父をわが忘れ得ず
亡き母に老いていよいよ似る姉の逢ひて喜びわれに微笑む
年長くわれの務めて迎へたる定年何故にかく寂しきか


  
延 寿(平成十一年)  石井きく
登り来し山頂に立ちて思ふさま春のいぶきを吸はんとしたり
昨日の夜の嵐やみたる朝まだき丹沢の背後に雲わだかまる
病む窓に常見えてゐる寺庭の泰山木の花ひらきそむ
この日頃老の日かぞへ顧みる誰彼となく世話になりたり
元日の輝く朝日ありがたし庭にパンジー勢ひ咲けり


  
早春残照(平成十一年)  山崎正男
いち早く朝の霜とけてうるほへる田の麦青し寒明のころ
蝕終へてまどかになりし月の照るゆふべの庭に虫の声満つ
病みつぎし年暮れゆかん葉牡丹の紫の葉に夕光照る
シベリアは雪降るころか木枯の吹く夜は抑留の日々よみがへる
逝きましてはや十年かおしろいの花咲きて暑し立秋今日は


  
循 環(平成十一年)  種子島敬司
当然の循環としてあたらしき年を迎ふるわれと老父
十五にて母失ひしわれなれど喜寿を迎へし父もあはれか
亡き父の一周忌ちかく晴れしけふ墓地に来りて墓石をみがく
無情医者といはばいふべし野良猫となる運命の子猫処分す
殊更に掌を合はすことなきわれが執刀のときひそかに祈る


  
紅 梅(平成十一年)  嶋崎重八
青空に高く伸びゆく飛行雲裾細りつつ風にたゆたふ
川底をめぐれる鯔のつぎつぎに短剣のごと光るたまゆら
一人来て踏む飛石に高きより花椿落つ湿りたる音
わが背にもさしてゐるべし木洩日は歌碑の面を疎らに照らす
音たてて降りくる夜の俄雨草木のごとくわれも潤ふ


  
辛夷の花(平成十一年)  小林智子
蝦夷菊の種など蒔きて芽生えくる尊きものをわが庭に待つ
雪解けにぬかりゐし畑踏みごたへあるまで凍みて夕日きらめく
鋤きゆきて冬のさむさに晒さるる土の断片光眼に沁む
庭木より雛を導きゆく百舌の厳しき声をわれも聞きをり
空海の修業の遺跡つつましき遍路となりてわれは訪ひ行く


  
冬 果(平成十一年)  香川末光
口寄せて目の塵吹けば髪さへも老いし香のする妻あはれなり
月光にまぎれぬ星の輝きのさやけく中秋のしづかなる空
三百年の銀杏そびゆる安曇野の墓地に娘の骨を納むる
日本人ゆゑはるばると日本に来て縁を得ぬ人の世あはれ
ながく病む人をかなしむ夜の卓に昨日よりある黄色の冬果


  
雨 水(平成十二年)  佐藤志満
花の種蒔くと息切れ耕すは風呂敷一枚くらゐの畑
次第なく心乱れて臥しをれば飲食のことどうでもよけれ
蝶にても炎暑に中ることありやわが庭に来ずこの二三日
少しづつ咲く冬の薔薇瓶にさし分きて寂しき夕飯の時ぞ
美しき羽なびきつつ極楽鳥踊るを見れば万物かなし


  
時 差(平成十二年)  富田涼子
オーロラの緑漂ふ中空にまれに光りて流星のあり
草焼きし跡の見えつつ阿蘇山に昼日の差せど光るものなし
朝の日の差す階段に今日の塵光の束のなかにて動く
灯を浴みて売らるる観賞魚動きつつ自ら放つ光のあはれ
夕おそくわが帰る家休日に昼の空気をまとめて通す


  
椎 森(平成十二年)  秦信一郎
埋立の海に続ける鉄塔の上に広がる雲やはらかし
日没の早くなりたる道の辺に無人精米所淡き灯ともす
緑なす広き川原は戦跡の瓦礫運びて成りてゐるとぞ  
(エルベ河畔)
転任の決りし妻がワープロを打つ音きこゆ雨降る夜更
親の苦情聞きつつ思ふこの親も子どものままに親となりしか


