室 積 純 夫 


                     
 
昭和二十年    山口県に生まれる
 (十九歳より作歌を始める)
昭和四十四年   歩道入会
昭和五十二年   「歩道賞」受賞
昭和五十五年   歌集『高架路』出版 
昭和五十六年以降 歩道編集委員
平成元年     歌集『曠日』出版
平成元年     永 眠


  『曠日』より(香川美人抄出)
宵はやき西湖の岸の林にてひかりひきゆく春の螢は

激震に崩れし煉瓦街路樹を柱とし積む小家屋群

大寒の天二時間の輝きをみつつ音なき点滴を受く

自らの死に至る病知りし人身辺にあり苦しかるらん

病む吾のしばしば長く居ぬ家の妻のかなしみ子の寂しさや

われに似る執着の質ありのままに長男が身を屈め読書す

脱ぎ捨てて置きしわが服時かけて繕ひくるる少女子なれば

まぼろしの如わがこころ浄くゐき明けがたに見し父母の夢

        (吉田和氣子抄出)
わが生つたなき常を革むる帰依すべきもの躰をめぐれ

禱もち沈黙をしてたひらがず松の木肌のごときこころよ

現つ世の人のまじはりより受くる苦と内在の苦とせめぐ日々

ゆふべとなれば束のごとくるおぼほしさ憎悪のこころ吾はわれに持つ

わが帰属いづこにもなく下りゆく海のべの坂風つよく吹く

坦々と過ぎてことなき生活は最善にしてこもる寂莫

わが生の理路なりがたく行為なくあぎとふ浮魚の如き悲しみ

新島とならんか日ごと海徳の火山水面を出没しをり

満天星の葉群の天に冬の日の微粒子けぶるあたたかき午

新しき山はもろけれ海風の吹きのまにまにその砂礫とぶ

宵々に酔ひて帰れど吾を待ちをさならしばしまつはりあそぶ

留守居するわが子が出でし電話にて眠気に堪ふる声にものいふ

電車にて伴へるときをとめさび髪をたぐさにしをりわが子は

彼の森に子のまぼろしの顕つまでにこころ浄く且つ弱し病むとき

何時しらず声変りしてものを言ふ子のふるまひに顕つ力あり

長城の蛇行の果の空高く見えて音なし人の群れれど

新聞にしばしばも見る固有名詞人広く知り略称にする

時代相の変転のまにま身につきし言葉にかあらん錆の如しも

類型に見えて模糊たる顔ありと思へば彼等髭をたくはふ

空駈ける流星群の星のごとまぎれてかたちなきわれの生