歌 歴
大正十三年 千葉県に生まれる
昭和三十年 歩道短歌会に入会
昭和四十七年 歩道賞受賞
昭和四十七年 歌集『丘畑』(昭和三十年~四十六年)刊行
平成三年 歌集『韮粥』(昭和四十七年~平成二年)刊行
平成三年 永 眠
歌集『丘畑』より(由谷一郎抄出)
ひたむきに兵にはげみしのち十年病みへてここに鶏を飼ひをり
貧しさにつながるごとき雛の声離れきてゆふべの麦畑あゆむ
満々と霜に備へて水張りし苗代昏れてゆくは恐ろし
楢林のうへに朝焼雲うごき麦の芽たてるこの畑暗し
畑靄のあたたかき道昼飯に腕を垂らして人帰り来る
ものの音絶えし真昼の畑にきて翅音さびしき瓜蝿を追ふ
病む母の死の日のために家のうら蕗も茗荷も刈りて掃除す
酒のみて来しわがさびし軒灯の照らす戸袋の下の地下足袋
三千羽の鶏に病のひろがりて喉しぼりなく夜の声々
いつよりか大豆のやうに変形せしわが手の爪を酔ひて見てをり
水銀剤まくと塗りたる石鹸に顔こはばりて夕光にたつ
はざま田の空より昏れてわが歩むめぐり寂しき落水の音
わが上の外灯に砂吹きあたるこのいひがたき音の寂しさ
病む父の余命はかりて籾まくと土やはらかき丘畑に来つ
わが前を脚運ぶ鶏骨のごとき脚に体温のあること寂し
夕まけし青田をゆけばめぐりにてあそびのごときをりをりの風
つらなりて田川を夜も流れゐる水泡をりをり月にかがやく
麦苅りて畑ひろびろと吹く風に牛蒡の幼き丸葉がうごく
杖をつくからだ大儀にうごかして念仏衆が道あるきゆく
木目浮きて春日静かなる寺縁に持ち来し彼岸の扶持米を置く
盆提灯ともれる下に仏等の帰り来て足濯ぐ桶ひとつ置く
子安講にはしやぎしといふ幼子が妻の背中にねむりて帰る
土間すみに靴幾足も脱ぎためて足の育ちの早き幼ら
ながき柄のうごくも寂し日の当る丘の畑に妻鍬使ふ
妻と吾と藷植ゑをればいつしかにめぐり日暮れて二人になりぬ
道ぞひの麦春の日にしみじみと照りゐて行手の空ゆらぎをり
梅雨の月庭に照りゐて茫々と向う寂しき植田の息吹
夕さむき谷田の道に淡紅の楤の芽光るともしびに似て
鶏舎より帰り来るとき道のうへに吹かれて寒き羽毛のあそぶ
かたまりとなりてとどろく椎のうへ小さき冬日風に吹かるる
冬至近きみなみ日ざしに葱の苗けむりのごとく照る畑をゆく
時流よりつねに離りてゐるゆゑに清々として生活貧し
歌集『丘畑』佐藤佐太郎序歌
あらがねの土にしたたる汗ありて生れし歌をわれは尊ぶ
幸はおもむろにして病いえし友の世すぎもさだまりぬらし
風吹けばほこりのなびく丘の畑働く友は健やかにあれ
歌集『韮粥』より(梅崎保男抄出)
韮粥のおもてしづかに乾きつつ煮ゆるかたへに坐りてゐたり
冬日照る田橋に立ちてこの谷に生きのこりたるものの如しも
一日のすでに終りしにはとりがからだふくれて夕日に並ぶ
足嵌るまでに干割れし田に下りて乾びし稲に混じる稗抜く
朝靄の中に伏したる稲を刈りわびしくおのれの鎌音を聞く
秋の夜にさめて思へばこの家に父死にゆきし位置にわが臥す
リンゴ食ふ憂ひなきいまの音ききてベッドの妻に別れ帰り来

