歌 歴
明治三十七年 愛媛県生まれ
昭和十年 真人短歌会入会
昭和十二年 アララギ入会
昭和二十三年 香川末光・香川美人等と「うづしほ短歌会」結成
昭和二十四年 星雲短歌会に入会
昭和三十七年 「歩道」入会
昭和四十年五月 佐藤佐太郎・志満夫妻を来島海峡に案内
昭和四十二年 短歌研究第十回新人賞受賞
昭和四十六年 永眠
昭和四十七年 遺歌集『憩流』出版
『憩流』より(香川美人抄出)
大渦の中に淀めるところあり浮く流木に海鳥がゐる
海峡はいま憩流の刻にして潮の音やみさざ波ひかる
いま生れし渦にあつまる浮藻など吸ひ込まれゆく音の寂しく
水道の霧にふさがる島の瀬戸煙さきだてて船の出で来る
にぎはひし集ひのあとのさびしさか隣の部屋に畳はく音
おぼおぼと燈台ともる下びにはさ霧のうごく夜の海峡
精錬の島の岬はたかだかと
廃液の重きよどみの黄のにごり海底ふかく層なして見ゆ
鉱滓にて島と島とがつながりし黒き岬は雑草もなし
停年となればさりゆく人らゆゑこの島に一基の墓標も見えず
絶えまなく鉱吹き分くる機械音島のいづこにゐても聞こゆる
おほよその竹に花咲き笹枯れて蜜柑の貯蔵庫そのなかに建つ
癌疾に闘はんと思へばすがすがし旅ゆく如くわが家を出づる
担送車より施術台に移されるわが体氷室の床におかるる如し
無影燈おほひかぶさる下にして青き光のみつる寂けさ
青き光みなぎる中に沈みゆく物体のごときわれが現身
戻り梅雨の定めなきひと日昏れる頃点滴三本了へて疲るる
眠り足らぬ朝ながら朝は清々し病棟五階に聞く蝉の声
肺機能恢復計る手だてにて護謨風船を吹きて苦しむ
人の命生きゆくさまの苦しさを長病みて知るみづから哀れ
(佐藤佐太郎弔歌)
ともがらの君のみいのち過ぎたりと安房の海のべに聞きて悲しむ
(佐藤志満弔歌)
つひに亡き君を思へば来島の渦潮の音きこゆるごとし