歌 歴
明治四十三年 石川県に生まれる
昭和二十九年 「歩道」に入会
昭和四十九年 宮中歌会始預選(お題「朝」)
平成十一年 永 眠
・歌 集
『梅擬』(昭和二十年から三十四年)刊行
『飛砂』(昭和三十七年から五十三年)刊行
『聴雨』(昭和四十三年から平成二年)刊行
代表作品(西谷よし子抄出)
汝が遺骨迎へむとして潮速き海を渡りぬ筑紫の国へ
今日よりは母のみ骨の収まりしみ墓となりぬこの山の墓
梅擬の折れたる枝が紅き実をつけつつ雪の中より出づる
梅擬の細かき花が草の上にしきりに散りぬ昼すぎの風
移動せし砂丘の砂に倒されて合歓木いたいたし紅き花咲く
砂闇となりし砂丘は限りなき飛砂のするどき音の連続
砂嵐はげしく立ちて稜線のたちまち移るさまのきびしさ
砂の幕なびきて黒く飛ぶひびきアカシヤ裸木の梢にみちみつ
朝あけに赤きあきつは白山のたにをおほひてほしいまま飛ぶ (歌会始 預選)
脳梗塞癒えて歩めば左右の脚長短あらむか常に躓く
おのづから心は老いて憤り淡くなりゆく日々の寂しさ
出不精となりし自らを励まして雪の日街に肉蕎麦を食ふ
みづからの葬儀の寺も決めしかば心楽しむごとしひと夜は
老い呆けてまだ死なぬ気にゐる吾のたまたま葬の費え試算す
『飛砂』〔五十五年刊〕より(松生一哲抄出)
赤々と篝火たきて暁暗の鰤場へ向ふ船のつらなり
雪風にかがりの焔あふられて火の粉はなびく暗き海の上
五十日の雪晴れしかばビルヂング日ざしを弾き街よみがへる
若竹の皮剥離して竹群の空気かすかに動くときのま
午の日に照らふアカシヤの花の香の匂ふともなし西瓜の畑に
淡き黄の花咲かしめて西瓜畑は暑き日ざしを日々たくはへん
四十七年の勤めをやめてひそめども心孤独といふにもあらず
物忘れかたみに多し妻とわれの四十二年目すこやかなれど
『聴雨』〔平成三年刊〕より(梅崎保男抄出)
愛名の境越えむと若き日々人をうとみて孤を守りゐつ
乞食の境あくがれかにかくに生き貫きて来つ八十一年
家紋など描きて紅き一千の燈篭は瀬の波にたゆたふ
直接の血すぢならぬを知りしとふ幼らあはれ老われあはれ
夕昏るる潟のはたてにひと条の雪しづまりて見ゆるは汀
雪の日を経て庭隈に咲きいづる紅ほととぎす花のしづかさ
雪雲のひと処切れ青空になびく白雲かなしみに似つ
虚飾などおほよそ越え得し境にて残る生のなきことを嘆かず
萱草の黄の花すぎて残る生の夏あさき日々たちまち移る
わが門の白雲木のたちまちに散りし花踏み季ををしまむ