年度賞(作品) 年度賞(受賞者一覧)〕   昭和36~57年年度賞(作品) 年度賞(受賞者一覧)


年 度 賞


平成五(二〇二三)年     


  白き百日紅   原田美枝


今年またここの入江に渡り来て憩へる鴨ら二千羽ほどか
昨日の雨晴れたる午後の峡の道空にひびきて竹伐る音す
梅雨のあめやむ空暗く埋立地の入江にせめぐ満潮暗し
網膜の血流障害などと言ふわが身におこることを訝る
家ごもるわれに見よとぞ庭に咲く白き百日紅日にし輝く
コンテナを積み長々と貨車の行く朝より暑き風まきあげて
歯の弱き夫にと衝動買ひしたるバナナは重し散歩のみちに
病みがちのわれら気づかふ長男が帰省し数日テレワークする
道の辺の自生の一樹紫の花咲きてやうやく楝と気づく
海峡よりかすかに潮の上るらし入江の水面冬日にひかる
両の目の瞳孔開きし日の夕べ覚束無きまま食事用意す
夜明け近き四王司山の西の空昨夜見し満月沈まんとする




平成四(二〇二二)年     


  ひぐらし    佐々木勉


弟を看取ると病院へけふもゆく生きて逢へるはあと幾日か
弟の逝きて初七日わがあゆむ渚草むらに浜茄子熟るる
ひぐらしの遠く聞こゆる夕暮れにひとり飯食ふ弟逝きて
こころ病む苦悩つづりし弟の遺品の日記見つつ涙す
手をやすめしばしばものを想ふなど弟の遺品の整理すすまず
初馬を西の方角に向き変へて新盆最後の夕暮れ寂か
波荒らぶ新盆明けの朝の海西方浄土へ手を合はすなり
むし暑き初秋の空にほのじろく浮かぶ孤独の昼の月あり
老い独り酒酌みをれば親しけれ畳にこほろぎ一つ鳴きそむ
悔い多き記憶のみ顕つ寂しさや七十九歳を省みたれば
家族にておせち料理を楽しみし思ひ出はるか今独り老ゆ
歌詠めば老いの心のかく癒えて吹雪ける夜を眠らんとする

令和4年(2022年~)