  
歳 月(平成十二年)  鈴木元臣
軽飛行機の操縦しゐし長男の墜落を聞く法事の席に
価格破壊まともに受けて客減りしわが店深く冬の日がさす
フアミコンの硬質の音二階より聞こえて孫ら帰りゐるらし
人あまた詣でくれあり雨に遭ひし花遭はぬ花墜落の跡
子の逝きし悔しみみづから発条(ばね)として働き来りし歳月おもふ


  
傘 寿(平成十二年)  森とみか
ひび割れの田に水かへし稲群は夕べ応へのごと露光る
みかん植ゑ梨桃作り乳牛も飼ひてわが農五十年経し
廃園となりたるわれの葡萄畑棚の上まで泡立草伸ぶ
小康を得たる夫は梨の木が呼びゐると言ひ剪定はじむ
八十歳を共に過ぎたる夫とわれ百姓やめて祈祷札受くる


  
栄 光(平成十二年)  牛窪又一
噴水の立つ公園の樟若葉風吹くなかに輝き放つ
宇宙船より見たる無限の暗黒に地球が蒼く光りゐるとふ
朝けより空澄み晴れし日の夕べ時惜しむごと雉鳩の啼く
二十年前われの肺癌手術せし主治医と語る恩愛深く
一瞬の判断により決められし運命積み来て米寿となりぬ


  
過 客(平成十二年)  安嶋彌
新しきやしろはなほも昏れのこり神鎮まりて二千歳すぐ
シベリウス聞けば思はず涙して七十五歳の夏逝かんとす
癌告知ふたたびありて帰るさの夕焼空の朱高かりし
長江の黄濁の水舷をうち流れは迅し太古のままに
若き日に親しみたりしニーチエに年老いてまた心ときめく


  
通 雨(平成十二年)  鈴木真澄
日盛りのとき静かなるわが店に入り来て床を歩む鳥あり
咲かぬより咲くとき寂しわが庭の青ひといろの朝顔の花
先生の忌日にきたる大河原峡の青田に稲の花咲く
育ちたる子らより早く眠りつつ日々のやすらひみづから寂し
これといふ会話なけれど夫とゐて朝の珈琲湧く音楽し


  
臨港橋(平成十二年)  菅千津子
いましがた積荷の砂を下し終へ船高々と沖に去り行く
入学試験近づきし子がわが部屋に何言ふとなくときをりに来る
晩秋のアベリアの花乏しきにありとしもなき清しきかをり
モンブランの雪解の水は乳白の流となりて樹の間に速し
春を待つ石鎚の木々根廻りの雪とけて立つただに静けく


  
堰の音(平成十二年)  片山新一郎
冬迫るしるしと思ふ歩む洲の草の踏みごたへ日々に薄るる
浴槽にて死にし老床に臥しをれば未だ身に残る湯の温みあり
患者癒えし夕べは食事に憩ふなど悔積むのみのわが生ならず
空暗むまで雁乱れとぶゆゑか風はなまぐさき香を帯びて吹く
新しき診療棟建ちわが医業継がしめん子の帰り来る待つ


  
さくら草(平成十三年)  青木義脩
ひもすがら南の風が吹き通る田島ケ原にさくら草咲く
このなだり一斉に咲く一輪草葉も花びらも淡き日に透く
発掘を始めんとしてわが打てる杭に尉鶲来てとまりたり
家裏の道雨中に明るきは茗荷の黄なる葉などによるや
強き雨降る朝生まれし児を連れて花咲くわが家に妻戻り来ぬ


  
(べい) (ねん)(平成十二年)  山上次郎
子規忌より帰りし夜ふけ火のごとく心の燃ゆるわれは何せん
ほしいままに生きて老境の思ひなき自らを時に疎むことあり
芋などの根を食ふ冬を喜びし人偲びをり菜園にきて
従ひし人しのびゆく蛇崩の道に音なく桜散り散る
偉しとも愚かとも妻を思ひつつ連れ添ひてああ六十二年


  
宿 雪(平成十三年)  鈴木淳一
日のささぬビルのあはひに幻のごとくに古りし雪残りをり
港口に入り来る漁船どの船もある位置に来て速度をおとす
竹網の上にたひらにたぐり乾す延縄はみな潮じめりせり
工場にたびたびたちて耳をつく製材音はさえて短し
夜半さむきわがしはぶきは部屋に置くピアノの弦にかすかに伝ふ


  
多々羅岬(平成十三年)  越智桂子
夕闇に満ちくる高潮光りつつ岩壁に当たる音重々し
台風の前ぶれの波夜光虫の光りもろとも岸に打ちあぐ
敬老の日に表彰さるる高齢の母が小さく壇に近づく
六十一年生き来しわれをあらしめし昭和の時代遂に過ぎたり
開通にあやかり局は店を出し多々羅岬にて記念切手売る


  
パンの生地(平成十二年)  大賀正美
寒明の暖かき朝のパンの生地ねれば意外に膨らむはやし
閉店の時間近くに来る客を待ちゐて今日も店の灯を消す
パンを焼く仕事終へ来しわが夫この頃部屋をふはふはあゆむ
水槽の中に撒かれし餌に寄りてひるがへりゐる鱏らすさまじ
この夏のまれに日の照る道の辺に百日紅の色冴えず咲く


  
凍 蕾(平成十二年発行)  田野陽
報はれぬ心を救ふひと言のおほけなくして感恩の妻
さしあたり船にして見る川岸の高層建物群灯の層さやか
早生蜜柑ほのかに色づく峠みち秋日耿々の坂をわが行く
二十年夢のごとくに亡き友の処女ふたりわが前に立つ
肝斑ふえて悔の八年過ぎゐると風なき夜半に頭垂れゐき


  
小林慶子全歌集(平成十二年)  小林慶子
百日紅の枝を伝ひて行き来する蟻の動きの静かなる午後
ひややけき土踏みながら対象のなき哀憐のこころきざしつ
覚悟せし永別ながら天かけりゆきたる夫になほすがりたし
花房の長くゆれつつ藤棚の下吹く風にかすけき香あり
祈りあり友ありわれの幸を齢卒寿となりて尊ぶ


  
菩提樹の下(平成十三年)  青田伸夫
火にかざすてのひら薄く皺うけりこの掌の知れるわが過去
誰彼をたのむともなく恃みつつあり経し管理社会の一人
龍のごと蛇行する川みづ赭く機上より見ゆ黄河のながれ
夕闇に擦れちがひしはわが娘逢ひにゆくらし父を見分かず
一巻の経典繰ればあな寂し知性も人の煩悩と説く


  
土明り(平成十三年)  神田あき子
ゆく道に白ざれし朴の落葉ふむ冬越えてたもつ形さびしく
日の光とぼしき橅の木の間よりあふげば春の空ゆらぎゐる
あるはづみに思へば人は共通の敵もつゆゑの交はりのあり
植付を待つばかりなる温室の土の平安をわがのぞき見つ
いちはやく花散りをへて結ぶ実の幾万のキウイ和毛光れる


  
立 雲(平成十三年)  吉田和氣子
わが声の聞こゆる如く聞こえざる如き夫と梅雨の日ながし
歩かなと言へばそのまま家を出づ老いし二人の生活軽し
ふりむけば随きくるわれに安心し歩みゐたりき思へば悲し
七十九のこれがわが顔亡き父母のいづれにも似ぬ顔となりたり
くりかへしわが懐しむ一途にて学びし鳥塚町夜のあつまり


  
冬 園(平成十三年)  村上時子
さむざむと冬日を受けて石鎚の峰の霧氷は青く輝く
退潮となりたる沖のひとところ光のたつは雲ひらくらし
離婚せんと決めたる息子の家の窓をさなの影がをりをり動く
幼らにひそかに逢ひて帰りゆく子の苦しみはわれの苦しみ
見舞ひ来てわれにまつはる幼子のこの言ひがたく健やけき髪


  
花 畑(平成十三年)  舘富江
いちはやく黄の莟もつ金盞花見わたすかぎり花畑にて
夜となればともしびを消すビルの前雀は群れて街樹にこもる
苦しみを与へ給ふも神の愛と知りたる日より心安けし
窓外に大きく立てる山思ひ眠らんとする音のなき夜
カルデラといへど菜の花咲き満ちて四方人住む街はあかるし


  
姉 妹(平成十三年)  多田隈良子・我孫子正子
米国の市民となりて過ぎて来し三十余年の月日重し
墓地買ひて安らぐ如しと夫言ふ吾の心は言ひ難くして
顧みて悔いなき人生を過ごせしと定かに言へる人幾人ぞ(以上、多田隈良子)
惜しまるる若者数多の遺品並ぶ中に月光とふ機のかけらあり
姉の歌稿夜半読みてをり我が知らぬ四十五年の対米の日々(以上、我孫子正子)